エピローグ
お母さんはみるみる回復していった。
『もっと休んでていい』と言っているのに、赤ちゃんの世話だけでなく、いつの間にか家のことまでしていたりする。
「リリー! リリーはいる? 王城からの使いが来てるよ」
門番がうちに知らせに来たのは、そんな頃だった。
「ドラゴン退治を完遂したそうです。負傷した者もいるため、現在ドワーフも含め全隊が医療設備の整っている王都に向かっています。今回の功労者であるリリー殿には、国王陛下へ任務の報告する際に同席していただきたく、王城までお越し願います」
私が功労者? 照れ臭い……
しかし、そんなことよりも気になるのが、『負傷した者』がいるという点だ。
「あの、負傷者っていうのは……?」
「申し訳ないですが、我々もそれ以上のことは知らないのですよ」
王城に行けば全て分かるはず……
「お母さん、行ってもいい?」
「行くしかないじゃないの。そうだ、王城でお父さんに会えたら、『帰るまでに男の子の名前を考えておいて』って伝えて。リリーのせいで女の子の名前しか用意してなかったんだから、くれぐれも忘れないでね」
お母さんは快く(と言っていいかは分からないけれど、ともかく)送り出してくれた。
ドワーフの森の外で待機していた王家所有の馬車に乗って、私は王城へ向かった。
王城では、お父さんが私のことを出迎えてくれた。
「お父さん! よかった、元気そうで安心したー。『負傷者がいる』って聞いてたから」
「ああ、火傷を負った者や、尻尾が当たって骨折した者がいる。だけど、死者が出なかっただけでも御の字としないとな。そっちはどうだ、問題なかったか?」
「こっちは赤ちゃんが産まれたよ。男の子!」
「そうか、きっとお前たちもがんばってくれたんだろうな……ん? 男の子?」
お父さんの後ろには、ウィル様がいた。
目が合った瞬間、お互い笑みが溢れた。
「さっそくで申し訳ないんだけど、父上と母上のところに来てくれる?」
私たちが応接の間に入ると、国王様と王妃様も間もなくやってきた。
「リリーさん、短期間に移動ばかりさせて悪かったね。でもウィリアムが今回の報告には、どうしてもリリーさんに『同席してもらいたい』と我儘を言うのでね」
ウィル様は『ええ』と言って、にっこり微笑んだ。
「報告を始める前に、父上にひとつ確認させていただきたいことがあります。ドワーフ族と交渉するにあたって、父上は僕に『その場で判断を下して、交換条件の提示なりをしてもよいという権限』を下さいましたよね?」
「確かに与えた。それは議事録にも残っているはずだ」
「安心しました。では、報告に入ります。まず、これまでのドワーフ族の王国に対する貢献度は計り知れなく、その忠誠は疑う余地がありません。そこはいいですよね? よって、このたび族長を正式なドワーフ領の領主として任命することにしました! あっ、ちなみにこれにより、人質制度は自動的に廃止となりました」
『ふん、ふん』と頷きながら聞いていた国王様は、カッと目を見開いた。
私は息を飲んだ。
大丈夫かな……
心臓がドックンドックン胸を叩いてくる。
ウィル様はそれでも粛々と報告を続けた。
「さっそく新領主には兵力の派遣を要請しました。そして、それに応じたドワーフの部隊が見事ドラゴンを討伐した、という次第です」
真剣な表情をしていたはずの国王様が突然、『わっはっは』と楽しそうに笑い出した。
緊張していた私は、それに驚いてビクッと動いてしまった。
けれど、目が潤んでしまうほどほっとした。
「ウィリアム、素晴らしいアイデアだな!」
ウィル様は姿勢を正した。
「でしたら、僕個人への褒美もいただきたく存じます」
「ふうん、とりあえず何がほしいのか言ってみなさい」
「リリーと婚姻する許可を」
ぷはっ! ここでぶっ込んでくるの?
「はあ!?」
声を出したのはお父さんだった。
「未成年が結婚なんて絶っ対にダメだ、ダメっ! 許さん!」
「えっ? リリー、君って未成年なの? 付け髭を付けてるのに?」
そっか、その辺のことをウィル様には説明してないんだった。
「でも、お父さん、私は来月で成人するよ?」
ウィル様は大きく安堵のため息を吐いた。
「何だ、よかったー」
「よくなーい! こ、こ、このロリコン王子め!」
お父さん、不敬すぎっ!
「族長、『ロリコン』は酷くないですか?」
「どこがだ。15の娘と結婚しようとしてるくせに」
「えーっ、15? 来月成人するんじゃなかったんですか?」
「ドワーフは16で成人なんだよ、悪いか!」
あれ? この部屋でその話をしたとき、ウィル様はいなかったんだっけ?
そっか、メリー伯母さんを呼びに行ってくれてたのか。
「歳下だって分かっただけでも軽く衝撃なのに! 童顔だとは思ってたけど、実際そんなに若かったんだ……それなのに、僕ってばリリーにキ……おおっと」
ウィル様が慌てて口を手で押さえた。
お父さんがウィル様に詰め寄る。
「おい、今何て言いかけた? まさか俺の娘に『キスした』とか言うんじゃないだろうな?」
「きゃー、きゃー! お父さん、はっきり言わないでよー!」
ついでに、国王様と王妃様も私のことをまじまじと見てこないでくださーい!
そこでウィル様が『おっ!』という顔をした。
「コホンッ! 僕も漢です。言い逃れはしません。責任はきっちり取らせていただきます」
「何が『きっちり取らせていただきます』だ。ただ責任を取りたいだけだろが! 俺は認めないからな。それでも結婚したければ……王国の婚姻制度に則って、保護者の同意が要らない20歳になってから好きにすればいい……」
「お父さん、本当!?」
「それで充分です。ありがとうございます!」
私とウィル様は笑顔で視線を交わした。
「それにしても4年かー。長いなー。でも猶予をもらったと思えば……リリー、後出しでごめんなんだけど、王子妃教育を受けてもらわないといけなくて。また王城に戻ってきてくれる? 引き続き、テオと礼儀作法と歴史の授業を受けてほしいんだ。自然科学はどっちでもいいよ。それと、外国語も追加でお願いしていい?」
「が、外国語ですか!?」
うわっ、すごいのが後出しされた!
「……あの、工房は?」
「これまで通り、授業の合間に通ったらいいよ。時間は少し短くなっちゃうけど」
それなら……うん、外国語も我慢できそう。
国王様が考えるように言った。
「しかし第一王子の妃が庶民の出というのは、いささか体裁が悪いな。族長、正式に領主となるのだから、爵位も受け取ってもらおうか……」
「爵位!?」
お父さんが苦虫を噛み潰したような顔になった。
「領主なんだから男爵になるのは当然だろう。それに今回のドラゴンの件があるから陞爵して……子爵、いやいや伯爵……」
「……辺境伯」
「それだ! ウィリアム、冴えてるな。族長ほど辺境伯を名乗るのに相応しい者もいないし決まりだな」
「爵位なんかもらったら、面倒な義務が増えるだけでしょう。気楽な暮らしが性に合ってるドワーフには無理です。ドラゴン退治に協力したっていうのに、褒美どころか何の罰ですか? 娘は取られるし、踏んだり蹴ったりですよ!」
お父さんがどれだけ喚いても、国王様はまるで聞いていなかった。
「ウィリアムの成人祝いを仕切り直して、族長の爵位授与式に、それから婚姻は4年後としてもまずは婚約式だけでも……忙しくなるな」
「あらあら、どうしましょう。楽しみすぎるわ」
王妃様がクスクスと笑った。
END
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