第95話 海渡、いけそう?
「それで、そっちはどうなの?」
リュザールとユーリルが、コルカに無事到着したのは朝一番に確認済み。でも、先にカインのことを聞いてもらいたくて、詳しい話は後回しにしてもらっていたんだ。
「もう大変。みんな、荷馬車はどうやったら手に入るのかって集まってきちゃってさ」
今までの倍以上の荷物を一度に運ぶことができる荷馬車。それに歩かなくていいんだから、欲しがっても仕方がないことだと思う。
「どうしたの?」
「セムトさんの指示で今はまだ受付しているだけ。供給できる量が限られているから、ある程度数が揃ってから渡さないと不満が出るだろうって」
おじさんに頼んでてよかった。僕なら注文順にできたかたっぱしから渡しちゃいそうだ。
「それでさ、早速紙が役に立っているんだぜ」
へぇー。
「予約票でも渡しているの?」
「それもだけど、かなり高いから、値段も書いて前もって準備してもらうようにしているんだ」
確かに高価なんだよな。木をたくさん使うので木こりのおじさんの手間賃もそれなりにかかるし、補強のためにパルフィの鍛冶工房の部品もいたるところに使っている。それに、工房にも利益がないと職人さんたちにお給金が払えないから、セムトおじさんの隊商には一台当たり麦50袋で渡す約束になっているんだけど……
「いくらにしたの?」
「コルカ渡しの場合は麦70袋、カインまで取りに来る場合は麦60袋だね」
それくらい手数料は必要だろうね。ちなみに麦1袋がこちらの貨幣価値でだいたい1万円くらいかな。
「リュザールさんたちはそれだけの麦を受け取るのでしょう。運ぶのも大変なのではないですか?」
麦1袋がだいたい5キロぐらいだから、60袋で300キロ。重さもだけど、それだけの量を馬に括り付けるのは苦労しそうだ。それなら、分割にしたらと思うかもしれないけど、隊商同士のやり取りはいつもニコニコ現金じゃなくて現麦払い。掛け販売や分割払いは危なくてできないんだって。まあそうだよね、いつ死んでもおかしくない世界なんだから。
「もちろん麦だけじゃなくて、銅や鉄も混ぜてもらうようにしているよ」
テラでは銅や鉄は麦に比べてかなり高価だから、嵩も減らせるし重さも減らせる。だいたい嵩が十分の一、重さが五分の一くらいになるのかな。それに、工房ではこれからどんどん金属が必要になるから、いくら集まっても困ることは無い。
「なあ、樹。工房で無理なく作れるのは月に2台くらいだよな。セムトさんから聞かれたんだけど」
「東から逃げてきた人が手伝ってくれることになったから、もう1台くらいは増やせそうだよ」
小さい子供がいたから、うちなら一緒でも大丈夫ですよと言って勧誘したんだ。
「それでも3台……ねえ樹、何とか5台にしてもらえないかな。木製なんだから長く置いとけないでしょ。納品のブレをできるだけ少なくしたいんだ」
10台をまとめて納めるとしたら月3台で3ヶ月から4ヶ月が必要で、月5台なら2ヶ月ですむって事か。
出来上がったものはできるだけ早く納めた方がいいというのはわかっている。あちらは雨が少ないと言っても夜露で濡れたり湿気たりするから、屋外に置きっぱなしにしていたらいずれ傷んでしまう。
でも、5台か……
「無理だよ」
「はい、無理ですね」
前にも言ったけど、あちらの世界をよくするためとはいえ体を壊してまでやる必要はない。
「そう言われると思った。だからセムトさんは今回も工房の職人、特に子供を連れて帰るつもりみたい」
子供なら、一度に二家族までという村の人との約束を気にしなくていいけど……
「住むところはどうするの? うちはもういっぱいだよ」
空き部屋もないし、男部屋も女部屋もこれ以上になると寝返りすら打てなくなってしまいそう。
「工房の中の機織り機を置く予定の空き部屋。そこを使わせてもらえないかな。今回は男の子だけにするからさ」
でも、そこは……
「早く機織り機を作ってあげないとコペルの機嫌が……」
今か今かと楽しみにしているんだから、あまり待たせるわけにはいかない。
「竹下君から始めのうちは機織り機は1台だけだって聞いたよ。眠れるスペースだけあったらいいんだ」
それなら大丈夫そうだけど……
「海渡、いけそう?」
「そうですね、あと2~3人というところじゃないですか。それ以上になったら毎回二回戦しないといけなくなります」
だよね。
「風花、あまり増えるとうちの台所では一度にご飯を作れなくなるみたい」
女の子のうちの何人かは日の出前に起きる必要が出てくるはずだ。
「それは不味いね。村の中で子供を預かってくれる人っていないの?」
「頼んだら引き受けてくれるところはあると思う。でも、その子はその家の仕事を手伝うことになるんじゃないかな」
「うぅー、荷馬車を作ってもらうには工房の職人が増えないと……でもこれ以上タリュフさんの家に迷惑かけれないし」
何かいい方法は無いんだろうか……
「ふふ、ふふふふ、あはははは!」
び、びっくりした。
突然、海渡が……今の話の中で笑えるところってあったっけ?
「どうしたの?」
「僕、ここに来るまでドキドキしていたんです。盗賊が来たらどうしよう。死んじゃうかもしれないって。でも、一度話をした後の皆さんは盗賊は撃退できるものと信じて疑わず、むしろ未来のことを考えています。怖がっている僕がなんだかバカらしくなっちゃって、えへ」
そうだったんだ。
「ソルもパルフィもジャバトも、もちろんルーミンちゃんだってボクの優秀な生徒さ。心配していたのは心構えだけ。それもさっき念押ししたから、盗賊相手にどうかされるとは思わないよ」
う、嬉しい。海渡もニコニコだ。
「皆さん、僕にいい考えがあります」
「え、何の?」
「先ほどの子供たちの住む場所ですよ。工房の近くに独身寮を作るんです。地球でも新入社員さんがそこに住むことがあるでしょ」
なるほど、住む場所が無いなら作ってしまおうというわけだ。でも、
「食事はどうする? 女の子が交代で作る?」
それではあまり意味がないかも。
「たまにはそれでいいかもしれませんが、寮母さんを雇うんです。寮生のお給金からの天引きで賄えると思うんですけど」
なるほど。
「ねえ、風花。父さんに聞いてみないといけないけど、OKもらったら寮で働いてくれる人を探して来てもらえるかな」
「わかった。避難民の中に旦那さんを亡くされた人がいるから、声かけてみるよ」
おー、もしベテランのお母さんが来てくれたら安心だ。料理も洗濯もきっちりとこなしてくれるに違いない。
「でもさ、作り始めるのはしばらく先だぜ。やる事がいっぱいあって、家を建てる余裕なんて無いって」
「あ、さっき少し話したけど、東から逃げてきた家族のご主人さんたちは鍛冶工房の方を手伝ってくれることになったよ」
「二人増えるってことだよな。テンサイ畑の開墾もそろそろ終わるし……行けんのか?」
事情を話したら、パルフィも職人さんたちを午後からの全体作業に貸してくれると思う。寮は、鍛冶工房の人たちと共同で使ったらいいからね。




