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第60話 月の位置はいいみたい

 その日の夜、秘術の練習を終えた私とルーミンは桶を持って井戸へと向かう。


「もう来ているでしょうか?」


「うーん、どうだろう。でも、月の位置はいいみたい」


 中庭から見える月が隠れ始めている。この位置ということはたぶん午後の九時くらいだから、ちょうど約束の時間くらいじゃないかな。


 ほら声が聞こえてきた。


「どっち?」


「たぶんあっち」


 居た居た。

 台所の横の通路を抜けると、リュザールとユーリルが井戸のそばで空を見上げていた。


「お待たせ。あれ、カァルは?」


「もう寝てたぜ」


 今日もいっぱい遊んでいたからね。


「ところで、それ何?」


 ユーリルの目が桶の中を……


「みんなで体を拭いていたんだ」


「体を……と言うことは、この布は女の子の……」


 ユーリルの視線は桶の中に固定されてしまった……


「先輩。お気持ちはわかりますが、さすがにそれは引きますよ」


「だ、だってしょうがないだろう。思春期なんだから」


 私も樹の記憶しかなかったら、気になっていたかも。


「そんなことより、見えるの?」


「ほら」


 リュザールが指さす東の方角を見上げる。

 うわ、ものすごい数の星。


「あれが天の川でしたっけ」


 光の帯が空の真ん中を走っているよ。


「ああ、俺たちが住む銀河系でもあるな」


「すごいね。日本では周りが明るいからここまで見えないよ。それで織姫さまと彦星さまはどこ?」


「あそこ……見える? ベガ(織姫さま)はギリギリ、アルタイル(彦星さま)は全然。この時間なら見えると思ったんだけど、あの山がな……」


 あれが織姫さまなんだ……ほんと山から出たばかり。彦星さまは山かげか……

 今日はちょうど七夕。カインは日本よりも西側にあるから遅めに時間に集まって星を見ようと思ったんだけど、東側に高い山があるからそれでもまだ早かったみたい。


「残念」


 明日の地球の予報は雨だし、こちらには梅雨がないから今年こそは見えると思ったんだけどなぁ。


「なあ、ソル。もしここで七夕みたいなものをやるつもりなら、あと半月ほど後の方がいいかもな。これよりも遅い時間は誰も起きちゃいねえぜ」


 こっちは朝が早いし、灯りに使う油がもったいないからみんな早く寝てしまう。

 それにしてもこちらで七夕か……考えてもみなかった。


「私、そういうイベントをやってみたいです。こっちでそんなことをやった記憶がありません」


 私もない……


「二人は何かやったことある?」


 男性陣に聞いてみる。

 ユーリルは隊商宿で働いていたし、リュザールは行商人だ。他の地方のことも知っているかもしれない。


「うーん、無いけど、あえて言うなら結婚式?」


「あ、ボクもそれくらいかも」


 結婚式……それはカインでも村をあげて盛大にやってる。テラでは食べるのに精一杯だから、どこの村でもイベントをやる余裕がないのかも。


「こちらでも何かやったらみんな喜ぶかな」


「喜ぶと思いますけど、今日はそろそろ戻らないと皆さん心配しますよ」


 そうだった。


「今度、また話そう。私たちはこれを洗っていくから、二人とも今日はありがとう」


「……夜も遅いし、手伝おうか?」


 リュザールが桶の中に手を伸ばしてくる。好意だというのはわかっているけど、これを触られるのは恥ずかしい。だって、秘術の練習をしたあとで……


「だ、大丈夫、私たちだけで平気だよ」


「そう? みんなでやった方がすぐに終わるよ」


 正論だ……どうしよう。


「ふふふ、これはカインの女の子の秘密なのです。たとえリュザールさんが地球で女の子だとしても、申し訳ありませんが手伝ってもらうわけには参りません」


 る、ルーミン。


「カインの……わかった。でも、終わるまでは居させて、さすがにこの時間に残してはいけないよ」


 それくらいなら仕方がないか。







〇(地球の暦では7月8日)テラ



 太陽の位置は……そろそろ。


「はーい、今日はこれまでにしよう」


 いつもよりも早めに声を掛ける。


「ソル、いったいどうしたんだ。夕方にはまだ早えぞ」


「パルフィ、リュザールの武術に興味ない?」


「もしかして、見せてくれるのか。話でしか聞いたことが無かったから、気になっていだんだぜ」


 みんなに工房横の広場に集まってもらう。ここでは糸車の材料となる木を置いたり鍛冶工房を作るためのレンガを干したりしているんだけど、片付けてもらって中央にスペースを作った。


「なあソル、あいつ、何してんだ?」


 パルフィの視線は、真ん中に一人で立って腕を組んでいるリュザールに注がれている。


「アラルクを待ってんだよ」


「アラルク……そういやいねえな。どこ行ったんだ?」


「剣を取りに行ってると思う」


 朝の打ち合わせの時にそう言っていたからね。


「剣を? ……な、なあ、あいつの剣はあたいがこっちに来る前に整備してっからよ。当たったら大変だぜ」


 あ、そうか、あの話を聞いたのは地球の時だった。パルフィたちは知らないんだ。


「大丈夫だと思うよ」


「ほんとかぁ、あたいは知らねえぞ」


 た、たぶん大丈夫だよ。アラルクの剣の腕前がどれほどかわからないけど、リュザールにかすることすらできないじゃないかな。アラルクも含めて、男部屋のみんなを一瞬のうちにひん剝いたらしいから。


「アラルク、来た」


 みんながコペルの声に反応し、家の方を見る。やっぱり手には剣を……ん? 後ろに見えるのは……


 ありゃ、父さんまで来ちゃったよ。

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