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第92話 あれなんですか?

〇9月16日(土)地球



「ふぅ、何とか無事に到着できそうで、ほんとよかったぜ」


 恒例の朝の散歩の時間。僕たちの前を海渡と並んで歩く竹下もホッとした顔をしている。

 新しくできた荷馬車を使っての初の遠出、念のためユーリルもついていったけど壊れることなく明日にはコルカに到着できるみたい。


「ねえ、風花。評判は上々なんでしょ」


「もちろん! みんな欲しがっているよ。それに、乗ってる間は歩かなくていいから御者台は取り合いだね」


 隣を歩く風花は、両手を肩まで上げてやれやれの表情。

 新しい荷馬車はリュザールの所有だけど、今回はセムトおじさんの隊商で共同運航という形を取ったらしい。そうしないと、リュザールだけ荷物をたくさん運べて不公平になるからって。


「それに、途中の村の人たちも興味津々でさ。譲ってくれって何度か言われたぜ」


 行商人じゃなくても欲しいはずだ。現に工房では、木こりのおじさんに切り出してもらった木材の運搬に使っていて、今更馬に括り付けて運ぶとか言われても誰もやりたがらないと思う。


「あ、あのー、もしかして、ご注文を受けられたのですか?」


 風花と竹下を見る海渡の顔は不安そう。


「いや、これは試作品だから、問題が無かったら改めてと言って断ってるよ」


「よかったですぅ。糸車でさえ大変なのに、これから機織り機も作るでしょ。それに荷馬車もとなると、体がもちませんよぉー」


 確かに、いくらテラをよくするためとはいえ、体を壊してまでやる必要はない。

 やっぱり、人手が増えないことにはこれ以上受注を増やすことは難しそうだ。


「荷馬車はセムトおじさんにお願いしよう。無理せずに作れる数を伝えて、その範囲内で誰に売るのかをおじさんに決めてもらうんだ」


「わかった、隊長にはそれとなく伝えとく。元々今回はお披露目で注文を受けるつもりは無かったけど、そうと言えない状況もあるかもしれないからね」


 コルカにはこのあたりの行商人だけでなく工房も集まっているから、今回の行商で多くの人があちらの世界で初めての荷馬車を目にすることになると思う。もしその時に、手に入れたくてもその方法がないとなったら、作っている場所を調べてカインまでやってくる人がいるかも……

