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彼は彼女を忘れられない  作者: 瞳湖
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距離を置こう

距離を置こう


 朔の実家からの帰り道。

何を聞いたのかもう一度自分の中で反芻していた。

(お父さんと朔のご両親が一緒に亡くなったって…朔のお父さんの居眠り運転が原因って言ってた?)

「凛々?親父の話が今ひとつ自分の中で消化しきれない、こんな状態で貴女と付き合うのは良くないと思う、凛々?少し距離を置こう」

「いつまで?」

「親父の話を消化出来るまで」

「出来なかったら?ずっと朔に会えないの?」

「凛々、俺の実の父が貴女のお父さんの命を奪ったんだ、この事実はどうしたって変わらない」

朔は私を自宅まで送ると、いつもなら私が扉を開けて中に入るのを見届けてから立ち去るのに今日は直ぐに行ってしまった。

今朝までは明るい未来を描いていたはずなのにどうしてこんなことになってのだろう、泣くまいと思うほどに溢れてくる涙を止める術はなかった。


 どうしたらいいのかわからない、凛々が大変な人生を歩んできたのは俺の父の所為だ、彼女の母親が亡くなったのだってそれまでの心労が溜まった結果ともいえる。

それに引き換え俺は長良に引き取られて苦労を味わうことなく大人になって……実の子じゃないと知ったくらいで荒れて暴れてあろうことが凛々に救われたなんて、彼女の方が何倍もツラい思いをして来ただろうに。

今の俺に出来ることは兎に角、彼女のご両親のお墓に何度かお参りさせて貰おうと思っていた。

何が正解なのか分からないが凛々と歩く未来は諦めなくてはならない、そんな気がして心は塞いでいった。


 衝撃的な事実を知ってから二週間が過ぎていた、表向きは何も変わらないけれど、毎週会っていた朔とはあれから一度も会っていないしメールもしていなかった。

消化出来るまでなんて土台無理な話なのだ、結局のところ全てを飲み込んで共に前に進むのか、別々の道を進むのか。

この頃毎日凛々は寝る時に母に話し掛けてみる、何をどうすれば良いのか教えて欲しいと…当然答えが返ってくるわけもないのだが朔に距離を置かれている今の状態ではひとりで抱えるしかなかったから。

思い切って朔にメールをしてみた。


【朔、お願い連絡して、ちゃんと話そう、前を向いて進みましょう】


既読にならないけど明日には返事が来ると良いと凛々は思った。


 朔はどう返事を返したら良いのか考えあぐねていた。

凛々は一緒に歩む道を選んでくれているが果たしてそれで良いのか、彼女の父を奪った者の息子と彼女が結婚して幸せになれるのか、諦めるしかないのか、そもそも諦めるなんて俺に出来るのか……。

そんな思いを抱えていては簡単に凛々に返事を返せるはずがない。

朔はひとりでは決して答えの出ない問題に囚われ過ぎていた。

そんな悩みも全部曝け出してお互いの思いをぶつけ合っていたらと後悔することを今の朔は知らない。


 「凛々さんこの頃元気ないね、長良先生とケンカでもしたの?」

瞳さんに声を掛けられて首を振る。

「なんかクサクサするんです」

「凛々さん?今日帰り飲みに行く?」

「良いんですか?行きたい」

「美香さんにも声を掛けてみよう、無理だったら二人で行こうか」

「はい、ありがとうございます」

 歓送迎会でもないのに職員同士飲みに行くのが初めてだったと気付いた。

(私、初めてのことがまだ結構あるな)

病院近くのチェーン店の居酒屋でワイワイ騒いで言いたいこと言ってそれはそれで楽しかった。

水の江先生のところにいた時は看護師さんはベテランの年輩の女性だったから飲みに行くなんて関係ではなかったなぁ、同年代と言っても二人とも私より若いけれど瞳さんと美香さんとの女子会は嫌なことをひと時忘れさせてくれた。

けれど家に帰ってひとりになると朔を思い出して無性に泣けて来た。

こんなに誰かを好きになったことがない凛々にとって胸を掻きむしるほどの哀しみをどうしたらいいか分からなかった。

(朔、お願いだから思い詰めないで、みんな終わったことだもの、私には貴方しかいないのよ)

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