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3. パーティーが始まるよ⑥

 その日からというもの、王城内はどこもかしこもピリピリしていた。

 国王様を始めとする王国中の偉い人たちが、連日集まって会議をしていた。成人したばかりのウィル様もそのメンバーに入った。

 それと並行して、地震の片付けがおこなわれた。

 そして、そのついでみたいに、開催されなかった式典とパーティーの飾りも取り外された。

 そのことがとても寂しかった。


 王城を歩き回ると逆に気分が塞ぐし、修理工房に顔を出す気力も湧かなかった(修理の依頼が殺到していて邪魔になるだろうし)。

 結局、私は部屋に籠り、窓からドラゴンを観察ばかりすることになった。

 あっ、今ドラゴンがのけ反るのが見えた(自慢の視力で)。

 おそらく、軍隊が攻撃をしたんだろう。

 しかし、効いていないのか、すぐに体勢を戻すと……

 きゃっ、火を吐いた!

 怖ろしかった。

 けれど、私は目を離すこともできなかった。

 震えながらも、目を釘づけにした。


 イヴリンさんも詳細は何も聞かされていないようだった。

 私と同じように本当は不安を感じているはずなのに、平静を装い粛々と業務をこなしてくれた。

 こういうときだからこそ、余計にイヴリンさんがいてくれることの有り難みを感じた。


 私に色々と情報をくれたのはテオ様だった。

 非常時だとしても、そんなことは植物には関係ないことだ。私とテオ様は日課の庭仕事を続けていた。

 私たちには他にできることもないから、というのが正直なところだけど。


「残ってる記録によると、ドラゴンが最後に目撃されたのは200年前なんだって」


 それって、ドワーフの村が襲われたのと同じ時期……

 昔話に登場するドラゴンは真実だったんだ。


「そのときのドラゴンが卵を産んだけど、卵はずっと眠ってて、それがこの前の噴火の熱で孵化ったんじゃないかっていう話だよ。学者がそう言ってた」


 テオ様は毎朝情報をアップデートしてくれた。


「翼はあるけど小さく退化しちゃってるから、どうも飛べないらしいよ。だけど火を吐くから厄介なんだって。遠くから攻撃してるんだけど、体が固くて矢をはね返しちゃうんだ」


「そうなんですね」


 私は相槌を打ちながら聞くことしかできなかった。

 それからどうにもならないこの状況に、テオ様とため息を吐いた。


 そのため息が霧散するかしないかというタイミングで、後ろから声をかけられた。


「リリー、一緒に来てくれないか?」


「ウィル様!?」


 ウィル様はいつもの軽やかな口調ではなかった。

 雰囲気も全然違った。柔らかくなくて、ピリリッとしている。


「父上が君と『話したい』と言ってるんだ」


 国王様が? 私と?

 ウィル様とは、ふたりで踊ったあの日から会っていなかった。

 顔が疲れているように見えた。

 そんなの当たり前だ。

 私の胸は締め付けられた。

 すぐにでも行きたいと思った。

 でも、まだ庭仕事の途中だった。テオ様ひとりに押し付けるわけには……

 テオ様をちらっと見て、私は思わず目を見張った。

 テオ様がとても大人びた表情をしていたからだ。


「残りは僕がやっておくから、リリー、行ってくれる? 何の用かは分からないけど、父上が呼ぶなんて、きっとすごく重要なことだよ。僕からもお願いします」


 会議がおこなわれている部屋のドアを開けると、視線という視線が私に集中した。

 足がすくんでしまった。

 ウィル様は、私が萎縮していることに気づいたのか、『聞きたいことがあるだけだから』と優しい声で囁き、席まで誘導してくれた。

 しかし用意されていたのは、これまた座るのが躊躇われる席だった。国王様の正面で、周囲も偉そうなおじさんたちに取り囲まれて!

