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第72話 ご、ごじゅうぅぅー

 工房の職人さんたちとタリュフ家、それにセムトおじさんの前に、この世界で初めてのお披露目となる米を使った料理、プロフが並べられている。


「ささ、熱いうちにお召し上がりください」


 メインシェフのルーミンが語りかけ、皆がプロフを口に運ぶ。


「なんと! 米がこんなにうまいとは!」


 みんな最初は恐る恐るという感じだったけど、次第にさじを口に運ぶ動きが止まらなくなってきた。

 というか、私だってそう。地球で食べたものよりも、こちらの羊肉で作った方が何倍も美味しく感じられるんだもん。やっぱり、羊が食べている草の違いが出ているのかな……


「米がパサついてないのは、肉の脂を吸っているからなんだね」


 さすが母さん、目の付け所が違う。もしかしたら、日本で食べる物よりも美味しいのはコメの違いもあるのかも。こちらの米はインディカ米だ。


「はい! パンだと吸い込み過ぎるのですが、米だとちょうどいいくらいになるようなのです」


 ほほぉー、それで脂っこさもいい感じに……

 そうだ、セムトおじさんは?


「ソル、この料理のことを他の村でも教えてもいいのかい」


 私の視線を感じ、おじさんが聞いてきた。

 もちろん、うんと頷く。


「ふむ、これを食べたら米を欲しがる者も出てくるだろう。ただ、米を作っているところは少ない。せめて隊商のやつらに食べさせたら、広めてくれるのだが……」


 セムトおじさんに頼んだお米で出来上がったプロフは家族と工房の人の分しかなかったから、隊商の人たちを呼ぶことができなかったのだ。


「米があったらボクが隊商宿で作ります」


「リュザールが? 大丈夫なのか?」


 おじさんはプロフができる寸前にやってきたから、リュザールが最初から最後まで主戦力で頑張ったことを知らない。


「ええ、これもボクが手伝ったんですよ」


 リュザールは自分のお皿のプロフをおじさんに見せるようにすくい上げ、パクリといった。


「そうなのか……これを味わえば、きっと……いずれ米も扱うようになって……ただ、乗せられる荷物には限りが…………。ソル、以前話してくれた荷馬車というものはどうなっている。糸車も扱わないといけないし、人手もギリギリだから馬を増やしてというわけにもいかんのだ」


 馬を増やしたら、乗せられる荷物も当然増える。ただ馬の管理が大変になるらしくて、1人2〜3頭が限界らしい。


「リュザールに頼んでいる部品が届いたら一台はできる予定です」


「ほんとか! リュザールそれはどこで?」


「コルカで手に入ると思います」


「コルカか……ふむ」


 おじさんの目がきらりと……次の行商も間違いなさそう。





〇7月26日(水)地球



「いいかお前たち、今日は見学者が来ることになった。かといって、取り繕ったり演技したりする必要はない。普段通りの活動を見せてやれ」


 由紀ちゃん、掃除の時からソワソワしていたのはこれだったんだ。武術に興味がある人が来るんだもん、それは嬉しいよ。


「何人くらい来るんですか?」


 由紀ちゃんは右手を大きく広げた。


「「「5人も!」」」


 たくさん来たらどうしようって心配してたけど、結局は2、3人くらいしか来ないじゃないかなって思っていたからびっくり。


「これでも減らしたんだぞ。ミーハーな気持ちなやつは排除して、真剣に武術に取り組みたいというやつだけに絞った」


 ミーハーって、風花目当ての子がいたってことかな……


「先生! いつ頃、来るのですか?」


「9時集合、時間厳守だ」


 壁の時計はあと5分で9時……もうすぐ。


 トントン!

 来た!


「よし、入れ!」


「し、失礼します」


 武道場のドアが開き、由紀ちゃんの言う通り5人の生徒が現れた。


「時間前にちゃんと来たな、えらいぞ。靴をそこに入れて、壁際に座れ」


 下駄箱に上履きを入れた5人は武道場の端に並んで座った。

 男子が1人に女子が4人か……もしかして、最近は女の子に武術が人気なの?


「これから稽古を始めるが、基礎中の基礎だから見ていて面白くないと思う。だから、いつ帰っても構わんぞ」


 わかりましたと返事が聞こえる。


「よし、それでは、始め!」


 僕たちはいつものメニューを開始した。





「誰一人として帰りませんね。さんじゅうはち」


 僕の足を掴んだまま、海渡が呟く。


「そ、そうだ……ね」


 今は筋トレの2セット目、もう少しで一時間が経過する。


「さっきも何をしているのか聞いてましたし。さんじゅうきゅー」


「う、うん」


「興味持ってくれているんですね。よんじゅう」


 相手のことを見る練習の時に、黙ってジッと立っているのが気になったんだと思う。由紀ちゃんがわかりやすく説明していたけど、ちゃんと伝わったかな。


 それはともかく……


「か、海渡、そろそろ交代しない?」


 2セット目だから、お腹の筋肉がそろそろ……


「おや、50回まで頑張ると仰られてませんでしたか?」


 ぐっ。


「はい、よんじゅういち……よんじゅうにー」


 ◇◇◇◇◇


「ご、ごじゅうぅぅー」


「はい、樹先輩、お疲れさまでしたー」


「はぁはぁ……次は海渡」


「よし、みんな聞いてくれ」


 残念、海渡にも腹筋50回させようと思っていたのに。


「筋トレと動きのない稽古ばかりで、何をやる武術かよくわからないだろう」


 5人はうんうんと頷いている。

 この中に風花が山下を投げ飛ばした場面に出くわした子がいたとしても、何をやったか見えてはいないと思う。


「だか、基礎練習をないがしろにするわけにはいかない。お前たちがもし武研に入っても、しばらくはこればかりやることになる。そのうえで、入るかどうかしっかりと決めてほしい」


 みんな神妙な面持ちになった。


「よし、最後にこれから私と風花が実戦形式の乱取りをするから、それを見てから今日は帰るように。いくぞ、風花!」


 打ち合わせなしの風花と由紀ちゃんの戦いが始まった。

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