 もし、百戦錬磨の行商人がカインに押し寄せてきちゃったら、僕らで対処できるはずがない。ここは、おじさんがうまいことやってくれることに期待しよう。


 あとは……


「ユーリルはみんなについていけるようになった?」


「ああ、ようやく筋肉痛が治まって、歩いていけるようになったぜ」


 昨日までのユーリルは隊商の速度についていくのがやっとで、時折荷馬車に乗せてもらっていると言っていた。


「ふふ、最初の日のユーリルの驚いた顔を思い出しちゃった」


「いや、だって、村を出たと思ったらいきなりみんな早足になるんだぜ。盗賊がいるのかって思うじゃん」


「ごめんね。予定の時刻に次の村に着くためには、急がないと間に合わないんだ」


 でも、僕(ソル)がついていったときはそんなことなかったよな……ゆっくり行ってくれてたのかな。


「風花、いつもそうなの?」


「ううん、次の村でバザールを開く時だけだね」


 なるほど、泊まるだけなら日が落ちる前まででいいけど、バザールを開くとなると日が傾き始める前に着かないといけないんだ。でも、これって……


「冬場はどうしているの?」


「冬は日が短いから、その日のうちにバザールを開けるのは距離が近いところだけだね。他のところは翌日にまわすことになるから、夏の倍近く日数がかかることがあるよ」


 やっぱりそうなんだ。そういえば、寒くなってくるとおじさんたちの隊商が帰ってくる頻度が遅くなっていたかも。


「もしですよ。隊商の皆さんが全員荷馬車を使われたらどうなりますか? 時間が短縮できると思うのですが……」


「うーん、どうだろう。今回初めて街道で荷馬車を使ってみたけど、道が整備されてないから速度をあまり上げられそうにないんだ」


 街道と言っても、道を作ったというわけではなく通りやすいところを人や馬が通って道になっているだけ。だから、ところどころに穴があいていたり石が落ちていたりしている。


「道を良くしたら移動速度も早くなるし、荷馬車も壊れにくくなる。いいことずくめだけど、さすがに俺たちがやるのは無理だぜ。近くの村の人たちに頼まなきゃ。なあ、樹。こういうのって、タリュフさんに頼んだら何とかしてくれるのか?」


「父さんに? カインのことなら村の人に話してくれるけど、他の村のことについては口出しできないよ。それよりも道の舗装って教えてあげないとできないんじゃない?」


「あー、やっぱ、そうだよな」


「一度ローマ時代の街道の作り方を調べたことがあったじゃん。そんなにちゃんとしたものじゃなくていいから、ある程度のやつを教えたらどうかな」


 穴を埋めて、石を取り除いたりするだけでもかなり違うと思うけど、さらに砂利を敷いたら雨が降ってもぬかるむ心配がない。


「りょ! で、誰がお願いするんだ?」


 誰……が?


「ボクは無理だよ。こういうのをお願いをしちゃうと、あとから仕事がしにくくなるから」


 借りを作ったらいけないってことかな。


「俺も無理。知らない人に頼むなんてできっこない」


「竹下先輩は、知らない人の前ではすぐにとちめんぼうを振っちゃいますから仕方がないです。僕も同じく苦手なので、初めての人でもすぐに仲良くなれる天才の樹先輩、つまりソルさんにお願いします」


「ぼ、僕?」


 みんな立ち止まって、ジッとこちらを見てきた。


「わ、わかった。でもすぐには無理だよ。忙しくて村を出れそうにないから」


 工房に新しく入ってくれた人たちはいるけど、ソルが村を離れるにはもう少し村と仕事に慣れてもらったほうがいいだろう。


「そんなに急がなくても平気。荷馬車が広まってからの話だからね」


 少し余裕があるってことか。

 テラの道を良くした方がいいのはわかったけど、他の村の人にお願いしてちゃんと聞いてもらえるのかな……






〇(地球の暦では9月17日)テラ



「ふわぁー、おはよう、ソル姉、ルーミン姉」

「にゃう」


 ルーミンと一緒に井戸で顔を洗っていると、テムスがカァルと一緒にやってきた。ユーリルが旅に出てからカァルには男部屋で寝てもらっている。テムスが寂しがらないようにと思ってだけど、今のところ大丈夫みたい。


「おはよう、テムスくん。今日も可愛いらしいですよ」


「可愛くない!」


 ルーミンったら、嫌がるの知っててわざとやっているな。海渡も小学校の頃はそう言われて嫌がっていたもんね。


「カァル、こっちおいで」


「にゃう!」


 じゃれている二人をほっといて、カァルの顔を拭いてあげる。

 カァルがここに来てもう五ヶ月かぁ。猫というより中型犬くらいの大きさだな。


「にゃう?」


 うわ、おも

 これに飛び掛かられている男の子たちって結構大変なんじゃ……


「おや……ちょっとちょっとソルさん」


 抱きかかえたカァルを下ろしていると、ルーミンから肩を叩かれた。


「あれなんですか?」


 ルーミンは東の方角を指さした。確かに何か点のようなものが見えるけど……


「人?」


「たぶんそうですね。何人かいるようですよ」


 地球の海渡と違って、こちらのルーミンは目がいい。視力測定があったとしたら、2.0は優に超えているんじゃないかと思う。


 それにしても誰だろう。

 この村の東には薬草畑とタルブクに続く山道があるだけだ。今はテンサイ用の畑を作っているけど、今日の作業は午後からの予定だし村の人はまだ誰も行っていないはず。


 もしかして……


「テムス、父さんを呼んできて。早く!」


 嫌な予感がするよ。

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