4. 力を合わせて②
ウィル様には広間の上座に座ってもらった。
お父さんとお祖父さんはその向かいに座った。
私は迷った末、ウィル様の斜め後ろを選んだ。
外ではお母さんとお祖母さんが、ここまで護衛をしてきた人たちに、『疲労回復効果がありますから』とハーブティーを出している。
「……ドラゴン退治のためにドワーフ族から武器を提供してほしいと」
お父さんは険しい顔をしていた。
「我々ドワーフ族は王国に併合されてからというもの、王家のために宝飾品を作り続け、人質まで差し出してきました。それなのに、王国側から約束を破られるおつもりですか?」
お父さんは偉そうに背中を反らせ、腕組みまでし始めた(絶対わざとだ)。
「いいえ、一方的に破るつもりはありません。ドワーフ族と王国の関係を作り直したいと考えています」
ウィル様はお父さんの態度を気にするでもなく、淡々と言った。
「ドワーフ族が王国国民になって久しく、人とドワーフの間に交流もあり、関係は良好だと認識しています」
お父さんもそれについては同意のようだ。頷きながら話を聞いている。
「族長はここ一帯の自治権を持ち、王国に税を納めています。これはつまり、実質的には領主なわけです。そこで族長には、正式に領主となっていただきたい」
「それで何が変わると?」
「正式な領主となった場合には、国の大事には兵力を出してもらうことになります。しかし、その代わりに人質なんてものは必要なくなるのです」
お父さんの眉がピクッと動いた。
「リリーも、それ以降の人質も、今後要求しません。人質制度を撤廃しましょう」
「それは国王様からのご提案ですか?」
「いいえ、僕からの提案です。ですが、今回は僕に裁量権があります」
あっ、あのときだ。
ウィル様が、『その場で判断を下して、交換条件の提示なりをしてもよいという権限をください』とお願いして、国王様は確かに『もちろん』って答えてた!
「あとになって、ウィリアム様が『独断でやったことだから』と言われても困りますよ?」
「それはないですね」
ウィル様はあっさりと言ってのけた。
「大丈夫です。そもそも父上には、人質制度をもう止めたいと思っている節がありましたから。ですが面倒なことに、200年も続いた制度を『はい、廃止します』では済まされない。大きな被害を出したドラゴンですから、きっかけとして利用させてもらいます」
ウィル様が振り返って、手招きしてきた。
私は立ち上がって、ウィル様の隣に移動した。
「口約束にならぬよう、今回リリーさんにも同行してもらいました。武器提供を了承してもらえるのであれば、この場でリリーさんをドワーフ族へお返しします」
何それ……
ウィル様はお父さんの目をしっかり見たあとで、私に微笑んだ。
でも、その王子様スマイルにときめくことはなかった。
その反対だ。その笑顔のせいで、私の心はズタズタになった。
この状況で、そんなふうに微笑むことができるんだ……
私のことを『人質でなくして、自由にしたい』とは聞いていた。
けれど、それってこういうことだったの?
交渉のカードみたいに、今この場でドワーフ族に返されるなんて……
ドラゴンの問題が解決すれば、私をドワーフの村に置いて、ウィル様は王城に帰る。
そうしたら、それっきりだ。もう会うことは叶わない。
王子様と平民だもん。あー、辺境の領主の娘にはなってるかもしれないけど……
それでこの恋もおしまい。
嘘つき。『人道的な手段でリリーをこの城に住まわせたいんだ』なんて言っておいて!
