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第73話 これも麻?

「とまあ、こんな感じでこの武術を覚えると、暴漢にあったとしても対処することができるようになるだろう」


 風花に教えてもらうのは、殺す気満々でやってくる盗賊に対処するための技だから、いたずら目的で近づいてくる変態ぐらいなら難なく撃退できるようになるはずだ。現に武術の経験がある由紀ちゃんでさえ、あっという間に3回投げ飛ばされている。


「もちろん、まずは声を出して大人を呼ぶことが大切だが、いざというときには恐怖で声自体が出せないこともある。しかし、体が動けば逃げることができる。ここではそれを学んでほしい」


 うわ、みんなの目がキラキラしちゃってるよ……


「見学はこれまで、入部希望者は後からでもいいので私のところに来てくれ」


「先生、今でもいいですか?」


 男子生徒が手をあげた。


「もちろん構わないぞ」


 あ、全員が由紀ちゃんのところに集まっちゃった。


「賑やかになりそうですね」


「うん」


 倍近く増えるからね。


「風花、大丈夫?」


「たぶん……由紀先生が面倒見てくれるから」


「それもだけど、うまくやらないといけないよ」


 首に指を突き立てるしぐさをする。

 リュザールの武術は人も殺せる。それを教えるわけにはいかないはずだ。


「あ、そうだね。気を付けていこう」


 それは僕たちも一緒だ。基礎を覚えたら、あちらでリュザールに人のとどめの刺し方を習うんだから……







「うわぁ、流行ってる」


 武研帰りに立ち寄った竹下の店の中は、若い女性でにぎわっていた。


「暑くなってかき氷を出すようになったからな」


 ほぉ、かき氷を……


「あ、今日はこっち」


 僕たちがカフェに行こうとすると、竹下は店の奥を指さした。この先は竹下の家の方……みんなで後を付いていく。


「ちょっと待っててくれな」


 僕たちを二階の奥の部屋に案内した伊織は、すぐに出て行ってしまった。


「竹下くんの部屋、こんなだった?」


 海渡から座布団を受け取った風花は首をかしげている。


「お店の改装と一緒にリフォームされたんですよ」


 元々は和室だったのがフローリングになったんだよね。


「でもまあ、隠しているところはだいたい想像がつくので……」


 海渡は本棚の奥やタンスを開けて物色を……


「いつもこんな感じ?」


 風花にうんと頷く。


「ふーん、ボクも探そうかな」


 風花まで……


 しばらく二人の様子を見ていたら海渡がガッツポーズを……今回はタンスの中か。


「へぇー、これが竹下くんのおかずか……らしいね」


「昔から一貫してて、それだけはすごいと思います」


 海渡が見つけだしたグラビア雑誌を三人で見る。中身はもちろん巨乳のお姉ちゃんたちだ。


「お待たせ……あ、お前たち、それ!」


 部屋に戻ってきた竹下は、持って来た箱を慌てて降ろして雑誌を奪い取る。


「汚してねえだろうな……」


 お気に入りなんだ。


「風花に見られても平気なの?」


 ぱぱっと埃を払う仕草をして、グラビア雑誌を大事そうにタンスの中にしまい込む部屋の主に尋ねる。


「……男部屋のリュザールはまさに男だからな。男友達に見られたとしか思わねえよ」


 風花がこちらに来てからもう少しで一か月。最初はあれだけ遠慮していたのに大違い。


「それで、何を持って来たの?」


「あ、そうそう、お前たち、これ着てくれる?」


 竹下はそう言って床の上の箱を開けた。






「似合ってますか?」


「うん、ザ・丁稚って感じ」


 竹下が持って来たのは、今度の土曜日に出店でみせの手伝いで身に付ける衣装だった。


「樹先輩も丁稚以外の何者でもありませんね」


 僕たちが来ているのは、男用の着物に前掛けをしたスタイル。時代劇なんかで、商店の下働きの子が着ているあれだ。


「サイズはどうだ。今ならまだ直せるからさ」


 同じく丁稚姿の竹下が聞いてきた。


「問題ないです!」


「ちょうどいいけど……これ、あまり暑くないね」


 和服って暑いものだと思っていたけどなんか涼し気な感じ、これなら動き回っても平気みたい。


「麻で作っているからな」


 麻か……


「そういえば、あちらにも麻はありますけど服には使ってませんね」


「うん、これまでは細く紡げなかったから、薬や麦を入れる袋くらいにしか使ってないと思う」


 丈夫なんだけど、ごわついているから服にするには不向きだったのだ。


「なあ、樹。これまではってことは、これからはできるのか?」


「糸車を使ったらりが強くなるから、細くできるはず。服も作れるんじゃないかな」


 それにコペルがいるから、肌触りもいい感じに仕上げてくれるはずだ。


「マジか、夏用の服とか欲しいぜ」


 確かに、あちらでは服と言ったら羊毛が中心だから、夏の暑さはなかなか堪える。今年は間に合わないけど、来年のために準備してもいいかも。


 コンコン……


 お、できたかな。


 竹下がどうぞというと、風花が俯きながら入ってきた。


「どうかな……」


「うん、可愛い!」

「はい、可愛らしいですぅ」

「さすがお袋の見立て、バッチリじゃん」


 風花は、時代劇に出てくる町娘の衣装に身を包んでいた。


「サイズ、ピッタリだね。風花、測ったの?」


 風花はううんと首を横に振った。

 どういうことと、竹下の方を見る。


「ああ、お袋の特技で、女の人の体は見ただけで大体サイズがわかるらしい」


 ほぉ。


「でも、胸はどうしたんですか? 風花さんブラを着けてますよ」


「それを含めてだいたい分かるって言ってた。それに着物の時はさらしを巻くから、多少ズレてても問題ないらしい」


 なるほど、さらしを巻くのか。あちらと一緒だ。


「これも麻?」


「だと言ってたぜ。風花、暑くないか?」


「大丈夫、涼しいよ」


「じゃ、汚さないうちに着替えようぜ。土曜日はこれで頼むな」


 せっかくなので、みんなで記念撮影をしたあと制服に着替えた。


「ところで一般的に和服と言ったら絹ですが、あちらにありましたっけ?」


「見たことある?」


 風花は首を横に振った。


「絹は生糸ってやつで作るんだが、それにはかいこって蛾の幼虫が必要なんだ」


 さすが呉服屋の息子。専門分野だ。


「ほぉ、それではその蛾を見つけたらいいんですね。絹の服ってキラキラしててきれいなんですぅ」


 ルーミン、着てみたいのかな。風花が着ているのを見て和服に目覚めたのかも。


「ところがこの蚕と言うのが曲者で、人が飼ってやらないと自然では生きていけないらしいぜ」


 そ、そうなの。


「えー、可愛らしく着飾ってみたかったのに」


 やっぱり。


「一応野生でまゆを作る蛾がいるらしいから、それを見つけて飼うことができたら……」


 見つけてか……蛾って飛ぶから見つけるのが大変そうだ。


「風花、これもお願いできるか」


「期待しないで待ってて」


 何でも扱う行商人も昆虫までは確約できないみたい。

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