朔の回顧
朔の回顧
目が覚めたらウチの病院のベッドの上だった、見渡してもそこに凛々の姿はなく兄がベッドサイドの椅子に腰掛けてうたた寝していた。
「兄さ…ん?」
目を覚ました兄は朔を見つめると一言
「あほんだら」
「うん、凛々にはアンポンタンって言われたよ」
「凛々?あぁ、お前を助けてくれた人だな」
「凛々は?目を覚ました時にいるって約束してくれたんだ」
「どうしても行かなければならない所があるって約束破ってごめんなさいって言ってたよ、朔宛てに手紙を書いたからって」
【長良朔さま
朔ってこんな字を書くのね、素敵な名前だね。
目が覚めた時に隣にいられなくてごめんなさい。
今日は母の四十九日でお寺の帰りに貴方に出逢ったの、きっと母が助けてあげてって言ってるんだと思って。
何があってそんなに荒れてしまったのか分からないけど、貴方が生まれて来たことにはちゃんと意味があると私は思う。
居場所がない、誰にも必要とされないと貴方は思っていたようだけど本当にそうなの?
周りをゆっくり見たら貴方を大切に思ってくれてる人が近くにいるんじゃない?
少なくとも私は貴方が大切です。
このまま二度と逢えないとしてもきっと私は思い出すわ、朔は今頃どうしてるかな?幸せになってくれたかなと。
私と母が助けた命、貴方は貴方自身の為にも強く生きて!
人間万事塞翁が馬って言うじゃないの、良いことも嫌なことも半分ずつよ。
貴方の名前の朔ってついたちを表す漢字なのね。
新しく生まれ変わった朔のこれからに星のように沢山の幸いが降り注ぎますように……。
心から祈りを込めて 高瀬凛々】
泣かずにどうして読めるだろうか、彼女は母を亡くしたばかりだったのに俺を心配して介抱して兄を呼んでくれた。
「お前が何度も兄さんと寝言を発していたらしい、家の中で揉め事があって病院や救急車を嫌がるのなら朔が呟く兄ならお前に悪いようにはしないだろうと思って俺を呼んだと話してくれたよ」
「凛々……」
「良い人に逢えて良かったな、約束破ったとか恨んだらダメだぞ、朔」
養父が教えてくれたのは俺は養父の親友の息子で実父と実母は俺が二つの時に交通事故で亡くなったこと。
俺が長良の兄を慕って離れなかったことと日頃から親同士何かあったらお互いが面倒を見るという約束の元に養子縁組したのだと話してくれた。
大切な親友の忘れ形見を亡くすところだったのかと養父と養母から激しく叱られて泣かれてしまった。
(凛々の言う通りこんなに近くに俺を愛してくれる人がいたよ)