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第86話 私たちもいつか子供を産むんですよね

〇(地球の暦では8月25日)テラ



 これくらいかな……

 手元の石臼の中を覗き込む。


 あまり細かいと水と一緒に流れちゃうし、かといって中途半端だとだまになってうまく広がらない。


「ソル、どうだ?」


 同じく石臼を持っているパルフィが私の方を覗き込んできた。


「こんな感じ……」


「……あたいも同じくらいだ。もう、いいんじゃねえか?」


 初めて作るから加減がわからない。


「うーん、これで、やってみよう」


 試行錯誤しながらやっていくしかないか。


 今日の工房は、午後から糸車を作る作業をお休みにして、女性陣だけで風花から頼まれた紙を作るための下準備中。

 何をしているのかというと、前もってきれいに洗って天日で干していた羊毛を小さく切って、それをさらに石臼で引き細かくして、紙の元となる繊維状にしているのだ。


 パルフィと一緒に、出来上がったばかりの繊維状の羊毛を風で飛ばないように皮の袋の中に入れる。


「あと、どれくらいやるんだ?」


「2~3回かな」


 トロロアオイの量に限りがあるから、紙をたくさんけるわけではない。


「わかったぜ。後はあたいがやっとくから、ソルは休んどきな」


「え、でも……」


「いいからいいから、朝早くから準備してたんだろ。あたいはさっき来たばかりだからよ」


 パルフィだって鍛冶工房の作業をすませてきているのに……


「ありがとう、少し休んでくるね」


 せっかくだから、お言葉に甘えさせてもらおう。


「そっちはどう?」


 工房の奥の託児スペースにいるルーミンに声を掛ける。


「ふふ、皆さんがいつもと違うことをやっているのが不思議なようですよ」


 ここにいるのは、1歳から3歳くらいまでの小さい子が4人。みんな、今度工房に来てくれるようになった職人さんの子供や孫だ。

 その子たちがお座りして、職人さんたちが作業している様子をじっと見ている。ほんと、可愛らしい。ギュッとしたくなっちゃう。


「手伝おうか」


「是非。はーい、みんな。ソルお姉ちゃんがやってきまちたよー」


 よーし、私だってテムスの面倒を見てきたんだから、子供の世話で戸惑うことは無い……え?


「ちょっ!」


 なんか一斉に集まってきた。


「みんなソルさんのことが大好きですからね。ほら、この子だって」


 ルーミンが抱えていた一番小さな女の子もこっちに手を伸ばしている。

 しょうがないのでそのまま女の子を受け取る。


「よいしょっと……」


「ふふ、ソルお姉ちゃんお団子みたいでちゅねー」


 前にはルーミンから受け取った女の子を抱きかかえて、右ひざの方から男の子が手を伸ばし、左ひざの女の子は掴まり立ちして、背中からは男の子が登ってきている。


「はは……」


 動けそうにないよ。


「危ないから、君はこっちへ……ソルさん、私たちもいつか子供を産むんですよね」


 ルーミンが、背中の男の子を引き受けてくれながら話しかけてくる。


「うん」


 こっちの世界は人が少ないから、子供を育てることができるのなら産んだ方がいい。


「ソルさんは羨ましいです。リュザールさんがおられて……」


「ルーミンにだってジャバトがいるじゃん」


「……」


 あれ? いつもはあいつとはそんなんじゃありませんって言ってくるのに……


「樹先輩が人を好きになるのが怖いと言っていたのがわかります」


「ルーミン……」


「こちらと地球とで……いや、こんなことを言っても仕方がないですね」


 ……そうか、ルーミンはジャバトのことが好きになってきているんだ。だから、地球でジャバトと同じ人格をもった人間が見つからなかった時のことを心配しているんだ。


「あ、あのね……え、えっと……と、とにかく、地球で探そうね」


「ふふ、きっと樹先輩の力で引き寄せてくれますね」


 い、いや、それはどうかと思うけど……


「楽しそうだな。なに、話してんだ」


 パルフィが皮の袋を持ってやってきた。


「おめえたち二人がいると子供が静かだから仕事がはかどるな。ほら、できたぜ」


 袋の中は細かくなった羊毛でいっぱいだ。


「すごい、もう全部やったの!」


「ああ、コツを掴んだら簡単だぜ」


 さすがパルフィ。一流の職人は何をやらせてもそつがない。


「さてと、あたいもここで休ませてもらおうかな」


 そう言ってパルフィは袋の口を縛って脇に置き、私の右ひざの男の子を抱きかかえてくれた。


「ほんと、人増えたよな……」


 子供をあやしながら三人で工房の中を見渡す。


「うん」


 工房には8名の女性と7名の男性が働いてくれている。もちろん、その中には私たち三人も含まれているんだけど、こんなにも人が増えるとは思ってもいなかった。


「託児所を作ってよかったですね。ほら、お母さんたち嬉しそうに働いてくれてますよ」


 先日新しく工房に来てくれた若いお母さんたちは、たまにこちらを見ながら二人並んで洗って干しあがったばかりの羊毛をほぐしている。


「うん」


 ほんと助かったよ。村で孫の面倒を見ていたベテランのお母さんたちも来てくれるようになって、一気に人手が増えた。糸車の製作スピードも上がってきているから、もう少ししたら機織り機にも取り掛かれると思う。

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