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第70話 いいもの買えたの?

〇(地球の暦では7月22日)テラ



 お気に入りの敷物の上で、シッポを振りながら私たちを監督していた白い獣が、急に立ち上がり入り口の方を見つめた。

 誰か来たのかな。


「隊商が帰って来たぞ!」


 程なく、外から村人の声が聞こえる。

 帰って来たということはセムトおじさんたちだ。


「行くよ!」


 糸車を作る作業をやめ、カァルを先頭にみんなで工房を飛び出す。

 隊商が来た時は仕事はお休み。特に村の隊商は、塩とかの必需品を持ってきてくれるから外すことができないんだ。


「お米を持ってきてくれてますかね」


 前を歩くルーミンが振り向く。


「夏になったばかりだから、まだ早いんじゃない」


 テラで田んぼやお米を作っている畑を見たことはないけど、地球と同じように作っているとしたら秋に実るんじゃないかな。


「うーん、量は多くなかったけど、この時期にバザールに出していた行商人がいたような気が……」


 隣のリュザールは頭に手をあて、記憶を呼び起こそうとしているみたい。

 今の時期にあるということは、温かいところで作っているのかも。


「ねえ、ルーミン。米が手に入ったらプロフを作るの?」


「はい、皆さんにお米の美味しさを知ってもらおうと思っています。リュザールさんも一緒に作ってみますか?」


「え? やってみたいけど、大丈夫?」


 リュザールが聞いているのは、台所に男が入ってもいいかと言うこと。


「うちの村は平気だよ」


 コペルがいた村ではダメだと言っていたから、西の方でそういう掟があるらしい。


「ルーミン、お願い。地球で教えてもらうつもりだけど、やっぱりこっちで作ってみたい」


 リュザールは、隊商の人たちのためにプロフ作ってあげたいって言っていた。それなら一度こちらで作ってみた方がいいと思う。地球と道具が少し違うからね。






「カァル、それはダメだよ」


「にゃあ?」


 干し肉に興味を示したカァルを抱き上げる。腕の中のカァルは私を見上げ、なんでという顔をしている。


「これは塩がかかっているから、カァルは食べられないの」


 塩分が濃いものを食べさせると腎臓に負担がかかるから注意してと、専属のユキヒョウ博士からきつく言われている。


「にゃぁ……」


 美味しそうに見えるもんね。匂いもいいのかな。ずっと鼻をヒクヒクさせて……ここは離れた方が良さそうだな。

 カァルを抱えたまま、あたりを見渡す。


 みんな、あっちこっちに……


 セムトおじさんとの話はリュザールが任せてと言ってくれたので、私たちは広場に並べられた様々な品物をのんびりと眺めることができるのだ。


 お、ルーミンとコペルが楽しそう……カァルを抱きしめたまま、二人のところに向かう。


「何を見ているの?」


「これ、いい」


 コペルは、羊毛で織られた女の子が好きそうな柄の生地を指さした。


「うん、可愛い」

「はい、可愛らしいです。コペルさんは服を作られるのですか?」


「うん、私にはお給金がある」


 工房のお給金はフルタイムで月に麦10袋(麦1袋は大人が10日食べられる量)、パートの人には時間に応じた量を支払うことになっている。ちなみに、コペルやユーリルといった住み込みの人たちは、フルタイムで支払うお給金から食費や生活費を差し引かないといけないから、その残りの麦5袋が自由に使えるお金というか麦だね。


「おじさん、これ?」


 お、買うのかな。


「たしかコペルちゃんだったね……そうだな、麦5袋でどうだ」


 麦5袋……織る手間暇と、危険な中をここまで運んできてくれた隊商の人たちのことを考えるとそんなところかな。


「5袋……」


 コペルがこっちを見てきた。


「大丈夫。預かっている分で買えるよ」


 職人さんのお給金は、通いで来てくれている人たちには父さんから借りて支払っているけど、住み込みの人たちにはまだまともに渡すことができていない。糸車を作り始めたばかりで工房の売り上げが少ししかなくて、待ってもらっている状態なんだ。でも、すぐにセムトおじさんたちの隊商が糸車を買ってくれると思うから、5袋ぐらいは渡しても問題ないはず。コペルには、お給金二か月分麦10袋の借りがあるからね。


「おじさん、後で持ってくる」


「ああ、今日の夕方までに頼むよ」


 もちろんコペルは自分で生地を織ることができるけど、柄や模様は作った人の個性が出るから同じものってなかなかできない。だから気になるものは欲しくなっちゃうんだよね。


「いいもの買えたの?」


 肩をちょんちょんと叩かれる。


「リュザール、お帰り。あの生地、コペルが買うって」


 行商人のおじさんがゴザの上から自分の荷物の塊の上に移した生地を指さす。


「いくらで?」


 指を5本広げる。


「5袋か……」


 リュザールはジッと生地を見つめている。


「うん、妥当だね。さすがセムトさんの隊商だ。ぼったくってない」


 お、私の予想もまんざらじゃなかった。


「ソルたちはこれからどうするの?」


「まだみんなが見ているから、もう少し回ろうかと……もしかして、急ぎの話でもあった?」


 セムトさんとの打ち合わせで何か……


「ううん、後からでも平気。それじゃ、ボクも一緒に回ってもいいかな」


 おおー、それは心強い。掘り出し物が見つかるかも。

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