第68話 僕たちはもう一蓮托生って話
〇7月20日(木)地球
遅くなっちゃった。急がなきゃ。
下校する生徒をかき分け、渡り廊下に入る。
「お、鍵当番が来たぞ」
ヤバ、みんな揃っているよ。
「お待たせー」
急いで武道場の鍵を開ける。
「樹先輩、遅かったですね。何かあったのですか?」
「うん、職員室で鍵をもらっていたら、一年の先生から声かけられちゃって……」
「一年のですか……あ、いきますよ。押忍!」
「「「押忍!」」」
挨拶をして武道場の中に入る。
これも声を出すことによって気持ちを切り替えて、ケガしないようにするために必要な事なんだって。由紀ちゃんは、何のためにしないといけないのか教えてくれるからほんと助かる。
「それで、さっきの続きなんだけど、一年生の女の子が武研(武道研究会)に興味があるらしくて、危なくないのかって聞かれたんだ」
道着に着替えた後、掃除をしながらみんなに伝える。
「どう答えたんだ?」
「身を守るための技を覚えるための同好会です。全く危ないわけじゃないと思いますが、気になるなら夏休みの平日の午前中は活動しているから、いつでも見学に来てくださいって言ったよ」
風花と由紀ちゃんが主体でやるんだからそこまで荒いことはしないと思うけど、見てもらった方が間違いないよね。
「来てくれるかどうかはさておき、女の子が武術って珍しいですね」
「うん、先生によると、売店前の事件をその子が見てたんだって」
「ああ、あの時ですか。耳目を集めちゃってました」
見た目は可憐な女の子の風花が、一回りは体の大きな男子の山下を一瞬でひっくり返してしまって騒ぎに……慌てて逃げ出したっけ。
「その子って護身のために来るんだよな」
「たぶん」
「……ということは、他にもそういう子がいるんじゃないのか?」
由紀ちゃんによると、風花の技を身に付けることができたら、痴漢や不審者に狙われても怖がって体が固まってしまうということが無くなるだろうと言っていた。対処できるとわかるだけで、心に余裕ができるんだって。
「いるかも……もし来たとしても、拒むわけにはいかないよ」
学校の施設を使わせてもらうんだから、僕たちの都合を押し付けるわけにはいかない。
「風花先輩、大丈夫ですか?」
「たくさんはちょっと……全部で10人くらいまでかな」
そうだよね。
「これは由紀ちゃんに任せよう。指導できないほどの人数を受け入れはしないだろう」
このことは、念のために由紀ちゃんにも話しておこう。
「それで、今日、由紀ちゃん先生は来られるのですか?」
「終業式が終わったばかりでやる事がいっぱいあるから、お前たちだけでやっとけ、ただし、乱取りはするなよって」
「かしこまりました! とのことですが、風花師匠、今日の稽古内容をお願いします」
「うん、掃除が終わったら、まずは筋トレを20分、5分休憩して、その後は相手を見る練習を20分やって、また筋トレを20分、5分休憩して、それから相手を変えて見る練習を20分。これを時間一杯やる」
「うぎゃ! 師匠、殺生ですぅ。竹下先輩はともかく、僕と樹先輩はそこまで急いでないのでそこまで頑張らなくてもいいんじゃないですか? いきなりこれでは死んでしまいますよ」
死ぬほどのことは無いと思うけど、武研が始まって三日目にしては結構ハードだと思う。
「もちろんできる範囲で構わないけど、せっかくならできるだけ能力を底上げしておいた方が生き残る可能性が高いと思うから」
生き残るか……
「そうだよ海渡、リュザールたち隊商の人たちが村を出ていったあとは僕たちしか残らないんだから、少しでも強くなってた方がいいよ」
盗賊がカインを襲ったとしても、リュザールや隊商が村にいる間はたぶん撃退できると思う。でも、いない時には村人だけで追い返さないといけないから、戦える人間が一人でも多い方がいいに決まっている。
「それは分かりますが、こちらで筋肉をつけてもテラではあまり関係ないのでは?」
「でもね、海渡くん。体の動かし方を身に付けることができたら、違う世界でもある程度は動かせるってボクを見てわかったでしょう」
海渡だけでなく、僕と伊織もうんと頷く。三人とも、風花にひっくり返された経験があるからそれはよくわかる。
「特にこちらでは男の体を持っているんだから、使わない手は無いよ」
それもそうだ。
「ちなみに技を使うためには、ある程度の筋肉があった方が覚えやすいんだ。体を動かしやすくなるからね」
「なるほど……せっかく皆さんと一緒になれたのに、死んじゃったら元も子もありません。必死で食らいついていくので、もしもの時は骨を拾ってください」
その日の武研の活動を終えた僕たちは、学校帰りに竹下の店に寄ることになった。
「今日は俺のおごり、何飲む?」
「じゃあ、ブルーマ……」
竹下からキッと睨まれた……
「アイスコーヒーをお願いします」
「樹はアイスね。二人は?」
「アイスティー」
「僕は筋肉がお疲れなので、グレープフルーツジュースをお願いします」
「あ、ボクもそれにしようかな。竹下くん、グレープフルーツに変更で」
「りょ! みんなゆっくりしてて」
竹下は店の奥に消えていった。
「ほんとにお客さんがいるんだ」
カフェスペースには高校の制服を着た複数の女の子のグループや、買い物途中の奥様方が午後のひと時を楽しんでいる。風花が閑古鳥が鳴いていると心配したあの時は、お休みだったんだよね。
「はい、竹下先輩のお店は人気なんですよ。今、兄ちゃんとお菓子作りを勉強しているのですが、いい物を作れるようになったらこちらで提供してもらおうかって話しているんです」
「へぇ、それは楽しみ」
竹下のお兄さんと海渡のお兄さんは同級生で仲がいいみたいだから、話がすぐにまとまりそう。
「ところで、今日は何の集まり? いつものテラの相談?」
あ、理由を言わずに風花を連れてきちゃった。
「学期の終わりに、持ち回りでそれぞれの家に集まることにしているんです。一学期頑張りましたねって」
「そんな大事な会に、ボクも参加してよかったのかな……」
「何言っているんですか! 風花先輩はもう僕たちの仲間ですよ。ご一緒してもらわないと困ります」
そうそう、もう無くてはならない存在だよね。
「お待たせー。何話してたんだ」
竹下が持って来たトレーから、それぞれが頼んだ飲み物を受け取る。
「僕たちはもう一蓮托生って話」
「だな。えっと……今日の挨拶は俺か。準備いい?」
みんなでグラスを掲げる。
「今学期も無事に終わりました。武研もできて、これから益々……」
「せんぱーい。長くなりますか?」
「ちぇ……こっちでもテラでも楽しくやろう! 乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
気心が知れた仲間との慰労会が始まった。




