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オンライン生活、辞めました。  作者: 田古 みゆう


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エピローグ(2)

 ずっと一人で部屋に篭って暮らすのは、本当は寂しかったのかもしれない。僕は、自分が思っているよりも孤独に耐えられなかったのだろう。だから、無意識のうちに彼女に固執し、痕跡を探し続けた。


 両親は僕が壊れかけた理由を、知らない。聞いてこない。だけど、薄々は気づいているのかもしれない。僕がネットに依存していたこと。それからもしかしたら、彼女に固執していたことも。だからこそ、僕をネットから遠ざけたのかもしれない。


 結局、彼女とは一度も会っていないというのに。僕は、スピーカー越しの彼女の声しか知らないのに。


 本来の彼女は、一体どんな人だったのだろう。ぼんやりと思い浮かべる彼女の姿は、まるでスクリーン越しに見る女優のように現実味がなかった。この部屋と彼女の偶像は全くのミスマッチな気がして、少し可笑しくなった。彼女がいない故郷(ここ)は、とても静かで穏やかだ。


 僕は、のそりと立ち上がる。そして、大きく伸びをした。窓辺へ近づき、カーテンを開ける。窓から見える空には、相変わらずの天の川。それに、大きな月が浮かんでいる。満月のようだった。その光が眩しくて、僕は目を細める。窓を開けると、夜風が気持ち良かった。散歩をしてみようかな。ふと、そんな気持ちになった。


 今なら人に会うこともないだろう。それにここは、比較的殺人ウィルスの脅威も少ないらしい。


 僕は、上着を手に取り部屋を出た。外は真っ暗だ。東京の街とは違い、星がよく見える。空気も澄んでいる気がする。田舎の夜は、東京とは比べ物にならないほどに暗い。それでも、全くの暗闇ではない。灯りがないだけで、視界に映るもの全てがはっきりとしている。


 僕は、ゆっくりと歩き始めた。誰も歩いていない道路。街灯がポツリポツリとあるだけ。車もほとんど通らない。


 あてもなく歩く。どこまでも続く田んぼ道を真っ直ぐに進む。草木の青臭い香りが鼻腔をつく。


 しばらく暗闇と空気を楽しんでいると、水の流れる音が聞こえてきた。僕は、誘われるように音のする方へ足を向ける。


 橋から川を見下ろす。清流は月の光を浴びてキラキラと光っていた。幻想的な光景だった。


 川のせせらぎを聞きながら、僕は橋の欄干にもたれかかる。そして、静かに息を吐き出した。東京では、感じることのなかった心地いい安心感。それが、身体中に染み渡っていくのを感じた。


 さぁ、明日から生活の立て直しだ。

 まず、何をしようか。とりあえず、部屋の模様替えだろうか。

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