第76話 糸車はOKっと
〇(地球の暦では8月4日)テラ
「はい、パルフィ」
みんなが息をのんで見守る中、パルフィはユーリルに渡されたレンガを窓枠のところに一つだけ残されたスペースに慎重にはめ込んでいく。
「で、できたぜ。これでいいか?」
「うん、あとはこれをこうして……」
ユーリルがレンガからはみ出たセメントをヘラでならして……
「よし、まだ建物だけだけど、これで鍛冶工房が完成だ!」
「おめでとう、パルフィ」
「パルフィさん、おめでとうございます!」
「へへ、ありがとな」
みんなからの祝福にパルフィは嬉しそう。
「最初聞いた時にはびっくりしたけど、ほんとにこんな建物ができるんだ」
アラルクが言う通り、新しくできた鍛冶工房はこれまでのどの建物よりも大きく頑丈にできていた。
「ああ、レンガの強度を上げて、積み方を工夫したからな」
地球の図書館で得た建築の知識を、ユーリルは応用して建てたみたい。
「さすがあたいの旦那様だぜ」
ふふ、ユーリル照れてる。
「パルフィが耐熱窯の作り方を教えてくれたから……」
それで、レンガを焼くことができるようになって強度が上がったんだって。
「パルフィさんは早速鍛冶に取り掛かるのですか?」
「鍛造用の窯はこれから作るし、鋳造用はまだまだ。しばらくは糸車やりながらぼちぼちってとこだな」
糸車は作り始めたばかりでとにかく数が必要だから、しばらくの間はパルフィにも手伝ってもらう予定なんだ。
「ユーリル」
ニヤニヤ顔が止まらないユーリルを、コペルがちょんちょんとつついている。
「何?」
「パルフィは鍛冶ができるようになった。私も織物がしたい。早く、でっかい織り機を作る」
はは、たぶん機織り機のことだね。
「ゴメン、コペル。もうちょっと待ってて、ちゃんとしたものを作るから」
ユーリルに機織り機の製作をお願いしているけど、工房にはギリギリの人数しかいないからそこまで手が回っていない。リュザールが新しい職人さんを連れて来てくれたら何とかなるんだけどな……
〇8月4日(金)地球
「……だから、気を付けてやってほしいんだ」
朝の散歩の集合場所で、竹下が来ないうちに二人に伝える。
「そうだね、この前も一人で図書館に行ってた」
「そうなんです。一人で頑張り過ぎちゃうんですよ」
竹下はあちらの世界のために自分の時間を使ってまで色々と調べてくれているから、無理させないようにしようって話したんだ。
「お、噂をすれば何とやら、ちょうどいらっしゃいましたよ」
横道から現れた竹下はあくびをしている。昨日も遅くまで頑張っていたのかも。
「おはよう、ふあぁー、みんないつも早いな。俺、もしかして遅れてる?」
「いえいえ、時間通りですよ。それでは涼しいうちに出発しましょう!」
僕たちはいつものコースを歩き出す。
「それで風花、さっきの話の続きだけど、糸車はちゃんと捌けたの?」
糸車のことなんて聞いてないけど、竹下のことを話していたなんて言えないからね。
「うん、それぞれの村の隊商に渡してきた」
昨日風花が、セムトおじさんの率いるカインの隊商は無事コルカに到着したと教えてくれた。その時にリュザールが買った糸車5台はコルカのバザールに出さずに、他の村の隊商に売る予定だって言っていたのだ。
「値段は?」
「もちろん、最初に決めた通り。カインの仲間もそうしているし、売った先の隊商にも言ってる。ぼったら次は無いって」
売り方については隊商の人たちに任せている。僕たちじゃどうしたら早く糸車を普及させられるか、わからないから。
「糸車はOKっと……それで、荷馬車の部品は手に入ったのか?」
「そうそう、それを頼みにパルフィの実家に行ったんだけど……」
そういうと風花は、心底うんざりしたような顔をした。
「ま、とにかく、手に入るのなら万々歳だ」
「ほんと大変だったんだからね。ちゃんとしたものを作ってよ」
リュザールはパルフィの親父さんの鍛冶工房にいる間、ずっとパルフィのことを聞かされていたようなのだ。
「俺はパルフィのことならずっと聞いてられるけどな」
そりゃそうだろう。
「一度ならまだしも、何度も同じことを聞かされた身にもなってよ」
隣を歩く風花の肩をポンポンと叩く。
「俺、おやじさんと話してみたいかも」
二人でカルミル(馬乳酒)片手にパルフィのことをずっと話すのかな。
「でもね、パルフィの婿の話になったら、けんもほろろだったよ」
「うぐぅ」
「俺に勝てる相手にしか用はねえだって」
はは、おやじさん変わってない。
「くそぉ、何としても武術をものにしないと……風花、遠慮せずに扱いてくれな!」
「任せて!」
竹下と風花は腕をクロスさせた。男同士?の友情っていいよね。
「それで、鍛冶工房の職人さんはどうなりましたか? 早く確保してもらわないと、お風呂にいつまでたっても入れません」
そうそう、お湯を沸かすためには大型の釜がいるから、技術を持った職人さんが必要なのだ。
「パルフィが必要としてるって言ったら、俺に任せとけって。あの様子ならおやじさん、パルフィの頼みは何でも聞いちゃいそう……」
ちなみに鋳造用に使う坩堝も、次の行商の時までに作ってくれるみたい。お返しとして、糸車をパルフィのお袋さんに渡すことにしたんだって。
「あとは工房の方だな」
「そっちは、明日セムトさんと一緒に回ってみる。避難民の数は減ってないから、すぐに、タリュフさんに言われた人数くらいは集められそうだよ」
父さんは、一回の行商につき二家族までにしてくれと言っていた。それ以上になると村人が警戒してしまうらしい。
「ねえ、風花。リュザールたちが戻って来るのは10日後ぐらい?」
「うん、たぶんね」
「ということは次の出発は半月後ぐらいか……バーシの隊商が来て糸車を持ってったし、また作っとかなきゃな」
今は在庫が10台あって、一日に少なくとも3台はできるから15日で……いや、途中でお休みが2日入るから13日か……なんとか50台くらいは確保できそうだ。
「それで風花、明日は?」
「お父さんが女の子が一人しかいないのに泊まるのはダメって。だから、ボクは門限までで失礼するから、みんなは楽しんで」
やっぱりそうか。お祭りの打ち上げをしようってことになって、せっかく夏休みなんだから泊りがけでって思ったんだけど……
「仕方がないよ。二人は大丈夫?」
「OK」
「問題ありません!」
「それじゃ、お昼に僕の家に集合ね」
と、朝の散歩の時に決めたんだけど、翌日の僕たちはみんな揃ってマイクロバスの中にいた。




