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彼は彼女を忘れられない  作者: 瞳湖
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凛々の回顧

凛々の回顧


 「それはそうと高瀬さんは水の江先生のところにいたんですね」

院長先生の言葉に朔のお父様も

「そうなんですか?水の江先生のところに?」

「水の江先生をご存知なのですか?」

「この街にいて水の江先生を知らない方が潜りですよ、あの先生は地域医療に多大な功績を残されているからね、30歳を過ぎたこの街の医者であの先生に教えを乞うていない者はいないと思うよ」

院長先生の話に私はとても偉い先生の元で働かせて貰っていたんだなぁと改めて感謝した。

「その水の江先生がね、うちの凛々ちゃんは元気でやってますかって気に掛けてたからさ、お休みの日にでも顔を見せてあげてくれないかな」

「はい、勿論です、水の江先生は母亡き後ずっと見守ってくれた父の様な存在の方ですから」

しばらくして、私は院長先生と朔のお父様に挨拶をして院長室を後にした。

 私が退席した後の院長室で

「本当に良い娘さんだな」

「水の江先生の話だと若いのに苦労して来たようだけれど、微塵も感じさせない温かさがあって、包み込むような癒しの人だね、義兄さん」

「朔の想いが通じれば良いけどな」

「ダメだったらウチの正樹の嫁にほしいな」

「コラコラ」

そんな話がされてたとは少しも思わない凛々であった。


 朔と出逢ったあの日は母の四十九日でお寺からの帰り道だった。

母は看護師で凛々が四つで父を亡くしてからは女手ひとつで凛々を育ててくれたが彼女が高校生に上がった年の夏に倒れた。

胃がんのステージ3であった。

抗がん剤治療のため一週間ほど入院して退院すれば仕事に出てを繰り返す中で、凛々は看護師になる夢を一旦横に置くことにした。

母の負担を少しでも軽くする為、バイトしたり家事を率先して行ったり、母が入院した時は看病する為に。

医療事務の専門学校に通っている時は母の容態はもうかなり深刻でいつ亡くなってもおかしくないから覚悟だけはしておいてと主治医の先生から言われていた。

 梅雨の中休み、母は旅立っていった。

『凛々、1人になっても貴女は独りではないの、私もお父さんも何時も貴女と一緒にいるから、だから哀しまず何時もの明るく優しい凛々で送って頂戴ね』

そう約束したから通夜も葬式でも泣かなかったのだけれど、母の葬式から三週間ほどが過ぎて不意に

「お母さん、今日は何が食べたい?」

と誰も居ない部屋で声を掛けて

(あぁ、お母さんは亡くなったんだった、私1人ぼっちなんだ)

そう思ったら突然涙が溢れて止まらなくなって子どもみたいに泣きじゃくってしまった。


 朔の命を救えたとしたのならそれは、お母さんが出逢わせて助けてあげてと言ったからだと凛々はずっと思っている。


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