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第84話 一台の荷馬車に山のように積まないと無理だよ※

 朝食を食べた後、みんなと再び合流して学校へと向かう。

 まだ夏休み中だけど、今日から武研の活動が再開されるのだ。というのも、8月11日から20日までの間は武研はお休みだった。由紀ちゃんはせっかく新しく入った子たちが慣れてきた頃だから、来られるものだけでも集まって活動をしたかったみたいだけど、先生の働き方改革というやつで強制的に全部活休止が決まったんだって。


「久々で楽しみなんですが、由紀ちゃん先生が張り切ってそうでちょっと怖いですね」


「だな、風花と戦いたいというんじゃないか?」


 あり得る……


「先生との乱取りは、ボクも勉強になるからこちらからお願いしたいくらいさ。それよりも、みんなはボクがいない間もちゃんとこちらでも修行してた?」


「も、もちろん。なあ、樹」


「う、うん、毎日散歩で会ってたからその途中とかに見る訓練をやったり……」


 ウソはついてない。武道場が使えないから目を鍛えることに主軸を置いていた。


「ふーん、まあ動きを見たらわかるけどね」


 はは、気を抜かないようにかんばろう。


「あのー、風花先輩。僕はお仕事が忙しくてあまりできませんでした……」


「知ってる。海渡くん、頑張ってたよね。それに、みんなが切り替わるタイミングまで気付いてくれて」


「えへ、偶然でした」


 あの後僕も試そうと思って、海渡と同じように午前3時に起きたら本当に樹のままだった。それから何時に切り替わるか時計を見ながら待っていたら、3時15分ちょっとすぎた頃突然目の前が真っ暗になり、気付いたらテラのソルとして目が覚めた。海渡の言った通り、僕たちは時間で切り替わっているっぽい。

 その後、ソルとして一日を過ごして眠りにつくと、今度は目の前が急に明るくなって樹として覚醒した。目の前の時計の時刻は3時15分ちょっとすぎ。時間は切り替わる前と全く一緒。その後寝直していつもの時間に目が覚めた時は樹のままだったから、やっぱり日本時間で午前3時15分あたりに切り替わるタイミングがあるみたい。別の日に竹下が試してみた時も同じだったって言っていたから、もうそういうことなんじゃないかって思っている。

