正直な気持ち
正直な気持ち
〜アンポンタン〜
(凛々がゆっくり休みたいって?母に会いたい?まさか嫌ッ凛々に限って…)
マンションを飛び出して外に出ると吹き飛ばされそうな暴風雨真っ只中、こんな中を凛々……。
そう思った時に携帯のメール音がした。
凛々からのメールを見て朔は己が如何に臆病者で頼りなかったのか恥ずかしくなった。
俺は大切なものが見えなくなっていた。
凛々、貴女のいない世界なんてなんの価値もないのに、前を向いて共に歩もうと言ってくれたのに、何をしていたんだ。
朔は走って走って凛々の両親のお墓を前にしたがそこに凛々の姿はなかった。
(凛々のお父さん、お母さん、こんな俺が凛々と一緒に生きて行きたいと言えば反対されるかもしれない、俺の親父のしたことを棚に上げてと言われるかもしれない、全ての非難は俺が受けます、だから凛々を守って行くことを許してください、必ず幸せにするからどうか凛々を俺から奪わないで下さい)
「凛々……」
朔は凛々のマンションにも来てみたが帰っていないようだった。
(凛々!何処にいる?こんな嵐の日に)
まるであの時のゲリラ豪雨のようだと思った朔は
「凛々はあそこだ!」
叫んだ時には走り出していた。
凛々は未来を感じることが出来ず、生きていく意味も見出せず何処に行けば良いのかも分からずそこにいた。
あの日、彼と逢わなけばこんな気持ちになることもなかったのだろうけれど、逢わなければ良かったとは思えなかった。
「朔、大好きよ、貴方の幸せを何処にいても祈ってるから」
そう呟くと涙が溢れて止めようとすればするほどに切なくて哀しくて胸を掻きむしりたいほど苦しくて…。
この涙を拭ってくれる手はもうないことが更に凛々を絶望に追い詰めて行く。
嗚咽が響くその場所の外は、どんどん嵐が酷くなり凛々は私の心みたいだと膝を抱えた。
(最後の最後まで連絡なかったなぁ)
一目逢いたい、せめて声だけでもと思うこともダメなのかとふと外に目を向けると幻?愛しい人が入って来て思い切り抱き竦められた。
「凛々ごめん!!」
「さ、さく?」
「俺がヘタレだからちゃんと向き合えなくて凛々を苦しめてごめん」
「朔が悪いんじゃないから、どうしてココが分かったの?」
「凛々と俺が出逢った場所だから」
「そうか、最後に一目逢えて良かった」
「最後?そんなこと言わないでくれ、俺にもう一度チャンスをくれないか、凛々とでしか未来を思い描けないんだ、親父のことを棚に上げてと思われても俺はどうしようもなく凛々を愛しているから別れるなんて出来ない、今頃気付いてごめん、本当にごめん、待たせてごめん」
「朔?私と未来を歩いてくれるの?」
淡々と問う凛々はまだ上手く理解出来ていない。
「俺が凛々と一緒に生きて行きたい」
凛々は朔を見上げ込み上げる涙を堪えきれず彼の唇に己の唇を寄せて触れるだけの口付けをした。
「朔の負担になるから遠いところに行こうと思ったの、私の思い出は全部この街にあるけど此処にいてはいけないと思ったの」
朔はうんうんと聞いてくれている。
「凛々帰ろう」
「何処へ?」
「俺たちの家に、一緒に住もうって話をしていただろう?引越すつもりだったんだから丁度良いよね?!」
戯けて話す朔の胸を凛々はポコポコ叩いた。
「凛々、こんな俺だけど君だけを愛してるから生涯一緒に生きて下さい、俺と結婚して下さい」
「私で良いの?」
「凛々しかいらない」
「宜しくお願いします」
「凛々、ありがとう」
凛々は朔を見上げてゆっくり言った。
「朔のアンポンタン」
土管に響くアンポンタンの言葉に朔は苦笑いをするしかなかった。