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第65話 砂糖ぐらいは独占したほうがよくないか?

〇7月15日(土)地球



 みんなの飲み物は……行き渡ってる。

 海渡にうんと頷く。


「それでは行きますよ。武術研究会の発足を記念いたしまして……かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


 試験が終わった後、竹下と海渡が由紀ちゃんから呼び出されて、来週から武道場を使っていいと言われたらしい。そこで、お祝いをするために僕の家に集まったというわけ。


「今日はまた……たくさんあるじゃん」


 竹下は、お皿の上に山のように積まれたクッキーに手を伸ばした。

 作り方を風花と海渡に作り方を教えるために、オーブンとフライパンでそれぞれ焼いちゃったからこの前の二倍近くあるかも。


「竹下先輩、ご感想は?」


「うーん、上品。甘さ控えめなのはわざと?」


「はい、テラで作る予定なので、あまり甘すぎない方がいいと思いまして」


「テラ! もしかして、これ、砂糖の普及用か。なるほど、確かにあまり甘いものがないからこれくらいでも十分甘く感じるよな。でも、これは小麦だろう。他のやつでも大丈夫なのか?」


「膨らみ方とか口当たりとか違ってくるけど、大麦でもライ麦でも作れるよ」


「お、それならどの村でもいけそうだな」


 一口に麦と言ってもいろいろ、カインからコルカにかけては小麦や大麦が多いんだけど、ユーリルが働いていた隊商宿がある町ではライ麦を作っていたらしい。麦の種類によってクッキーの味や食感が変わってくるから、それを楽しむ人が出てくるかもしれない。


「テラで作るのが楽しみですぅ」


 海渡がお菓子を覚えてくれたら、あちらでも色々とアレンジしてくれるはずだから、僕も楽しみだよ。


 さてと……そろそろいいかな。


「これから昨日のことを整理してみない」


 昨日はたくさんの話が出たんだ。






「えっと……お風呂はしばらくかかるって言ってた」


「はい、残念でした」


 パルフィにお風呂を沸かすための釜のことを尋ねたら、作ることはできるけど大きなものは鋳造ちゅうぞうじゃないと作れないし、重たくて人手がいるから鍛冶工房に職人さんが集まってからしか無理だろうって言われてしまった。

 そこで、鍛冶工房にも職人を頼むぜと言われたんだけど……


「人集めをどうしよう」


 工房の方も糸車だけでなく荷馬車も作ることになると思うから、これ以上に人手がいるはず。


「職人は風花(リュザール)の方で何とかなるの?」


「工房は、そんなに難しい作業がないから避難民に声を掛けて集めることができると思う。でも、鍛冶工房の方はボクではわからないよ。専門技術が必要だってパルフィは言ってたし……」


 もちろん一から育てるのなら未経験の人を雇ってもいいと思うんだけど、それをやるとパルフィに負担がかかってしまう。


「パルフィさんのご実家にお聞きすることはできないのですか?」


「ボク、あのおやじさん苦手」


 うん、わかる。おばちゃんがいないとどんな客でも客扱いしてくれないんだ。


「でも、鋳造用の炉を頼みにいくんだろう」


「うっ、一個頼むのも二個頼むのも……わかった。話してみる」


 うんうん、風花に任せておいたら安心だ。


「あとは、硬貨ですね……」


「だな、パルフィとリュザールのおかげで、ぼんやりとしていたところもハッキリとしてきた」


 僕たちは硬貨さえ作ったらみんなそれを使ってくれると思っていたんだけど、そう言うわけではなさそうなのだ。


 その時のやり取りがこれ


 ◇◇◇◇◇


『つまり、硬貨を潰して金属に戻しても同じ量の麦に変えられるようにしておくんだ。これなら今までとあまり変わらない』


 リュザールは銅貨10枚で麦一袋の価値と同じになるように硬貨の大きさを決めたらいいといった。それなら麦が硬貨に置き換わっただけだから、みんな使ってくれると思う。


『確かに麦の代わりになりそうだが、硬貨ってやつはたくさん必要なんだろう。なあ、リュザール。あたいたちの手間賃はどうすんだ。少しなら片手間にやってもいいが、ずっとということならさすがに難しいぜ』


