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3. パーティーが始まるよ②

 私はネックレスに続いて、イヤリングの製作に取りかかった。

 その頃になると、王城ではウィル様の成人を祝う式典とパーティーの準備が始まった。

 すると、王城内はにわかに活気付いた。

 みんな忙しそうなのに、その忙しさを含めて楽しんでいるように見える。

 まあ、私は完全に蚊帳の外で、私の生活には何の変化もないんだけどね。

 卑屈になっているわけではない。だって、当たり前のことなんだから。

 ただ、ウィル様も多忙になってしまったようで、お茶のお誘いがめっきり減ってしまったことだけは淋しかった。

 だけど今はイヤリング……そうイヤリングを作るんだ!


 そう思いながら工房で勤しんでいたところへ、突然の訪問者がやってきた。


「こちらにリリー様はおられますか?」


 イヴリンさんの声ではなかった。

 誰だろう?

 イヴリンさん以外、私に会うために工房を訪れる人に心当たりがなかった。

 けれど、顔を見たらすぐに誰だか分かった。テオ様の侍女だ。

 話をしたことはないけれど、ほぼ毎朝、中庭で会っている。


「リリー様、四半刻ほどお時間を頂けないでしょうか? 第二王子殿下が、衣装部屋までお越し願いたいそうなのですが……」


 テオ様が?

 今朝はあいにくのお天気で、庭いじりはできなかった。

 私に話したいことがあるのかな?

 テオ様は朝会うと嬉々として、前日にあった出来事を話してくれる。

 それは妹たちと同じで微笑ましい。

 妹たちも工房から私が帰ってくるのを待ち構えていて、毎日のように競って話を聞かせてくれた。

 王族のテオ様に対して失敬なんだろうけど、小さな弟ができたみたいだとこっそり思っている。


 それにしても衣装部屋? それと、それってどこのこと?

 でも、テオ様が『来てほしい』と言っているのだ。


「今行きますね」


 私は使いかけの道具を簡単に片付けて、テオ様の侍女についていった。

 テオ様の侍女は最上階へ続く階段を上っていく。


「私が立ち入ってもいいんですか?」


 私は小声で尋ねた。

 ウィル様が初日に案内してくれたときに、『最上階は王族の居住スペースになっているんで、そこへは勝手に入らないでください』と言っていたのを思い出したのだ。


「普段は禁止ですが、本日は殿下から呼ばれてのことですから、いいんですよ。こちらです」


 衣装部屋へ通された途端、テオ様が駆け寄ってきた。


「リリー!」


「わあ! テオ様、その恰好はどうしたんですか?」


 テオ様は正真正銘、王子様だったんだ(おかしな表現だけど)。

 衣装もだし、その衣装を着こなす気品も!


「へへっ。これ、お兄様の成人祝いに着るんだ」


「とってもお似合いです」


「どうしてもリリーに見てもらいたくて、それで呼んだんだ。来てくれてありがとう」


「私も見せてもらえてうれしいです」


 おべんちゃらなんかでなく、率直な感想だった。


「あーあ、リリーにもパーティーに出席してほしかったな」


 式典とそのあとのパーティーに出席できるのは貴族だけだ。当然、私にその権利はない。

 本心では、私だってそのことは残念に思っていた。

 だけど、ウィル様の成人を祝う宝剣の製作には携われたんだしね、うん。

 そう考えることで、自分を納得させたのだった。


「リリーを困らせてはダメだよ」


 パーティションの裏からウィル様の声がした。

 ウィル様もいたんだ!

