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彼は彼女を忘れられない  作者: 瞳湖
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サヨナラを言う為に

 サヨナラを言う為に


 凛々の退職が朝礼で発表されると皆は一様に朔との結婚の為なのだろうとおめでたい雰囲気になっていたが、一々違うと言うのも面倒だし後の説明が出来ないので黙って微笑んでおいた。

瞳さんと美香さんだけが切なそうに私を見つめていたけれど。

「何もこんな日にって天候だわね」

瞳さんが忌々しそうに話す。

「そうですね」

「こんな大型台風の日に大丈夫?」

彼女が私の気持ちを心配してくれているのが痛いほど伝わって来て大丈夫と答えるのが精一杯だった。

正面玄関に安河先生が居て声を掛けられた。

「凛々さん、本当にこれで良いのか?」

「朔をこれ以上苦しめたくないから」

「これからどうするの?」

「どうしましょう、この街を出て?そうですね、ゆっくり休みたいかな、何も考えず…母に会いたい」

「凛々さん」

「安河先生、お世話になりました」

これといった荷物もなく来た時と同じ身ひとつで去って行く。

制服はクリーニング代を支払えば置いていって構わないと事務長が言ってくれたのでそうさせて貰った。


 安河正樹は苛立ちを隠せなかった。

好意を寄せている凛々が想うのは一途に朔だけで、なのに朔は彼女を悲しませている。

事情は分かるが向き合おうとしない朔の不誠実さに腹が立って一発殴りたい気持ちだった。

しかもこんな嵐の日にあろうことか凛々は退職して行く、そんなことも知らない朔のことが憎らしくなって来た。

「もしもし朔か?」

「あぁ正樹?何か用だった?」

「お前がハッキリしないから凛々さん、この街から出るつもりだぞ、それで良いのか?」

「り、凛々が街を出る?」

「ちゃんと話あったのか?逃げてたんじゃないのか?」

「……」

「凛々さん、今日でうちを辞めた、こんな嵐の中、それでも微笑んで朔を苦しめたくないって健気過ぎるだろ!お前が凛々さんを幸せに出来ないなら俺が貰うけどいいのか!!」

「なっ!」

「反論する気概がお前にまだあるのか?あんなにほったらかしておいて、凛々さん泣いて泣いて泣いてどうにもならないって顔して…ゆっくり休みたい、母に会いたいって思い詰めた顔して出て行ったんだぞ、朔の馬鹿野郎」

正樹の電話を切ると朔は呟いた。

「ゆっくり休みたい?母に会いたい?」

(まさか……)

朔はマンションを飛び出した。


 凛々は病院の最寄り駅で朔にメールを送った。


【長良朔 様


 今までありがとう、こんな風に別れる日が来るなんて思いもしなかったからまだ実感が有りません。

貴方と過ごした日々は短いけれど楽しい毎日でした。

父のことで貴方をこんなにも苦しめてごめんなさい、でも貴方の所為ではないのだからそんなに思い詰めないで下さい。

貴方と出逢った十三年前に母はもう貴方を貴方のお父さんを許していると思う、そうでなければあの日貴方に出逢うはずはなく必然だったのだと思うから。

それでも貴方はきっと私の姿を見れば申し訳ないと思うのでしょう?そんな風に思わないでと懇願しても……。

私、この街を出て行きます、だから貴方は貴方の人生を前を向いて生きていって下さい。


最後に憎まれ口を言ってもいいかな。

私にサヨナラを言わせる為に貴方は私の手を取ったの?

こんなに簡単に離すのなら何故この手を取ったの?

守ってくれるのではなかったの?

長い間一人で生きてきたけど寂しさも不安も感じたことはなかった、なのに貴方と再会して二人で歩む未来を夢見てから私は貴方が居なくなっても一人には戻れない、独り、だって孤独を知ってしまったから……。

こんなに苦しいと知って、こんなに愛しいと知って、どうやって生きていったらいいのか分からないよ、朔のアンポンタン…


               サヨナラ   】

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