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第97話 お前たちは誰一人として生きて帰さん!

 リュザールから聞いた盗賊の基本的な戦術は、馬に乗ったまま村の男たちを蹂躙じゅうりんするというもの。

 だから、私たちが勝つためには盗賊を馬から引きずり下ろす必要があるんだけど、セムトおじさんたちがやったように縄でうまくひっかけるというやり方はやれるはずもない。誰も練習してないからね。


「できたよ」


 毒矢を準備している私たちの元にアラルクがやってきた。


「私たちはもう少し。盗賊は?」


「さっき山をくだりきったみたい」


 盗賊の現在位置を確認するために、村の人が交代で見張りに行っている。

 山をりたのなら、あと少しでここまで来るだろう。


「わかった。用意ができたらそっちに行くね」


 それから間もなく、私たち四人は毒矢がつまった矢筒と二台のクロスボウを抱えて、アラルクたち村の男衆が組み上げた柵の内側に移動した。


「うぅ、ドキドキしますぅ」


「ああ、やべえな。手が震えてやがる」


 ルーミンとパルフィが緊張するのもよくわかる。二人とも戦うのは初めてだし、負けちゃったらそこで人生が終わってしまう。それに、これから人に向けて矢を放つのだ。平静でいられるわけがない。

 ジャバトは……うわ、顔が真っ青。

 うーん、このまま盗賊が来ちゃったら不味いことになるかも。

 もちろん私だって怖い。でも、この中で命のやり取りを間近で見たことがあるのは私だけ。しっかりしなきゃ。


 よし!


「パルフィ、手を貸して」


「こ、こうか?」


 差し出されたパルフィの右手をギュッと握る。汗ばんだ上に少し冷たいかも。


「うん、たくましい手。鍛冶はいくつからやっているの?」


「いくつ? うーん、覚えてねえな。気が付いたら金づちを触っていたぜ」


 小っちゃい頃から鍛冶工房に入り浸ってたって言ってたもんね。


「鍛冶には自信がある?」


「もちろん! 金づちを振り下ろした回数はウソつかねえからな。なんだって作ってやるぜ!」


 パルフィは空いてる左手を上に掲げた。


「これもたくさん練習してきたんじゃない」


 コペルが作ってくれた敷物の上の二つ並んだクロスボウを指さす。


「へへ、そうだな。撃った回数はウソつかねえな。ソル、ありがとな」


 離れていくパルフィの手に少しぬくもりを感じた。もう、大丈夫だ。


「ソルさん、私の手も握ってください」


 ルーミンの手は震えてるように見えないけど……まあ、いいか。

 ふんわりとしたルーミンの手、初めて会った時にガリガリだったのがウソみたい。

 ギュッと握ってあげるとギュッと同じ強さで握り返してくれた。


「はい、ありがとうございます!」


 ルーミン、ニコニコだ。


「そ、ソルさん。僕も」


 今度はジャバトか。

 二歳年下だけど、最近成長期に入ったようでどんどんと背が高くなってきている。もうすぐ追い越されそう。

 お、手の方もなんだか少したくましくなってきているかも。


「ありがとうございます。僕、みんなを守ります!」


「う、うん」


 なんだかよくわからないけど、緊張がほぐれたのならそれで……


「ソル、俺もいいかな」


 この声は、


「ジュト兄まで……え!」


 振り向くとジュト兄の後ろにアラルクを始め、ここにいる村人が全員並んでいた。





〇9月28日(木)地球



「それで、一番後ろには父さんまでいるんだよ」


 朝の散歩の時間、いつもなら川の周りを歩いている頃なんだけど、先にベンチに集まって昨日のことを風花と竹下に報告することにした。


「だって、ソルさんの手を握ると落ち着くんですよ」


「あ、わかる。テラと繋がる前に樹と手を繋いで何度か寝たじゃん。俺もそのとき感じたわ」


 隣の風花が手を握ってきたので、握り返すとニッコリと微笑んでくれた。


「それで樹、海渡くん、どうやって撃退したのか教えて」


「えっとね……」





〇(地球の暦では9月28日)テラ



「皆さん、いったいどうされたのですか!」


 柵の間から一歩前に出た父さんは、少し離れたところからこちらの様子をうかがう盗賊たちに声を張り上げている。


「……」

「……、……」


 盗賊たちが何か話をしているようだけど、その内容はここまで聞こえてこない。


「ひー、ふー、みー、……あちらは10人ですか。数の上では勝ってますが、こちらからいかないですよね?」


「戦闘に慣れている人が少ないからね」


 もしかしたら、こちら側でまともな戦闘経験があるのはアラルクだけかもしれない。


「なあ、ソル。あいつら他の道から村に入るってことは無いのか?」


「大丈夫だと思うよ。ここから川までの間は荒れ地に囲まれていて、道はここしかないんだ」


 そうは言ったけど、実は荒れ地は無理矢理進もうと思えば進むことができる。そして、その先は畑と牧草地だから村まで一直線で行けちゃう。ただ、荒れ地には背の高い草が生い茂っているし、中には刺を持ったものまであるから思うように進めないと思う。だから盗賊がそちらに行ったとしても、もたついている間に後ろから父さんたちがバッサリとやれるというわけ。


「川の向こうからはどうだ?」


「バーシの先のところまでずっと渡れるところが無いよ」


「なるほどな。村に行くためにはここを通るしかねえってわけだ。ところでよ、あいつら盗賊で間違いねえのか?」


「うん、逃げてきた人が飼っていた馬があの中にいるんだって」


 他にも盗賊たちが着ている服の中に、隣に住んでいた奥さんが旦那さんのために一生懸命に編んだ物があったらしい。


「僕も一緒に聞いてたけど、二人とも悔しそうにしてた。かたきを取ってあげたいね」


 そう言ってアラルクは、腰に下げた厚手の皮の袋に入った剣をひと撫でした。


「それにしても、あいつら意外と慎重でしたね。そのままやってくるかと思っていましたが……」


 盗賊を目視で確認できるようになったから先制攻撃をしようと二台のクロスボウを構えて待っていたら、ルーミンの言う通り、射程まであとちょっとというところで盗賊たちは止まってしまった。たぶん柵で道が塞がれているのを警戒したんだと思う。


「ソルさん、あの人たちこのまま帰っていくということはありませんか?」


「ジャバト、それは無いと思うよ。戻ろうにも食料がないはず」


 盗賊たちが来た道を戻ったとしても、人が住んでいた場所までいくには馬で3日……いや、登りだから4日。川向こうを行ったとしても、道がないからバーシまで同じくらいかかったはずだ。盗賊たちがそれだけの食料を持ってきているとは思えないし、戻ったところで食料があるとは限らない。


「お、動きがあったぜ」


 パルフィが指さす方を見ると厳つい体をした盗賊が一人、前に出てきた。


「お前が村長むらおさか。悪いことは言わねえ黙って食料を差し出しな。そしたら手荒なことはしないからよ」


 そんなのウソに決まっている。

 父さんの答えだって、


「断る! お前たちは誰一人として生きて帰さん!」


 あはは、思ったよりも強いものだったよ。

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