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第62話 天才さんですか?

〇(地球の暦では7月9日)テラ



「お疲れ様ー。あれ……リュザールとユーリルは?」


 ジャバトと一緒に井戸で汗を流しているアラルクに尋ねる。

 今日は朝からリュザール、ユーリル、アラルク、ジャバトの工房男手四人衆で、用水路を完成させるために薬草畑まで行ってたんだけど……


「行くところがあるからって二人で残ったよ」


「僕たちもついていきましょうかって言ったんですけど、ユーリルさんに大丈夫だから早く帰れって言われちゃいました」


 カァルも戻って来てないから、一緒についていったのかな。


「それで用水路は?」


「うん、川のところに作った堰を開けたら、うまいこと流れてた。あんなやり方を知っているって、さすがソルたちだね。感心したよ」


 あはは……


「これで水撒きが楽になるでしょう」


「はい。天秤棒は便利でしたけど、さすがに何往復もするのは大変で……」


 私と父さんが旅に出ている間は、工房のみんなが交代で手伝ってくれていたみたいなんだ。


「ありがとう、ジャバト」


「いえ、でも正直に言うとこれから暑くなるのにどうしようかと思ってました」


 ほんっと、真夏になる前に完成してよかった。大切な薬草を枯らさないためにいくら暑くても休むわけにはいかないから、みんなに熱中症に注意してもらいながらの作業をお願いしないといけないところだったよ。


「今日初めて見せてもらったんだけど、あの天秤棒もソルが作ったんだって? すごいなー。まだ隠しているものがあるんじゃない?」


「ははは……」


 地球から持ってきたいものはたくさんあるけど、いっぱいありすぎて何から始めたらいいかわからない状態。少しずつやらなきゃ。


「ところでソルさん、工房は?」


「みんなまだやっているよ」


「僕、手伝ってきます!」


「あ、ジャバト! ヤバ、行かなきゃ……」


 二人ともあっという間に走って行っちゃった。

 ルーミンの気を引こうとしているのかな……頑張れ!






〇7月9日(日) 地球



「海渡です!」


 部屋のドアを開けると海渡が一人で立っていた。


「入って。風花はもう来ているよ。竹下は?」


「途中まで一緒だったんですが、急に調べものがあると言って図書館に向かっちゃいました」


 何か思いついたのかな……


「あ、風花先輩、押忍!」


 部屋に入った海渡は、テーブルの前に座っている風花に対して武術でよく見る姿勢で挨拶をした。


「海渡くん、押忍!」


 風花まで……


「海渡、もしかして、リュザールが言ったことを練習してたの?」


「はい! 朝から兄ちゃんの動きを観察しちゃいました」


 ほぉ、お兄さんの……


「どうだった?」


「朝の仕込みの時も眠そうで、それに腰も重そうにしてました。昨日の夜帰ってくるのも遅かったので、きっと彼女さんとハッスルしちゃったんですね」


 海渡のお兄さん、大学生だもんな……


「ね、よく見てたら普段と様子が違うのもわかるでしょ。こんな感じで目を鍛えていったら、相手の動きも読めるようになるよ」


 普段の練習が大切ってことか。僕も頑張ろう。


「それで、竹下は? 遅れるの?」


「『すまん。一日かかるかもしれん』って仰ってました」


「海渡くん、似てる!」


 ほんと、竹下の口調にそっくり。


「そうですか。いやいや、まだまだですよ。あ、そうそう、風花先輩。昨日はユーリルさんとどこに行っていたんですか? 竹下先輩にそのことを聞くと、あからさまに話を逸らすので余計に気になってしまって……」


 そういえば、夕食の時も教えてくれなかったな。


「うーん、ユーリルが話したくないことをボクが話していいのかな……」


「内緒にされるということは……はっ! まさか、お二人でいかがわしいことをされてたとか?」


 カァルもいたのに?


