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第94話 クマ……それって、人に効くのか?

「そうだぜ、二人とも、もし来た時は辛いだろうけど躊躇ちゅうちょせずに()()を使えよ」


「わかってる。申し訳ないけど死んでもらう」


 盗賊に身をやつしてしまった人間は、どんな事情があっても許すわけにはいかない。テラはそういう世界だ。


「でも、()()ってテラの人たちには内緒なんですよね」


「うん、盗賊は死んでもらうからいいとして、工房や村の人には見せない方がいいと思う」


「あのさ、ここでは()()と言わなくてもいいんじゃない。ボクたちしかいないよ」


 それもそうだ。

 今話題にしている()()というのはクロスボウのこと。この前ユーリルとリュザールが作ってくれたんだ。

 僕たちはリュザールの術を習ってはいるけど、それだけでは不安だから何か武器も準備しておこうってなって、力の弱いソルとルーミンでも使えるものということでそれを選んだ。ただ、あまりにも殺傷能力が高いから間違ってテラに広まってしまったら大変。ということで、いつもは隠しておいて、いざというときにだけ使った方がいいんじゃないかって僕は思っているんだけど……


「樹、撃つ練習は?」


「一回したよ。ルーミンと二人で薬草畑に行ってそこで」


 ユーリルとリュザールが出発した次の日に、薬草畑の世話をするついでにやってみたんだ。


「はい、二台ともそれぞれ癖がありましたが、何とか的に当てられるようになりました」


「癖ってどんな?」


「一つは少し右寄りに、もう一つはちょっとだけ下の方に向かって行きますね」


「マジか、同じように作ったはずなんだが……くそ! 試射しとくんだった」


「時間が無かったから仕方がないよ。たぶんだけど、木のりが出たんじゃないかな。乾燥させる暇もなかったし」


「木の反りか……よし、次から気を付ける」


 あちらには定規のような測るものがないのに、地球で覚えた設計図通りに作れるだけでもすごいよ。


「ところで、二人ともちゃんと使える?」


 風花、真面目な顔だ……


「うん。どうしたら的に当てられるかわかったから」


「ほんとに? 二人はそれを人に向けてはなてる?」


「あ……」


 海渡と顔を見合わせる。

 盗賊だからと簡単に考えていたけど、その時に目の前にいるのは紛れもなく人間だ。


「一瞬の迷いが命にかかわるんだからね」


 僕たちは改めて風花に戦うときの心構えを聞くことにした。


「いい。大事な事だから何度でも言うね。殺意を持って向かってきたら、これまでの仲間であっても敵。躊躇ためらわずにる。わかった?」


 竹下も含めて三人でコクコクと首を縦に振る。


「風花は最初からそうだったの?」


「ううん、最初は無我夢中。術を使う余裕もなくて、とにかく死なないために剣を振るってた」


 風花は手に持ったコーヒーを一口飲んで話を続ける。


「育ててくれたおじいさんが亡くなって、生きるために隊商に入ったのは話したよね」


「12歳の時だっけ」


 風花はうんと頷いた。


「本当ならまだ隊商に入れる年じゃないんだけど、おじいさんから武術を習っていたから護衛も兼ねて働かせてもらえることになったんだ。まあ、その時の隊長もおじいさんの術を使えたというのも理由の一つだと思う」


 兄弟子さんかな。というか、風花の他にも術を使える人がいたんだ。


「それからしばらくの間は、行商の仕方を教えてもらいながらみんなと旅を続けていたんだけど、ある時、隊員の都合がつかないまま出発したことがあって……」


「え、そんなときは、セムトおじさんなら無理して行かないはず……」


「うん、たぶん隊長に驕りがあったんだと思う。結局盗賊に襲われて……みんな必死になって戦って何とか撃退できたんだけど、その時の傷が元になって隊長は死んでしまってさ」


 そうだったんだ……


「リュザールさんは、その時に初めて人をあやめたのですか?」


「そうだね。倍以上の人数で来られたから、とにかく目の前のやつをどうにかすることだけ考えて、気が付いたら体中に返り血を浴びて死体の横に立ってたっけ」


 そう言って風花はもう一度コーヒーをすすった。


「盗賊がカインに来るかどうかわからないけど、二人、そして村のみんなが確実に生き残れる方法を考えていこう」






 トイレ休憩をとった後、改めて話を続ける。


「樹、毒ってある?」


 竹下がそう言って、パパっと手元の紙にドクロっぽいマークを書いた。


「あ、うん、あるよ。クマに使うやつが」


「クマ……それって、人に効くのか?」


「効くどころか、ちょっとでも体の中に入ったらすぐに苦しみだして死んでしまうんじゃないかな」


「ないかなって、樹は使ったことは?」


「ない。父さんたち薬師しか扱えないことになっているし、幸いにして、クマが村までやって来ることが無かったんだ」


「ふーん……じゃあ、どうして人に効くってわかったの?」


「たぶんだけど、その毒はトリカブトから作るんだと思う」


「あー……」


 みんな、そうなんだという顔をした。中学の理科の先生が、授業を脱線してそういう話をよくしてくれるんだ。学年は違うけど、海渡も習っているから聞いたことがあるんだと思う。


「ところで、竹下はその毒をどうするつもり?」


「矢にな、塗ったらどうかと思ったんだ」


 矢毒ってやつかな。


「あ、それいい。もし急所を外しても掠っただけで死んでくれるから。二人とも100%命中させきれないでしょ」


 ど真ん中は無理だけど、ソルもルーミンも大きな的のどこかになら当てることができる。掠るだけでいいのなら、そちらの方が気が楽だ。


「わかった。タリュフ父さんに頼んでみる」


 取扱注意の劇薬なので必要な時にしか調合できないようになっているけど、事情を話したら作ってくれると思う。


「それと……樹は反対かもしれないけど、使うときは二人だけじゃない方がいいとボクは思うんだ」


「そうかな。できるだけ人の目に触れさせないほうがいいんじゃない?」


 風花が僕たちのことを心配してくれているのはわかるけど、もし盗賊にクロスボウの作り方を知られてしまったら他の村が大変な目に遭ってしまうかも。


「それならですよ、パルフィさんとジャバトにお願いしたらどうですか? 今はまだ繋がっていませんが、将来地球の知識を得る可能性があるわけですし」


 なるほど、二人が地球の誰かと繋がったら、クロスボウのことを隠していても意味がない。こちらで調べたらすぐにわかっちゃうもんね。


「そのあたりはソルたちに任せるけど、とにかく、自分の命を守ることが第一。二人がいない世界なんて嫌だよ」


「僕も死にたくありません」


 僕だってそう。


「父さんたちと相談しながら準備していくよ」


 工房については自由にさせてもらっているけど、こういうことは村長むらおさの父さんに話さないといけないんだ。もちろん武器としてのクロスボウを作ることも伝えている。それがカイン村のしきたりだからね。

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