第64話 決め事って誰が決めるんですか?
〇(地球の暦では7月15日)テラ
「いい感じに冷えてますよ」
ルーミンの手には、井戸の中から引き上げられたばかりの皮の袋が握られている。
「早く持って行ってあげよう」
私も人数分の器を抱えて、鍛冶工房の建設場所へと急ぐ。
「そこは窯を置くからな、頑丈に頼むぜ!」
ふふ、パルフィ張り切ってる。
「あ、そうそう、こんな感じで積んでくれる」
この声はユーリル。アラルクたちに、パルフィの指示に合うレンガの積み方を教えているのかも。
「なんだか、効率が上がってませんか?」
「図書館の成果が出ているじゃないかな」
朝の散歩のときに竹下に聞いたら、この前の日曜日は建築について調べてたって話してくれた。
「これなら、あっという間にできちゃいますよ」
パルフィは秋にはと言っていたけど、この様子ならその前にできそう。でも、
「みんな頑張っているから、倒れないように気を付けなきゃ」
夏真っ盛り。カインは日本のように湿度は高くないけど、たぶん気温は30度を越えているはず。
「ですね。皆さーん。少し休憩してくださーい」
みんなに器を渡して、カルミル(馬乳酒)を注いでいく。
「ぷはぁー、冷てぇー。生き返るぜ!」
カルミルにはビタミンとミネラルが入っているから、熱中症の予防にはもってこいの飲み物なんだ。
「まだまだあるので、お代わりが欲しい人は……」
すぐに手が……ルーミンは大忙しだ。
さてと、
「完成したらすぐに鍛冶にかかれるの?」
お代わりも一気に飲んで、ホッとした表情のパルフィに尋ねる。
「ああ、窯さえできたら、鍛造はできるぞ」
「鍛造?」
「金属を叩いて形を変えたり強くしたりするんだ」
金属を叩いて……
「荷馬車の部品は大丈夫?」
リュザールはそこが気になるみたい。
「おう、頑丈なものを作ってやるよ!」
荷馬車の方は予定通りにいけそう。
「パルフィさん、鍛造はと仰ってましたが、他に何ができるんですか?」
「あたいができるのは、あとは鋳造だな」
鋳造……
「金属を溶かして型に入れて固めるんだ」
「金属を溶かしてってどこかで……」
「ソル、前に硬貨の話をしたことあるじゃん。あれは鋳造で作る予定なんだ」
ユーリルが汗を拭いながら教えてくれた。
そっか、あの時の……
硬貨はたくさん作る必要があるから、早いうちから準備しておいた方がいいかも。
「パルフィ、鋳造ってすぐにはできないの?」
「鋳造には、溶かした金属を入れる型がいるんだ。大きなものは砂で作るが、小さなものは鍛造で作る。それに、金属を溶かすための炉がいるんだが……悔しいが、これはおやじに作ってもらわねえといけねえ」
そうなんだ……
「ところでよ、その硬貨っていうのはなんだ?」
お金というものを知らないパルフィたちに、ユーリルは貨幣について説明した。
「銅の塊で物を買うって……ねえリュザール、行商人は銅を食べるの?」
ジャバトはパンをがぶりといくような仕草をした。
「いろんなものを食べてきたけど、さすがに金属は無理だよ。それに銅の塊じゃなくて、これくらいの大きさで丸くて平べったいの」
リュザールは手で硬貨の形を作っている。
「食べないのなら、その硬貨ってやつをリュザールたちはどうするの?」
「市で他の商人から買ったり、村で仕入れたり、隊商宿での支払いの時に使うんだ」
「え!? 宿で? そんなものもらってたら、父さんたち生活できなくなるよ」
……理解してもらうのは難しいのかな。
「アラルクよ。ソルたちが言ってんのは、硬貨が麦の代わりになるってことだ。つまり、これまで肉を買いに行くのに重たい麦を担ぐ必要があったのが、ちっこい硬貨でいいってことだろう。かなり楽になるんじゃねえのか」
「そうなの? でも、金属を持ってって代わりに肉をくれるかな……」
そうだよね。金を見ても、きれいな石としか思わない世界だもん。貨幣を広めるのはたいへんかも。
「ねえ、ユーリル。硬貨について、ボクは詳しく聞いたことなかったんだけど、価値はどれくらいにするつもりなの?」
そういえば、リュザールと風花が繋がってからそろそろ一か月近くなるのに、この話はしてなかったっけ。
「え、えっと……」
ユーリルがこちらを見て助けてって顔しているけど、私も考えてないよ。
「ねえ、リュザール。どうしたらいいと思う?」
ここは現役の行商人のリュザールに聞いた方がいいだろう。
「テラの人たちは貨幣について知らないから、いきなり硬貨を作ってこれで物を買えますと言っても無理だと思う」
やっぱり……
「どうしたらいいんだ。リュザール、何か知っているんだろう」
「うん、方法は二つあって、一つは国を作って貨幣の価値を保証すること。これは今の地球ではそうだね」
確かに地球では1,000円と書かれた紙で1,000円分の物を買っている。あれは確かに国が保証しているから安心して使えるけど、知らない人が見たらタダの紙だ。
「リュザールさん。国って何ですか?」
「えとね、国と言うのは…………」
リュザールまでこっちを見て説明してって顔を……仕方がないなぁ。
「ねえ、ジャバト。一人で暮らしていくのと、みんなと暮らしていくのはどちらが楽だと思う?」
「もちろんみんなと暮らしていった方が楽です。一人だと全部自分でやらないといけないし、盗賊に襲われても誰も助けてくれません」
「だよね。国と言うのは一人で暮らしていくのが大変だと思う人たちが集まった地域のことなんだ」
「……それって、カインみたいな村とかコルカみたいな町もそうなのですか?」
「うん、そうと言えなくもないんだけど、国はもっと広い範囲で決め事をしたりしてみんながそれを守っていく感じかな」
「ふーん、決め事って誰が決めるんですか?」
「みんなで話し合って決めたり、誰かを責任者にしてその人が決めたり……かな」
「責任者って村長さん?」
「うーん、父さんたちは責任者というより調整役のような……でも、まあ似たようなものかも」
「なんかわかったようなわからないような……」
私だってうまく説明できたとは思わないよ。
「それでよリュザール。この村の中でならタリュフさんが決めたことなら、硬貨というものを麦の代わりに使うこともできるだろうが、他の村ではそうもいかねえぞ」
「うん、だからもう一つの方法をとったらどうかって思っているんだ」
もう一つの方法?




