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第69話 もちろん、ブルーマウンテンです!

「ねえ、竹下。二人とも頑張ってたと思わない」


「ああ、武研の時だろう。すげえ気合入っていたから、俺も負けられねえって思ったもん」


 当の二人は、グレープフルーツジュースを一口飲んでほっとした様子。


「はい、女の子の風花先輩が必死でやっているのに、僕が音を上げるわけにはいきませんよ」


 なるほど、海渡は風花の影響か。

 確かに最初は渋々といった様子だったのが、途中から目の色が変わっていた。


「ボクも海渡君が一緒に頑張ってくれて助かったよ。自分一人だとどうしても集中力が切れちゃうからね」


 二人とも、お互いがいい刺激になったってことかな。


「でもさ、風花はそこまで張り切らなくてもいいんじゃないのか? 武術は会得してるんだろう」


 風花は、由紀ちゃんから気持ちと体の動きに差が出ていると言われたけど、武術が使えないわけじゃない。だから、そんなに慌てて筋肉を付けなくてもよかったはずだ。


「あのね……早く体の違和感を解消しないと、テラで影響が出そうなんだ」


 違和感が!?


「風花、最初からだったの?」


「ううん、繋がって直ぐは感じなかったけど、一か月たったあたりから思ったように動けなくなって……あ、もちろん武術の時だけだよ。普通の時は問題ないから心配しないで」


 傍から見てたらうまくできているように見えるけど、風花ほどの達人クラスになると気になるのかもしれない。


「リュザールはそろそろ行商に行くよな」


「うん、セムトさんたちがもうすぐ帰ってくるはず。それから一週間もたたずに出発になると思う」


「それまでに何とかなりそう?」


「わからないけど、何とかしときたい」


 もし盗賊に……

 いや、余計なことは考えない。


「僕たちで協力できることがあったら言ってね」


「ありがとう、ボク頑張るよ」


 僕は生まれた時から樹のこともソルのことも知っていたけど、みんなは別の世界の自分のことはつい最近知ったばかり。性別の違いもそうだけど、体の大きさのズレなんかが気になっても仕方がないと思う。


「お、みんな飲んだみたいだな。お代わりは何にする?」


 お代わり? 普段はそんなこと言わないのに……


「竹下先輩、いったい何を企んでいるんですか?」


 ほら、海渡だって怪しがってる。


「うっ……来週の週末に港でまつりがあるじゃん」


「あ! 夜に花火が上がるやつだ」


「そうそう」


 今度の土日は武研も休みだしみんなを誘おうって思っていたんだけど、竹下も誘ってくれるのかな。


「そこの出店でみせにうちのカフェも出すことになって……」


 ほぉ、つまり……


「手伝えばいいの?」


「さすが樹、呑み込みが早い!」


 なんだ。


「それなら、今日の飲み物はバイト代の前払いってことだよね」


「そ、そう言うことかな。もちろん、たくさん売れたらバイト代を払えるんだけど、あんなところの出店しゅってんするの初めてだから売れるかどうかわからなくて……」


 毎年たくさんの人が集まっているけど、予測がつかないよね。竹下の家の本業は呉服屋さんだし。


「二日とも?」


 確かお祭りは土日だったはず。


「そう。一日だけじゃダメで、二日ともお店を出さないといけないんだって。でも、これでうちの店のことを知ってもらえたら、若い人に呉服を見てもらえる機会が増えるはずなんだ。何としても成功させたい」


 着物を着る人が少なくなってきているから、竹下のおじさんたちは色々と考えているんだろうな……


「僕はいいよ」

「ボクもやりたい」

「もちろん、僕もお手伝いします!」


「あ、ありがとう、みんな。今日は好きなもの飲んでいいぜ」


 よし、言質げんちを取った。


「ブルマン!」

「ボクもブルマン!」

「もちろん、ブルーマウンテンです!」


「ぐっ……お、お前たち、覚悟しろよ! こき使ってやるからな!」


 ブルマンじゃなくてもしっかり働くつもりだけど、こうした方が竹下が僕たちに遠慮しないはずだからね。









「ねえ樹、さっき驚いた顔してたけど、ブルーマウンテンを飲んだことなかったの?」


 竹下の家からの帰り道、海渡と別れた後、風花が首をかしげて聞いてきた。


「うん、初めて。味はまだよくわからなかったけど、あんなに飲みやすいって思ってなかったからびっくり」


 苦いんだろうなって思って飲んだら、スルッと入って……顔に出てたんだ。


「樹があれだけブルマンブルマン言うから、好きなんだと思っていた」


「だって、一つだけ飛びぬけて高いんだよ。気になるじゃん……ところで風花は、テラでコーヒーのようなものを見たことある?」


「コーヒーか……まだないかな。原産地は?」


「ちょっと待って……」


 スマホで検索してみる。

 おっと、風花の顔が……


「ふーん、エチオピアなんだ。あ、実は赤いんだね」


 風花が見やすいように画面を傾けてあげる。


「アフリカ……いけると思う?」


「どうだろう。これまで気にしてなかったから……陸続き?」


「うん、確かそうだったはずだよ」


 テラの地形が地球と全く同じなら、アフリカ大陸にはエジプトのシナイ半島を通っていけるはず。陸伝いじゃなくても、もし船を作ることができたらアラビア半島の南を航海して……


「樹、楽しそう」


「え? うん、なんかワクワクしてる」


「ふふ、ボクも」


 リュザールやみんなと一緒にコーヒーを探してアフリカまで……楽しいだろうな。

 でもその前に、


「風花、アフリカの方までいけるかどうか調べてもらうことってできる?」


「カルトゥに行った時に聞いてみるよ。確か地球のイランあたりから来ている隊商がいたから……行けたら行くの?」


「行ってみたいけど……まずは人が住んでいるか知りたい」


「人が……そっか、住んでいない可能性だってあるんだ」


「うん、まずは情報を集めなきゃ」


 人が住んでいないのなら、なぜそうなのかを調べないといけない。土地が痩せてて誰も住まないのか、災害が起こっていなくなったのか、それとも風土病にやられたのか。それがわからないと行くことすらできない。


「わかった。それはボクに任せて」


 これまでは何かと理由を付けてセムトおじさんに調べてもらっていたけど、これからはリュザールがいるからかなり捗ると思う。


「ねえ、樹、今日のお疲れ会だけど、終業式の日にすることが決まっているの?」


「だいたいそうだけど……どうしたの?」


「二学期の終わりはクリスマスと近いから、一緒にやったらどうかなと思って……」


 クリスマス!


「いい、いいよ!」


 これまでは男だけだったから、そんなところまで気が付かなかった。


「場所は?」


「次は僕の家の予定だけど、どこでも」


「それなら、ボクの家でも?」


「もちろん!」


 風花の家はマンションの高層階だ。景色も楽しめそう。


「よかった。今日は飲み物だけだったけど、せっかくなら料理もあったらって思ったんだ」


 クリスマスパーティー。かなり先の話だけど、今から楽しみだよ。

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