4. 力を合わせて④
毎日通った工房!
その建屋が見えてきただけでも興奮してしまう。
「ただいま戻りました!」
ありったけの声で叫んだ。
ぱっと見たところ、工房では武器や防具の修繕が始まっていた。
「リリーじゃないか」
「お帰り」
「聞いたぞ。大変なことになってるな」
わーっとみんなが集まってきてくれた。
それに合わせて、私の胸の中では感激の波が押し寄せてきた。
鼻の奥がツンとする。
でも今は浸っている場合ではない。
「みんな、聞いてください。明後日の朝までにクロスボウの矢を作りたいんです。仕事に時間の余裕がある方は、ぜひ力を貸してください」
ドワーフの工房で作る矢は金属製で、矢尻からシャフトまで一体型で鋳造する。
熱してドロドロの液状にした金属を型に流し込んだあと、冷やし固めるのに時間がかかるけれど、矢なら小さいから丸1日はかからないはず。もしかして半日でいけるかも? たぶん、2回は作れる。
斧みたいにたたいて作る鍛造とは違って短時間でできるのだ。
鋳型だって、もしもに備えて量産できるようにたくさんある。
「おおう、本職の俺に任せとけ!」
「リリーの出番なんてないくらい、がんばってやるよ」
みんなそう言いつつも、私には成型したあとで研磨する仕事を与えてくれた。
私が一緒に働きたいと思ってることも、仲間はずれにされたら寂しがるのも、よーく知ってるから!
「今日中に型に流し込むところまでやっておこう。炉はまだ燃えてるよな?」
「鋳型を準備する班と、材料を溶かす班に分かれるか」
「鋳型はずいぶん使ってないのもあるから、しっかり点検してから使えよー」
みんな仕事が早い!
武器防具の修繕をしていた職人を除いて、全員が気持ちがいいくらいテキパキと動いてくれた。
『私も鋳型を』と言いかけたところで、後ろからポンッと肩を叩かれた。
「さすが、俺の娘だ。やるじゃないか」
いつの間にか、お父さんとウィル様も工房に来ていた。
「私は明日からしか出番はないんだけどね、へへっ」
「なら、こっちを手伝ってくれ」
お父さんの手招きについていくと、村の中央広場ではあちこちで薪と大鍋が運びこまれていた。
「こういうときだからな。村一丸となろうと思って提案してみたんだ。各家庭で食事の準備をするのも手間だろう?」
「すごくいいと思う! お祭りのときみたいだね……って、不謹慎かな?」
「いや、それでいい。これも一種の祭りだ。負傷者を出さずにドラゴンを退治して帰ってこられるように祈るんだ」
『負傷者』という言葉にドキッとした。
そういう可能性もあるんだ……
「リリーは母さんたちと芋煮係をしてくれるか? 父さんとウィリアム様はひたすら肉を焼く」
「ええっ、ウィル様にも焼かせるの?」
「俺たち指揮官は、阿吽の呼吸でドラゴンに挑まないといかん。そのための下準備だ」
「そうだよ、こういう状況下で『王族だから』って遠慮されると、結束力に響くんだ。さあ、族長、焼いていきましょう!」
ウィル様は張り切って袖をまくった。
「王城へ行くたびにお馬ごっこをせがんできた第一王子様と肉を焼ける日が来るとは、何とも感無量ですな」
「族長! そういう話をリリーの前でしないでくださいよー」
仲よく肉を焼く王子様と族長……
こんなのってありなの?
「リリー、手伝ってくれるなら早くこっちに来て! お母さんが芋を洗うから、お祖母さんと適当な大きさに切っていって」
「あっ、は、はーい」
いけない、いけない。見てるだけじゃなくて、私もしっかり働かないと!
それほど時間はかからず、次々と料理が出来上がった。
そこで手分けして、村中に知らせに行った。
「食べに来られる方から、いつでも食べに来てくださーい」
最初にやってきたのは子どもたちだった。
「あれ? みんなお髭を付けてるね」
集会所で寝床を作るときにはなかったのに。
「リリーの真似したの!」
みんなして『見て、見て』と見せびらかしてきた。
無邪気で可愛らしかった。
この子たちが大きくなる頃には、髭に関する掟は形骸化するのかも……
そんな考えが頭をよぎった。
そうしたら、付け髭は単なるファッションアイテムになるのかな?