 ちなみにテラには時計がないから調べてないけど、たぶん日本との時差があるから前の日の午後11時半あたりに切り替わっているんじゃないかな。


「なあ、樹」


 肩をちょんちょんと叩かれる。竹下だ。


「今日武研が終わった後、集まらねえか。風花も帰ってきたことだし、色々とあちらでも進捗があったからさ、一度整理しようぜ」


 確かに、その方がいいだろう。ということで、武研が終わった後は僕の家に集まることにした。







「風花はこれをお願い」


 包丁の練習中の風花に、家の屋上の家庭菜園で採れた大葉(青じそ)を渡す。


「これを入れるの?」


「うん、さっぱりとなるんだ。できるだけ細かくね」


 風花は何枚か重ねた大葉に丁寧に包丁を下ろしていく。慣れてくるとすばやくできるようになるんだけど、ケガをする危険を冒してまで急ぐ必要はない。


「海渡、そっちはどう?」


「もうすぐです」


 こっちは海渡に任せておいて、僕の方は……お、いい感じ。

 茹で上がったそうめんをざるに移し、急いで水をかける。


「できました!」


 海渡、お手製の麺つゆもできた。あとは風花……


「こ、これでいいかな?」


「うん、上出来」


 小鉢の中の小さく刻まれた大葉からシソのいい匂いが漂っている。

 風花の料理の腕前も上がってきた。これなら一人でプロフを作る時も苦労しないはず。


「それでは早く持って行ってあげましょう。今日の言い出しっぺがお腹を空かせて待っていますよ」


 氷水を入れた涼しげな器と四人分のそうめんを乗せたざるを持って、離れの僕の部屋へと向かう。


「おまたせ」


 僕たちの姿をみて竹下がテーブルの上の地図帳を下におろした。


「お疲れさん。今日はここでよかったのか。食堂がいいならそこに行くぜ」


「こっちで食べよ。あっちは、もうそろそろお父さんの午前の診療が終わってお昼を食べにくるから」


 一緒になってもいいんだけど、その間はあちらのことを話せなくなる。


「りょ! それにしても、それ何()分? すげえいっぱいあるんだけど」


「12把」


「12!? ……食えんのか?」


 すごい量に見えるけど、今日はそうめんだけだしいつもの一人3把分に風花の分が増えただけ、残ることは無いと思う。


「残ったら残ったで、樹先輩のところの夕食が一品増えるだけです。さあ、美味しいうちに食べましょう」


 ひとかたまりのそうめんをざるから氷水を入れた器に移すと、それぞれが箸を伸ばし思い思いの薬味の入った麺つゆに付け口に運ぶ。


「ほんと、大葉を入れたらさっぱりしてる。これならいくらでも食べられそう」


「でしょう。それに海渡の麵つゆもあっさりと仕上がっているからスルスルといけるんだ」


 僕だけじゃなく、みんなの箸が止まらない。


「ほんとうめえな。海渡、これってテラで作れないのか? みんな喜ぶぞ」


「そうめんは小麦粉と塩があったらできますが、麺つゆは……」


「材料は?」


「鰹節とアゴだし、醤油にみりん、それに砂糖をちょっと入れています」


「……あっちに一個もねえじゃん。砂糖はこれから作るからいいとして、残りの物を、風花何とならない?」


「えっと、アゴだしってなに?」


 そういえばアゴって方言だ。


「トビウオを焼いて乾燥させたものです。コクがあって美味しいんですよ」


「そうなんだ。今度うちでも使ってみよう。えっと、カツオもトビウオも海のものだから見たことないよ。加工の仕方を教えたらカインまで運べるのかもしれないけど、近くの海で獲れるの?」


 竹下がちょっと待ってといって、食べる手を止めテーブルの下の地図帳を調べ始める。


「樹先輩。最寄りの海って、インドですか?」


「たぶん」


 ルーミンの記憶を持っているはずの海渡がわからないほど、あちらの世界では海に対しての知識がない。


「インドか……」


 海と名がつくところならアラル海やカスピ海の方が近いけど、塩分濃度が低いからどちらかというと塩気のある湖といった方がいいと思う。(現在の地球のアラル海は水が干上がって塩分濃度が海水の2倍と高くなってますが、テラのアラル海の場所にある湖は水が豊富なので塩分濃度は海水の1/3くらいです)


「いや、パキスタンのカラチが近そう。この先に広がるインド洋にはトビウオもカツオもいそうだけど、距離は……うわ、3000キロ近くあるぞ」


「3000キロか……余程大量に作って運ばないと誰も買うことができなそうだね」


 それだけの距離になったら、いくつかの隊商を経由させる必要がある。最初はお手ごろな価格だったものが、カインに来る頃には麦一袋どころか糸車、いや荷馬車と同じくらいの価値になっているかもしれない。


「風花、荷馬車ができたらいけそうか?」


「一台の荷馬車に山のように積まないと無理だよ」


「うーん、荷馬車にたくさん積み込むには、道が整備されてないと難しいし……」


 道の整備って、いったい誰に頼んだらいいんだろう。


「ほら、皆さん。早く食べないとそうめんがカチカチになってしまいますよ。ダシについては僕が野菜ダシを勉強してますから、少しお待ちください」


 へぇー、野菜でもダシがとれるんだ。海渡が覚えたら、僕にも教えてもらおう。

あとがきです。


「皆さんにお知らせがあります」

「第82話で僕、海渡が目覚ましをかけた時間を午前2時から午前3時に修正しました」

「なんでだ?」

「どうも、作者が日本とカインとの時差を忘れていたみたいです」

「時差か……それも正確なのか?」

「時差がだいたい3時間45分なのでそれに合わせて修正したらしいですね」

「なるほど、午後10時半ならわからないけど午後11時半ならみんな寝静まっているってことか」

「これって修正必要でしたか? あちらは朝が早いので午後9時頃にはみんな寝ちゃってますよ」

「ま、まあ、夜早い時間ではまだ頑張っている人がいるかもしれないってことじゃないかな」

「なるほど、糸を紡いだり、藁を編んだりですね」

「そ、そうだね。それでは次回の案内です」

「えーと、更新するのは9/30(土)で、内容は……まだ、樹の部屋での話だな」

「それでは皆さん、次回もよろしくです。僕だって先輩が何を言いたいのかくらい知ってますよ。ルーミンのお父さんとお母さんは、よく夜遅くまで起きてましたから」

「あはは……」

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