「ボクは樹とソル以外とやりたいとは思わないよ。ま、二人にならいいか。ユーリルは一年で間に合うのか心配しているみたいなんだ」


 一年……パルフィのおやじさんとの約束の期間だ。


「武術の会得ですよね。間に合うのですか?」


「会得自体は難しいけど、おやじさんに対抗できるくらいには何とか……それでも基礎をしっかりと固めておかないと技だけ覚えても意味がないんだ」


「ん? もしかしてユーリルは手っ取り早く技を教えてくれって頼んだってこと?」


 風花はうんと頷いた。

 気持ちは分かる。期限は決められているのに、しばらくの間は他の人を観察して過ごせと言われても不安に思うだろう。


「それで甘ったれるなと言って追い返したんですか?」


「ううん、せっかくだから、カァルと遊んできた」


 どういうこと?

 風花に理由を聞く。


「はぁー、夕食の時にユーリルさんが、カァルくんを見ながら食べてたのはそういう理由だったんですね。ユキヒョウ好きが悪化したのかと思ってました」


 僕もそう思ってた。

 元々野生で過ごしていたカァルの動きは、リュザール以外の誰もが予測することができなくて、みんな簡単に飛び掛かられていた。それを、リュザールのようにかわせるようになったらそれだけ早く技も上達するということで、カァルの動きを注視するようにってリュザールはアドバイスをしたみたい。


「カァルの動きはピカイチだからね。それがわかるようになったら、会得だって難しくないかも」


 ユーリルはユキヒョウ好きだから、すぐに上達しそうだな……


 さてと、話はこれくらいにして、


「そろそろ始めようか」


 今日集まったのはみんなと話をするのが目的じゃなくて、来週の試験勉強のため。風花が転校してきたばかりで不安があると言っていたからね。それで、風花にうちの学校の出題の傾向を伝えながら一学期の学習内容の復習をしようと思うんだけど、まずは……


「風花はどの教科が好きなの?」


「うーん、数学かな?」


 商人だから、計算が好き?


「二人は?」


「僕は英語とか社会とか」


「僕は国語です!」


「つまり、二人は文系?」


 そういえばそうかも。


「ボク、理科が苦手なんだ。誰か得意な人いる?」


「それなら、竹下先輩にお聞きになったらいいですよ。何でもお得意ですが、特に今は高三の物理を勉強されてますので、中学レベルだったら先生よりもわかりやすく教えてくださいます」


 そうそう、面倒くさがらずに丁寧に教えてくれるんだ。


「竹下くんって、頭がいいんだ……あ、もしかしたらお姉ちゃんと話が合うかも」


「お姉さんですか? 確か穂乃花ほのかさんでしたっけ?」


「うんそう。お姉ちゃんは高二だけど、もう大学で習うところをやってるみたい」


 だ、大学!?


「て、天才さんですか?」


「うーん、どうだろう。知らないことがあるのが気に入らないって言ってたから、思わず先までやっているだけじゃないかな」


 だからって普通は先までやらないんだけど、竹下にしろ穂乃花さんにしろ、頭がいい人の考えることはよくわからない。


「僕たちも竹下を見習って先の方を勉強しているから、たぶん風花にも教えることができると思うよ」


 そこで、どこがわからないのか確認するため、風花に試験範囲の問題集を解いてもらうと……


「あ、わかる」


 教科書は違っても進んでいるところは一緒だったのかな。これなら試験も問題ないだろう。


「それでは、いつものように得意な分野を教え合うことにしますか」


 それから勉強していたらいつのまにか数時間たってて、気が付いたら午後の三時を回っていた。


「えっと、どうする? まだ勉強を続ける? それともお菓子を作ってみる?」


「お菓子! いいですね」


「あ、あのね。お菓子も気になるけど、ボクに秘術のことを教えてくれないかな……」


 海渡と顔を見合わせる。

 風花、なんで秘術のことを何で知っているの?

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