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4. 力を合わせて⑥

 3日前の朝、ドラゴン討伐隊は慌ただしく村を出発した。

 門が開けられると同時に、大イノシシたちは走り出してしまったのだ(ほら、情緒のへったくれもない子たちだから)。

 お父さんは、お祖父さんとお祖母さんに『村のこと頼む!』と口早に言い、私とサイラスには『家族のことよろしく!』と叫んで、飛び出していってしまった。

 お兄さんは去り際に頭を下げていった。お兄さんも斧部隊のメンバーなのだ。

 そして、それを馬に乗ったウィル様が大急ぎで追いかけていく羽目になった。

 そのせいでウィル様とは話すことができなかった。

 でも私が手を振ると、それに王子様スマイルで応えてくれたから不安はない。

 ウィル様との再会をただ楽しみにして待っていればいいんだ。


「伯母さんのところに昼食を運んでくれる?」


 お母さんに頼まれて、私はメリー伯母さんの家に向かった。

 途中、北の山に視線をやった。

 ドラゴンに変わった様子は見られない。ウィル様やお父さんはまだ着いていないのかな……


「伯母さーん、昼食を持ってきたよー」


 メリー伯母さんは、足は石化して動かないものの、手は自由に使える。

 だから、メリー伯母さんが座っている位置に合わせてテーブルを持ってきて、昼食のパンと具沢山スープをそこに乗せた。


「わあ、おいしそう!」


「お母さんが『例のハーブをしっかり入れておきましたよ』って」


 メリー伯母さんはため息を吐いた。


「苦いのよね。おいしいはずのスープが台無しになるくらい」


「だけど、石化病に効くんでしょ?」


「そうなの。我慢するわ」


 メリー伯母さんは村に帰ってきて以降、医者や薬師と一緒になって、石化病の治療法を精力的に探っている。

 これまでに石化病を患ったドワーフたちは、すっかり諦めて、完全に石化する日に向けて準備をするばかりだった。だって、治った者はひとりとしていないから。

 ところがメリー伯母さんは違った。

 そして、石化の進行を劇的に遅らせるハーブを発見するに至ったのだ。

 次の目標は、石化を解いて元に戻す方法を見つけることなんだって。

 そういえば、メリー伯母さんも前・族長の娘だったなってことに思い当たる。

 石化病が不治の病ではなくなる日も近いかも?


 メリー伯母さんの家を出て、また北の山を眺めた。

 日に何度も見る。外に出たら取り敢えず見ている。

 ドラゴンがゆったりと這う姿も、炎を吐く姿も、砲弾で攻撃されている姿も見慣れてきていた。

 その私が、どうも様子がおかしいと感じた。

 目を凝らすと、のけ反ったドラゴンの身体がキラキラ光った。

 すぐにピンときた。

 矢だ、矢が反射して光ったんだ! それ以外に考えられない。

 ドラゴンが火を噴いた直後、その身体はよじれた。

 またドラゴンの身体がキラキラと光る。

 あっ! ドラゴンが倒れ……?

 そこから下は、生い茂るドワーフの森の木々に遮られてしまい見えなかった。

 村の中を走り回ってドラゴンを確認できる場所を探したけれど、見つけられなかった。

 きっと高い場所に登らないと見えないんだ。


 汗だくになったところで断念して家に戻った。


「姉さん、いいところに!」


 サイラスが叫んだ。


「医者か助産師を呼んでくるから、姉さんは母さんについてて!」


 サイラスが横をかすめていった。

 あれ? 今『助産師』って聞こえなかった?

 お母さん、『まだ産まれない』って自信たっぷりに言ってたよね?

 さっきまで走り回っていたから、息が上がっていた。

 それでも、お母さんの元へと急いだ。


 お母さんは私を見て、のん気に言った。


「サイラスが慌てすぎなのよ。陣痛が来たからって、すぐには産まれないわ。まだまだ時間がかかりそう。もう5人目ともなると、」


「はいはい、『こういうのは何となく分かる』って言いたいのね。でもお母さんのそれ、信用できないから」


「ごめん、ごめん! リリーもサイラスもびっくりしちゃったわよね……あっ、陣痛の波が来た、ふう、ふう。リリー、ここ! ここを力いっぱい押して」


 指定された尾てい骨の辺りを押した。


「弱い! 握りこぶしを作って、もっと思いっきり押して」


「えっ、こう?」


「そう。ふう、ふう、ふう……ありがとう、波が引いてきたからもう押さなくていいわ。でもまた陣痛が来たらお願いね」


 ついさっきまであれだけ苦しそうだったのに、すでにケロっとしている。何とも不思議だ。


 助産師がやってきたあとも、私とサイラスは働いた。陣痛が来たら尾てい骨を押したし、助産師の指示に従って清潔な浴布とお湯も準備した。

 太陽が沈み、外は薄暗くなっていた。


「あと2、3回陣痛が来たら産まれるよ」


 そうして産まれたのは男の子だった。

 お母さんはその子を抱きながら、ボソッと言った。


「涙の別れのとき、『女の子だ』って断言してたわよね……」


「断言はしてない! まあ、『女の子な気がする』とは言ったけど……でも、細工師にはなるかもしれないでしょ?」


「ならないと思う。言っておきますけど、リリーの予言も信憑性ないから」


 ううっ、ブーメランになって返ってきてしまった。


「ごもっともです……」


 私とお母さんは『ぷぷっ』と笑った。


「どんな職業を選んでくれてもいいのよ。うちの子は何を選んだって、やり遂げられるはずだから。そういえば、リリーは来月成人だけど、どうするの? 工房で細工師として正規採用してもらうの?」


「あー、どうかな……」


 それは、ウィル様がいつ迎えに来てくれるかに依るかも。

 『王子妃になります』って言ったら、お母さんはどんな顔をするんだろう?

 それとも、『王城の工房で細工師しながら王子妃にもなります』っていうのはあり?

 それはウィル様に要相談かな?

 王妃様はきっと応援してくれる(依頼までくれそう)。

 ウィル様は……ウィル様もそうだと思う、うん。

 想像もしていなかった未来。

 人質になるために王城へ行ったはずなのに。

 ウィル様と共に歩んでいくことに迷いはない。

 私はウィル様のお迎えが待ち遠しかった。



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