『そ、それは……』


 みんな食べるのにいっぱいいっぱいだからタダ働きをする余裕がないし、工房で負担するにしては数が多すぎる。


『な、ならさ、パルフィたちの手間賃分だけ金属の量を減らしたらどうかな』


『硬貨を使うやつは、少し損する可能性があるということか……納得してくれると思うか?』


『麦って保存に手間がかかるから、それを考えたらきっと……』


 そうそう。麦は燃えるし、ねずみに食べられることだってある。


『そうかもな……ただ、そのことを誰も気付かねえぞ。教えてやらねえとな』


 ◇◇◇◇◇


 という感じ。


「硬貨を普及させるときには、誰かが村々を回って説得する必要があるのは分かったけど、風花できる?」


「えっ、ボクだけじゃ無理だよ。誰かついて来て」


 硬貨を普及させるって一大事業だから、風花だけに責任を負わせるのはかわいそう。


「竹下、行く?」


「行ってもいいけど、かなり先の話だからその時に決めてもいいんじゃね」


 それもそうか。


「えっと、硬貨については時期が来たら行きたい人を募集することにして、他に僕たちがやっていくことは……」


「待ってください。せっかくなので紙に書いてみませんか」


 紙に?


「海渡に賛成! 目的がハッキリしてくるからいいと思うぜ」


「ボクもそう思う。誰かが変な事を言い出したときには、それを見せると大人しくなると思うから」


 あはは……


「樹、とりあえず書いて」


「了解……はい、どうぞ」


 紙とえんぴつを用意し、お風呂、硬貨と書いた後、みんなの発言を待つ。


「糸車をたくさん作りますか?」


「糸車っと……うん、たくさん作ろうね」


 各家庭一個あったらかなり便利になると思う。


「俺は機織り機を頼まれてるぜ」


 そうそう、これも必要だ。4番目に機織り機と書く。


「ボクは荷馬車! 早く欲しい!」


「荷馬車ね……何台必要?」


「何台……あ、いきなりたくさんあっても運ぶ商品がない。他のところでも使うようにならないとダメだ」


 なるほど、カインの隊商だけが荷馬車で交易をしても、他の隊商は馬やラクダだから運べる量に制限があるんだ。


「一つじゃなくて、いくつかの隊商を相手にして交易したらダメなのか?」


「うーん、できるかもしれないけど、どこもどうしても必要な物……えっと、例えば塩とか石灰とを乗せる分は空けとかないといけないから、そんなに買ってもらえないと思うんだ」


「風花、糸車をたくさん作っているけど、それはどうするの?」


「それは大丈夫。隊商が運べない分は町や村の人に直接買ってもらうことにするから」


「いいのか? 隊商同士のナワバリとか……」


「元々カインの隊商で回っていたところなら平気。ただ、他の隊商と被っているところは値段を合わせる必要があるから、そのあたりは調整が必要かも」


 隊商の間の約束事とかがあるんだろうな。


「……つまり、荷馬車も糸車と同じようにたくさん作った方がいいってこと?」


「たぶんね。最初の一台をコルカに持って行ったら、隊商の間で大騒ぎになると思う。注文が殺到するはずだよ」


「うへぇー、ただでさえ人が足りないのに無理だぜ。人を増やすとして、樹、村の方は大丈夫なのか」


「結婚前の子供は住む場所があったらいいけど、大人は村の人に聞かないとダメ。父さんと相談してからがいいと思う」


 村に人が増えること自体は、盗賊から襲われにくくなるという利点もあって村の人もあまり反対しないらしい。ただ、使える井戸に限りがあるので、どこに住むかとか、近くの人が嫌がらないかとかの調整が大変なんだと父さんがぼやいていた。


「行商に出る前に、何人まで連れてきていいか聞いておいた方が良さそうだね」


「その時は僕も一緒に話すよ」


 一応工房の責任者になっているから、人任せというわけにはいかないだろう。


「そして……」


「砂糖だな。テンサイの種を手に入れてもらって、来年から植えられるように準備をしたい」


「テンサイっと……タルブクに向かう道のところを開墾しないといけないね。育てるのも僕たちでやるの?」


「ああ、砂糖ぐらいは独占したほうがよくないか?」


「それは止めといた方がいいと思う」


 僕の意見に風花もうんと頷いてくれた。


「どうして……あっ、そうか、そんなことしたら襲われるか」


「そうそう、カインだけ裕福になったら周りの人たちから妬まれるだけだって」


 砂糖は村で使う分の一部を作るくらいで、後は他で作ったものを隊商に運んでもらったらいいと思う。砂糖を目当てに盗賊がどんどん来ちゃったら大変だからね。


「カインではテンサイを作るけど、頼まれたら育て方と砂糖の作り方を教えるってことでいいのか?」


「うん、でも、テンサイって甘くなるのに場所を選ぶんでしょう?」


「ああ、そこは説明して諦めてもらうしかないな」


 そういうところは、綿花とか別のものを作ってもらってもいいかもしれない。

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