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第81話 今日は何時の飛行機?

〇8月14日(月)地球



「ねえ、竹下くん。さっき樹に聞いたら、パルフィは金具を2、3日で仕上げるって言ってたみたいだよ。ボクも手伝うからさ、早く荷馬車を作ってよ」


 朝の散歩、いつもの時間にやってきた竹下に風花が詰め寄っている。


「ち、ちょっと待て。作ろうと思えば作れるけど、初めて作るから、試運転しときたいんだって」


 そうだよね。いくらこちらの設計図を使って作ると言っても、素人同然の僕たちが作るんだから不具合が出てもおかしくない。そのあたりを確認してからリュザールに使って欲しい。


「試運転なら、ボクが使いながらやるよ」


「でもさ、途中で壊れたらどうするんだ? 動かなくなるぜ」


「うっ……そこで修理する」


 いやいや。


「風花。すぐ直せたらいいけど、時間がかかったらおじさんたち待ってくれないよ」


 隊商の荷物を待っている人がいるから、到着を遅らせるわけにはいかない。たぶん、馬に荷物を積めるだけ積んで、壊れた荷馬車を捨てていくことになると思う。


 あ、風花、しゅんとしちゃった……


「な。まずは俺たちが村で使って具合を確かめるからさ」


 どこが壊れやすいとか、すぐに直せるかとか、直せないなら交換部品を積んでいけるのかとかね。


「わかった、我慢する。でも、次の時にはボクに使わせてね」


「努力する」


 テラで最初の荷馬車になるんだから、中途半端なものを渡したくはない。


「それで風花、今日は何時の飛行機?」


「お昼頃だって」


「ということは10時頃出発?」


「うん」


 風花は、お父さんの夏休みに合わせて東京のおばあちゃんのところに帰る予定だ。


「東京はどこ? 空港の近く?」


「空港からはちょっと離れているよ。浅草の近くなんだけど……わかる?」


 竹下と顔を見合わせる。


「なんとなく」


 確か浅草には浅草寺せんそうじがあるんだよね。それがどこなのかわからないけど。


「そっか、二人は東京に行ったことがなかったんだ。でも、上野ならわかるでしょ。有名だから。そこからも歩いていけるよ」


「知ってる。さゆりという人が夜行列車に乗る場所だ」


「樹、それは有名な歌を元にしたネタだから……でも、歩けるのなら俺でもいけそうだな」


 風花がなんで? という顔をしてこちらを見てきた。


「あのね、竹下は都会に行くと駅で迷うの。特に地下ならてきめん。任せていたらいろんなところに連れてってくれるよ」


 目的地には着かないけどね。


「だって仕方がないだろう。太陽は無いし、星も見えないんだから!」


「あ、それはわかる。ボクもテラで空を見上げる癖がついてるからさ、こっちでも場所を確認するときは思わず上を見ちゃってる」


 リュザールは旅することが多いから特にそうだろう。


「まあ、羽田から浅草までは乗り換えなしで行けるから、迷いようがないよ」


 ふふ、そこで迷うのが竹下のすごさ。風花もすぐにわかるんじゃないかな。


「それで、あっちに穂乃花ほのかさんも来るんだろう。俺も早く会ってみてえな」


 穂乃花さんは、東京の全寮制の女子高に通っている風花のお姉さん。おばあちゃんちで待ち合わせだって。


「お姉ちゃんに夏休みはこっちに来たらって言ったんだけど、めんどくさがってうんと言わないんだ。でも、お正月は家族で過ごすことになっているから、きっとこちらに来るはずだよ。楽しみにしてて」


 僕の予想では、穂乃花さんはパルフィの地球の人格じゃないかと思っている。だって、手を繋いで寝た後にパルフィが夢で見た景色というのが、いつも東京ぽかったり、学校か寮の中みたいだし、何より風花から聞いた穂乃花さんの性格がパルフィにそっくりなんだ。

 会うことができたら、パルフィと同じ匂いかどうか確認してそれから……


「樹……樹?」


「え、何?」


「ボク、このまま海渡くんに会えずに行っちゃうけど、無理しないように伝えててね」


「うん、言っとく」


 海渡の家は明日の精霊しょうろうながしに向けて大量の仕出しの注文が入ったらしく、今日明日は戦争状態だと言ってた。それで朝の散歩にも来れなかったのだ。


「ま、こっちで離れても、カインにリュザールが帰って来てるから、話ができるというのはいいよな」


「4、5日はいるから、東京の様子を教えるよ」


「樹、俺たちはこちらのことを話そうぜ」


「そうだね」


「いいなぁ、三人で精霊流しに行くんでしょう。ボクもおばあちゃんとの約束が無かったら、みんなと一緒に行けたのに……よし、来年はこっちに残る。そうだ、おばあちゃんたちもこちらに呼ぼう!」


 そうそう、それがいい。こちらのお盆は賑やかだからきっと驚くよ。


「……風花、気を付けてね」


 名残惜しいけど、そろそろ散歩も終わりだ。


「ああ、風花なら心配いらないと思うけど、気を付けて行けよな」


「ありがとう。二人ともボクがいないからって羽目を外さないでね」


「はは、肝に銘じます。それと風花、東京って人が多いんでしょう。満員電車で痴漢を投げ飛ばすのはいいけど、止めを刺しちゃダメだよ」


「そういえば、技を使えるようになってから初めての東京だ。得物えものを持ち歩かないようにしとかなきゃ」


 普段から風花は得物(刃物)なんて持ち歩いていないけど、そんな冗談が言えるくらいなら大丈夫だろう。


「竹下、僕、風花を送ってくるね」


 いつもならここで別れるところだけど、風花とはしばらく会えなくなるから……


「おう、風花、あっちでな」


 その後、夕方前に風花から無事おばあちゃんちに着いたと連絡があったくらいで、特段変わったこともなく地球での一日が終わったはずだったんだけど、まさか、あんなにやきもきすることになろうとは思ってもみなかった。

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