 袖のボタンを留めながらウィル様が、こっちにやってきた。

 うっわあ……

 言葉なんか出てこない。

 見惚れることしかできなかった。


「僕には何も言ってくれないの?」


 ウィル様はおどけたけれど、『格好いい』とかそんな言葉では言い表わせない。


「何て言っていいのかも分かりません……」


「ね? お兄様もスゴいでしょ?」


 テオ様は誇らしげだ。


「まあ、僕はこれでも主役なんで」


 さっきから私の胸はドキドキしっぱなしだ。

 この気持ちが何なのか、今では知っていた。

 ドワーフの村で読んできた絵本や童話には出てこなかった。学問所でも教わらなかった。

 けれど、王城に来て書庫から借りてきたたくさんの物語にはそれが書かれていた。

 本によってその描写はまちまちだ。

 その登場人物の性格や境遇、立場なんかによって、引き起こされる感情や行動は異なる。

 それでも核となる部分はどれも、私の胸の奥にあるものと同じだった。

 だから、ウィル様に対して私が抱いている気持ちはこれなんだ、とすぐに思い当たった。

 それは『恋』と呼ばれるものだった。


 ウィル様は、成人を迎える日に、この衣装で式典に臨まれるんだ。あの謁見の間で。


「私も出席したかったな……」


 意図せず、本音がこぼれ落ちてしまった。


「リリー……」


 ウィル様が真顔になった。

 しまった!


「そ、そういえば、王妃様から依頼されていたネックレスとイヤリングをもうすぐお渡しできそうなんです。ネックレスはもうできてて、イヤリングももうじきで……」


「いよいよかー。母上はそれはそれは楽しみにしてるよ。『急かしたらダメよね』って我慢してるだけで。実をいうと僕もなんだけどね」


 なぜウィル様が、王妃様のアクセサリーを?

 ああ、そっか。この仕事の架け橋をしてくれたのはウィル様だ。だから、最後まで見届けたいって思ってくれてるんだろう。

 そのとき、ウィル様が『間に合いそうだな』とこっそり呟いたのが聞こえた気がした。


 ほどなくして、イヤリングも出来上がった。

 王妃様はきっと立派なジュエリーケースを持っているだろうけれど、『せっかくなんだし』と工房の木工師がネックレスとイヤリングそれぞれに合わせて木箱をこしらえてくれた。

 それにクッションを詰めてアクセサリーを仕舞ったときの達成感は格別だった。

 先にウィル様に見せたかったけれど、最近は本当に時間がなさそうだった。

 心待ちにしてくれてる王妃様を待たすのも申し訳ないし……

 イヴリンさんにお願いして面会の予約を取ってもらい、王妃様に渡しに行くことにした。

 私の仕事を確認したければ、ウィル様はあとで王妃様に見せてもらうなりするよね。


 箱を開いた王妃様は、目をキラキラさせてくれた。


「そう、このネックレス! 待ち焦がれていたのよ。まあ、まあ! デザイン画の段階でも素敵だったけれど、実物はそれ以上だわ。リリーさん、ありがとう。大切に使わせてもらうわね」


 さっそく身につけて、熱心に鏡で確認までしてくれた。

 目の前でこんなに喜んでもらえるなんて、細工師冥利に尽きると思う。

 けれど王妃様は途中で、『でも、』と首を傾げた。


「私はイヤリングの依頼はしていないわ。ネックレスだけよ。もしかして、ウィリアムからの依頼だったのではないかしら……ウィリアムに確認してもらえる? でも、おかしいわね。あの子にイヤリングを贈るようなお相手がいたかしら?」


 王妃様は訝しがっていた。

 どういうことなの……?

 胸がザワついた。


 ウィル様は忙しそうで気が引けたものの、確認しないわけにはいかなかった。

 王妃様に言われた通り、ウィル様のところへイヤリングを持っていった。


「あっ、うん。イヤリングは僕が頼んだんだ。きちんと説明しなくてごめんね」


 ウィル様は箱からそうっとイヤリングを取り出すと、空中に吊り下げて静止させ、じーっと観察した。


「よく似合いそうだ。ありがとう、リリー」


「はあ……」


 ウィル様は誰に似合いそうなのかは言及しなかった。

 王妃様にも内緒にしているんだ。私なんかに教えるはずがない。

 私の製作したイヤリングが、ウィル様の恋のお相手に贈られるんだ……

 私は細工師になったことを初めて悔しく思ってしまった。



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