それでいいと思う。
「みんな、格好いいよ。さあ、好きな鍋の前に並んでね。ただし好き嫌いしないこと。何たって髭を付けてるんだから、大人と同じようにね」
子どもたちは『えーっ』とブーイングしながら、ゲラゲラ笑った。
私はボウルに芋煮をよそい、順々に手渡していった。
子どもたちが終わったら、次は護衛の人たちに。
彼らは今夜しっかり休んで、明日の早朝ふた手に分かれて村を出発するそうだ。王城にいる国王様と、前線でドラゴンを山に食い止めている部隊、それぞれに今後の作戦を知らせに行くという。
「今日のうちにしっかり食べておいてください。1日休んだだけでまた移動だなんて大変ですから」
とびきりサービスしたせいで溢れそうになったボウル(しまった、入れすぎた!)を慎重に手渡した。
「ありがとう。でも、リリーさんのほうこそ大変ですよ」
「そうそう。俺らは仕事なんで。リリーさんなんて、慣れてないだろう過酷な旅程にも弱音を吐かなくて、感心したんです」
「おまけに村に着いてからも働いてる」
みんなして『うん、うん』頷きまくるもんだから、恥ずかしくなってしまう。
「そんなこと……」
「ウィリアム様の言った通りでした」
「えっ?」
「王城を出発する前に、『リリーさんには無茶じゃないか』って俺らは言ったんですよ。そうしたら『強い女性だから辛抱してくれるはず』だって。ウィリアム様はリリーさんのこと信じてましたよ」
ドワーフ族に返されたことは悲しかった。
だけど、もし今王城で留守番していたら?
ウィル様がドラゴンを退治したあと、きっとまた一緒にいられる。
でも、ウィル様は遅かれ早かれ結婚することになるはず。
そのときには、私は王子妃様のためにアクセサリーを作ることになるかもしれない。
それくらいだったら……
私を信じて馬に乗せてくれてよかった。
私にもこうしてできることがある。
留守番よりも断然こっちがいい。ウィル様といられる時間は残り僅かだとしてもだ。
私はやっぱりウィル様のことが好きだな、と思った。少しも目減りしていない。
いくら腹を立ててたからって、勿体ないことしちゃった。
残り少ないなら、その時間をなおさら大事にしないといけなかった。
でも、まだ時間は残ってる。明後日の朝まではまだある。
もう怒るのは止めにして、普通にしていこう。
討伐のための荷造りをしていたドワーフや、工房で働いていたドワーフたちも、交代で広場に食べに来始めた。
「リリーも先に食べちゃって」
お母さんがそう言って、私に芋煮を渡してきた。
私はお母さんをじっと見つめた。
「どうしたのよ、リリー?」
「お母さんこそ、座って食べたら? そのお腹、もう臨月なんじゃないの?」
「大丈夫よー。お腹の子はまだ産まれないわ。もう5人目ともなると、こういうのは分かるものなの。あっ、そうだわ、」
お母さんは、少し離れた場所で肉係をしているお父さんに向かって呼びかけた。
「お父さんはこの子が産まれる前に、さっさとドラゴンを倒して帰ってきてちょうだーい!」
「ち、ちょっと、お母さん! 簡単に言いすぎ……」
「そんなことないわよ。200年前は成体の、しかも産卵前で気が立ってたドラゴンだったのに、今回は卵から帰ったばかりの雛でしょ? しかも200年前の記録まであって」
「わっはっはっ」
お父さんが大笑いした。
お父さんが、肉を乗せた皿を手にこっちにやってきた。
「だそうですよ。ウィリアム様もどーんと構えててください。ほら、リリーは肉も食べて力をつけて、明日から工房でしっかり働いてくれ!」
私が想像していたよりも、みんなはずっとずっと明るかった。
悲壮感は微塵もなかった。
それどころか、ドラゴン相手にも『やったるぜー』くらいの気概があった。
私だって、失恋でウジウジしてる場合じゃない。
明日、矢の製作チームでがんばるのみ!
私は気合いを入れるために、肉を頬張って食べた(王城にいる間は絶対にできなかったこと!)。




