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第59話 カァルくんはされるがままですね

 薬草を摘む私の足元を、白い毛皮をまとった猛獣が忍び足で歩いていく。


 今度はどうかな……


 作業を止めずに、なりゆきを見守る。


 お、もしかして、気付いてない?


 いい具合に薬草の陰に隠れているんだ。それに、風に合わせて一歩一歩進んでいるから、足音だって聞こえていないのかも。


 止まった。いよいよか……


 あの場所ならひとっ飛びで……


 いった!!


 カァルは地面すれすれまで体を伏せ、持ち前の瞬発力を活かして一気に飛び掛かった。


「うそ……」


 リュザールの背中に張り付くと思っていたのに、なぜか首根っこを掴まれてしまっているよ。

 あーあ、鼻にキスされて……あはは、嫌がってる、嫌がってる。


「ああなったら、カァルくんはされるがままですね」


 ネコ科の動物だからね。


「ルーミンも見てたの?」


 ルーミンがよいしょと言って、薬草がたくさん入った籠を担ぎ上げてこちらに向かってくる。


「はい、今度はいけるかと思ってました」


 私もそう思ってた。

 お、カァルも解放されたようだ。


「少し、休憩しようか」


 三人で木陰に向かうと、カァルはいつものお気に入りの場所に寝転んだ。

 ルーミンは、水を張って日陰に置いていた桶の中から皮の袋を取り出し、私とリュザールにカルミルを注いでくれた。


「ルーミンちゃんありがとう。ひんやりしてて美味しいよ」


 ほんと、人心地ついた気がする。

 冷蔵庫に入れていたわけじゃないから冷たくはないんだけど、今日は暑いから水につけていただけでも涼しく感じるんだ。気温は……30度くらいありそう。もう、夏と言っていいかも。


「どういたしましてです。それでリュザールさん、先ほどのことですがカァルくんは風下から行ってましたし死角だったでしょう。どうしてわかったんですか?」


 そうそう、ずっと物音も立ててなかったし、薬草に隠れててリュザールの位置からは一度も見えてなかったはず。


「殺気が出てたんだ」


 殺気が? 気付かなかった。


「出してたの?」


「にゃぁ……」


 カァルは首をひねっている。無意識に出ちゃってたのかな。


「カァルくんはこれで何回目でしたっけ?」


「うーん、5回目かな」


 カァルは、リュザールと初めて会った時に遊んでもらおうと思って飛び掛かったんだけど、リュザールが思わず避けてしまって……それからカァルに火がついたみたい。


 それにしても5回か……


「迷惑?」


「全然。好きな時にかかってきてもらっていいよ」


「にゃ!」


 カァルのやる気も健在だ。


「ただ、カァルもだんだんと気配の消し方がうまくなってきているから、そのうち避けきれなくなるかもね」


 気配か……リュザールと遊びながら覚えてくれたら、いつかカァルが野生に帰った時に役に立ってくれるかな。


「ソルさん、カァルくんがレベルアップしていくのは喜ばしいことですが、私たちの方も急がないといけないのではないですか?」


「ルーミンちゃん、急ぐって武術の訓練のこと?」


「はい、ユーリルさんが一年以内に強くなる必要があるみたいなのです」


「あ、そうか、期限があったんだ」


 パルフィに一目ぼれしたユーリルは、私たちにどんなことがあっても一緒になると宣言した。そのためには、一年以内にパルフィのおやじさんを倒せるほどの力が必要なんだけど、簡単にはいかないと思う。


「できそう?」


 コルカを出発するときに、リュザールはユーリルを見てみないとわからないと言っていたよね。


「うーん、こっちとあっちとでうまく調整していったらいけると思うけど、あとはユーリルの頑張り次第かな」


 糸車の製作の時でもわかるように、パルフィの腕は超一流だ。もしコルカに帰らないといけなくなってしまったら、カインにとってどれだけの損失になるかわからない。ユーリルには何としてでも武術を会得してもらって、パルフィを繋ぎとめてもらうしかない。


「ところで、パルフィはユーリルのことをどう思っているの?」


「『ま、悪くねえんじゃねえの』って言ってました」


 うまい! ルーミン、そっくりだよ。


「へぇ、あのパルフィが……それは何としても一緒にさせてあげたいね」


 アラルクも言っていたんだけど、パルフィが男の人を認めることってほとんどないらしくて、私が勧めていたとしても会って間もないユーリルに興味を示すこと自体が珍しいことなんだって。


「それでリュザールさん。いつから武術を教えてくれるのですか? 私も楽しみなんです」


「別にいつからでもいいよ。今日は?」


「今日は無理かな。戻ったらすぐに夕食の準備を手伝わなきゃ」


 ここでの作業が終わるのが日暮れ近くになりそうなんだよね。


「そっか、レンガ造りも始まったばかりだし、糸車も作ってもらわないといけない。やっぱり、みっちりと指導することは難しいか……」


 他にも生活するために必要な作業もあるから、こちらで時間の余裕を作るのはなかなか難しい。休日だってないし……


「間に合う?」


「うん、ボクの武術で一番大事なのは目だから、それの鍛え方を教えるよ。明日ちょっとだけ時間を作ってもらえる?」


 目……視力を鍛えるということかな?

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