それに、テオ様やイヴリンさん、修理工房のみんなともこんな形で終わりにさせられるなんて……
私はどうやら自分で思っていた以上に、王城での生活が好きで手放したくなかったみたいだ。
お父さんが『ふー』と長い息を吐いた。
「筋は通っていますね……分かりました。いいでしょう」
「ありがとうございます!」
ウィル様は感激した様子でお父さんの手を握った。
ああ、私の気持ちは置き去りにされてしまった……
そんな場合でないことも理解しているけれど、それでもやるせない思いでふたりの握手を眺めた。
「しかし、動く前に村の全員に話をしなければなりません。そのための時間をください。この集会所でよければ食事と寝床を用意しましょう。みなさん、お疲れのご様子ですから、待っている間に少しでも休息を取ってください」
「お気遣い、感謝します」
それからは、バタバタだった。
1番びっくりしたのはお母さんだと思う。
「えっ!? 王子様に食事なんて、何を出せばいいのよ?」
オロオロしながら、私に尋ねてきた。
「王城からここまでの道中は携帯食しか食べてない。パンと干し肉と水なんだけどね。だから何でもいいよ」
「それはリリーの意見でしょ? 王子様は何でもよくはないんじゃない?」
「そうは言ったって、突撃訪問だったんだから。準備もしてないのに、特別な料理を出せるはずもないのは理解してくれるよ」
私がそこまで言うと、お母さんは腹をくくった。
広間に次々と普段通りの食事を並べていった。
ピッチャーに入ったミルク、グリーンサラダ、きのこのソテーに、パン。それと大急ぎで作ったオムレツ。
「私も食べていい?」
「王子様が『いい』って言ってくれるなら、いいんじゃない?」
ウィル様は自分の隣の空いた席をポンポン叩いて、『おいでよ』と言った。
私はまだ傷ついていた。
それでも久しぶりのお母さんの手料理はおいしそうで、抵抗するのが難しい。
そして護衛の人たちは王子様のそばを避けたのか、そこしか席は空いていなかった。
他に選択肢がなくて、私はウィル様の隣に座った。
「いただきます」
手を合わせて、お母さん特製のオムレツからいくことにした。使用しているのは、村で放し飼いしている鶏が産んだ卵で、これが絶品なのだ。
「ああ、おいしいなー。もう干し肉には戻れそうにないよ。帰路はどうしよう」
ウィル様が嘆いた。
ほら、私の言った通りだ。どれもおいしいんだから、何でもいいに決まってる。
食べている最中に、うさぎ肉のステーキと山盛りのカットフルーツが追加された。
「お母さん、やるじゃない」
『何を出せば』ってあんなに慌ててたのに……
「お隣さんが差し入れてくれたのよ」
へーと思った。
私の家族以外の村民も、ウィル様たちを温かく迎えてくれるんだ……
厄介事を持ち込みに来た、くらいに思われても仕方ないと思っていた。
私が王城で優しくしてもらえたみたいに、ウィル様たちに優しく接してもらえるのはうれしかった。
食後のハーブティーを飲み終わると、子どもたちがキャッキャとはしゃぎながら入ってきた。
髭はないけれど、こういうときだ。目を瞑ることにしたんだろう。
どの子も藁を山のように抱えている。
最年長の子が、ハキハキしゃべる。
「今から寝床の準備をします。まず藁を敷いて、その上に毛皮で作った敷き毛布を被せます。雑魚寝で申し訳ありませんが、どうぞ体を休めてください!」
来る前に『こう話してね』と大人にお願いされて、練習もしたんだろう。
『よく言えたね』と褒めたら、『へへっ』とはにかんでいた。
子どもたちが藁を敷くのを、ウィル様たちも手伝った。
「この毛布、寝心地いいな」
「俺、寝相悪いから端っこでもいいか?」
「訓練合宿を思い出さない?」
楽しそう……
食事の片付けに来ていたお母さんには、私の心が読めたらしい(5ヶ月間も会ってなかったっていうのに)。
「部屋はそのままにしてあるから、リリーは自分の部屋で寝なさいね」
「はい……」
「あと臭いから、身体を洗ってからベッドに入りなさいね」
「はーい!」
私がそのあと、真っ赤になるまでゴシゴシと身体を磨いたのは言うまでもない。