 けれど、その一方でそんなことを言っている場合でないことも理解していた。

 さっさと座るのが正解なはず……

 声が震えてしまったけれど、かろうじて聞き取れるように『失礼します』と言うことはできた。


 椅子に浅く座ると、ウィル様は私の肩を軽く叩いた。『僕がいるから安心して』と言われた気がする。

 そのときになって、自分がつなぎ服で国王様の前に座っていることに気がついた(庭仕事中に呼ばれたから)。

 でも、それを気にする余裕のある人もいなかった。


「リリーさん、単刀直入に状況を説明させてもらおう。情けないことに、我々ではドラゴンに手も足も出ない。矢は当ててもはね返されてしまうし、砲弾を投げてもしばらくは退くがまた戻ってきてしまうあり様だ。時間稼ぎにしかなっていない。とりあえず麓にある町の住人らは避難させているが、砲弾を使い切ってしまえば王国中が危険にさらされる……」


 部屋の空気がピンッと張り詰めた。


「ドワーフなら……ドワーフの武器なら、ドラゴンにも有効ではないだろうか? そこでだ、ドワーフの助けをどうにかして貸してもらいたいという結論に至った」


 それで私をここに呼んだんだ。族長の娘である私を。

 ──ドワーフの武器を、ドワーフ以外の者の手に渡してはならない。

 これはドワーフの掟だ。

 確か、ドワーフの武器を過去に流出させたことがあったんだけど、その武器を使ってまんまと襲撃されて大変な目に遭ってしまった教訓からだとかって。ドワーフの武器で攻撃されたら、ドワーフでも敵わない危険性があったってわけだ。


 またもや部屋中の視線が私に集まる。

 怖いし、緊張するし……

 でも、考えるんだ。

 族長の娘としての回答が求められている。適当な回答ではいけない。

 脳裏に、私のお父さんとしてではなく、族長として振る舞っているときのお父さんの姿が浮かんだ。

 心臓は依然ドックンドックン大騒ぎしているのに、頭だけ冷静になっていく感覚があった。

 今回だけの特例という形でも何でもいい。とにかく掟を破れる? 破れない?

 今回、武器がほしい理由はドラゴンを退治するため。これは明白だ。どこをどうしたって疑いようがない。

 なら、問題はドラゴンを退治できたあと、人がその武器を手にドワーフと戦う可能性があるかってことだろう。

 いや、ないよね……

 ドワーフは今や王国国民で、国民としての義務だってきっちり果たしている。王家がドワーフに争いを仕掛けるメリットなんて見当たらない。

 そして、このままドラゴンを野放しにしていたら、ドワーフの村にまでやってこないという保証もない。

 だったら、今の時点で王家に恩を売りつつ、ドラゴンを退治してしまいたいところ……

 どう? お父さんなら……ううん、族長ならそう考えるんじゃない?

 それとお父さんのことなら、族長の立場を脇に置いていいなら、ドワーフの掟だとか建前だとかなんて本当はどうでもよくて、とにかく協力したいって思うんでしょ?

 この場でお父さんと答え合わせできないのが残念だった。


「何とかなるかもしれません」


「おおっ!」


 全員の顔が明るくなった。


「父上、ドワーフの族長には、これまで守り通してきた掟に反する決断をお願いすることになります。交渉には、第一王子である僕に行かせてください」


 国王様は一考したあと、重々しく頷いた。


「ウィリアムの言う通りだな。くれぐれも頼んだ」


「この任務に全力で当たりますが、難しい交渉になるかもしれません。その際には僕がその場で判断を下して、交換条件の提示なりをしてもよいという権限をください」


「ああ、それはもちろんだ。だからこそ、お前に任せたんだ」


「ありがとうございます!」


 ウィル様が『よしっ!』とでもいうように、手をぐっと握りしめた。


「それから、今回の交渉にはリリーも連れて行きます」


「はっ? えっ!? 私ですか?」


 思わず、部屋を見回してしまった。

 みんなして一様に頷いている。


「リリー、来て」


 ウィル様は私の手を取って立たせると、その手を繋いだまま部屋を足早に出た。


「えっ、あの……失礼します」


 部屋に取り残されている偉い人たちに頭だけ下げ、私もウィル様と廊下を駆けた。



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