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彼は彼女を忘れられない  作者: 瞳湖
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嵐の日に

嵐の日に


 初めてメールを送ったあの日から更にひと月が過ぎていたが、朔からの返事はなかった。

会うことも電話で話すこともメールすら交わせない日々は地獄のようだった。

朔がこれほどまでに悩んでいても私と向き合って話し合いをしてくれないのはどう断ろうか考えているからではないか、既に心の中では答えを出していて伝え方で悩んでいるとしたのなら……。

 凛々は覚悟を決めなければならないと思っていた、朔との未来がないのであれば私はこの街にはいられない。

自分の今までの思い出は全てこの街にあるけれど、朔との思い出が生々し過ぎて到底暮らしていけるはずがない。

何処へ行けば良いのだろう?この街しか知らないのに…、どう生きていけば良いのだろう?朔がいないのに…。

いつの間にか私は朔に依存していたのかな、彼が生きることの全てになってしまっているみたい。

きっとこんなんだから神様は私から朔を取り上げたんだろう。

「お母さん……助けて」

凛々はとても涙脆くなった気がした。


 凛々は院長先生に退職を申し出た。

院長先生は朔と私の両親のことを長良院長から聞いたと言ったので退職の理由を話すことはなかった。

ただこれで良いのか、後悔はしないのかと何度も何度も尋ねてくれた。

「後悔しかありません、好きで離れる訳ではありません、一緒に歩めないと朔さんが考えるなら私には成す術がありません、だって二人の未来ですから」

二週間後の退職日まで周りにも朔にも辞めることを話さないで欲しいと院長先生にはお願いをしたが、安河先生は院長室の外で壁にもたれ掛かりながら

「凛々さん、本当に朔と別れるの?あんなに惹かれ合っているのに?」

涙目の私にそれ以上は何も問わなかったが、ゆっくりハグすると背中をポンポンと叩いてくれた。

「朔に遠慮してたんだけどな、もう遠慮しなくていいのかな、弱っている貴女に付け入るようなことはしないけど朔以外の男にも目を向けて」

安河先生のハグを

「ありがとうございます」

と解いて先生を見上げ

「安河先生、お兄ちゃんみたいにいつも温かく見守って下さってありがとうございました、先生?私には朔しかいないんです、今までありがとうございました」

「朔のやつ何考えてんだ、こんなに凛々さんを苦しめて!」

微笑むだけの私を見て安河先生はそう声を上げて私の代わりに怒ってくれた。

 瞳さんと美香さんには辞めることを三日前に伝えた。

「黙って辞めようと思ったんだけど良くしてもらって黙っては申し訳なくてごめんなさい」

二人とも驚いた後、とても悲しんでくれた、理由は分からずとも朔と何か合ったと理解してくれてるようだった。


 暫くは休もう、今まで突っ走って来たからエネルギーが切れちゃったんだわ、これからのことが何も思い浮かばない。

(ごめんね、私と関わりあった為に貴方がこれほどまで傷ついてしまっても私にはどうもしてあげられない、せめて貴方の目に入らないところに行くからどうか幸せになって下さい)

父と母のお墓にこれからのことを相談に来た凛々は備えてある花を見て朔が来てくれたのだと思った。

花に名前が書いてあるわけでなし何故に朔だと思ったか理由を問われたら答えられないけれど朔だと確信した。

(朔……答えが出たのかな、私との未来はないとハッキリ言われたら私は生きていけない、弱いと罵られてもこれ以上堪えられない)

「お父さん、朔に罪はないでしょう?それなのに私たちは離ればなれに生きていかなければならないの?お母さん、こんなに苦しむ為に朔を助けたの?」

堂々巡りの問い掛けに勿論返事はない。

凛々の苦しみだけが増していった。


 そんな凛々の心を表すような大型台風到来の日がまさに凛々の退職の日となった。

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