どこの100均でも買えるシールです
「中森さん、これを」
頑張ったで賞。なんつって。
くだらない冗談やダジャレなんて言うイメージのない大林さんが、照れ笑いを浮かべた。
両手で差し出されたシールはアヒルがニヒルに笑っており──とてもシュールだ。
「これは?」
「皮肉屋のアヒルの子ってシリーズなんですけど。憎めない顔してて可愛いですよね」
質問の意図を取り違えた大林さんがアヒルを指差した。一番憎たらしい笑みを浮かべている。女の「可愛い」の基準が未だに俺はよく分からない。
「いやなんでシールなのかなって」
何に対しての頑張ったで賞なのだろうか。
互いに特段仲のいい同期でもない。隣の席同士で業務を行っているが、他部署の人間であり、あまり会話を記憶がない。今日だって残業しているが、業務量の愚痴合戦に花を咲かせることもなく。
今の今まで、キーボートの合奏をしていただけなのに。
「いつも作成していただいている資料ですが、いつも丁寧かつ綺麗にまとめられていてとても助かっています」
「はぁ。どうも」
「中森さんたちの部署の仕事が私たちの業務に深く影響してくるので、締切日をはるかに巻いて提出していただけることは本当にありがたいと常々思っています」
「い、いきなりなに?」
理由を知りたいだけなのに、まさか褒め殺しにあうとは。唐突な言葉の数々に身体がむず痒くなる。
「でも……それが当然と思ってしまうのが私は嫌だったんです」
真面目な表情を覗かせた大林さんが、俺をまっすぐに見つめた。
「本当にありがとうございます。仕事だからって笑っていますけど、私なりに中森さんの頑張りへ尊敬を込めたくて……これを」
目がかすむ。疲れで滲んでいるわけじゃない。労わりの精神がじんわり広がっていく。
見慣れた百均のロゴに笑みがこぼれる。あぁなんて単純で、嬉しい気遣いなのだろうか。
「ありがとう。……ちなみになんでこのアヒルなの?」
「中森さんが笑った時に似ていて」
「俺、こんな意地悪な顔してないって」