第58話 試験……ボク自信がない
〇7月6日(木)地球
「頼むな、風花。男手が一人いると何とかなると思うんだ」
「荷馬車のためなんだろう。協力するよ」
昼食をすませた僕たちは、学校の渡り廊下に集まった。今日は朝から雨だったから散歩ができなかったのだ。
「明日から取り掛かるのですか?」
「ああ、朝からレンガ造りをして、午後は工房で糸車かな」
アラルクだけでなくリュザールが来て男手が揃ったから、予定よりも早く鍛冶工房を作ることになったのだ。パルフィの技術を埋もれさせないためにね。
「僕は午後から薬草畑にいくよ。ジュト兄が薬が足りなくなりそうって言ってたんだ」
「りょ! 二、三人抜けてもみんなでフォローしとくから。安心して行ってきな」
それなら、遠慮なく畑仕事をさせてもらおう。
「ところで竹下先輩、風花先輩、昨日何があったのか教えてくださいよ。ずっと気になっているんです」
「昨日?」
「はい、リュザールさんを男部屋に連れて行ってからのことです」
そう、昨日の夕食の時の男部屋の面々はかなり楽しそうだったのだ。きっとあの時に何かあったに違いない。
「あー、さすがリュザールって感じだったぜ」
と、いうことは……
「誰か無力化されたの?」
「誰かって、みんなだな」
うわ、風花、鼻高々だよ。
「全員やられちゃったんですね」
「ああ、文字通り全員ひん剥かれちまった」
「ひん?」
なんで? リュザールを脱がしてたんじゃないの?
「いつものようにリュザールに事情を話して、脱いでもらっただろう。それでみんなで見て問題なさそうだってなったところで、リュザールが自分だけ見られて不公平だって言い出して、全員をひっくり返して脱がせちゃってさ」
「皆さん、抵抗は?」
「無理無理、あっという間。一度やられた俺だって、何が起こったかわからなかったんだから」
僕たちを相手にする時は手を抜いているのはわかってたけど、本気のリュザールって誰もかなわないんじゃ……
「それだけで、あんなに仲良くなったんですか?」
「いやー、みんな裸になったから、誰が一番大きいかって比べっこが始まっちゃって……」
男ってバカだよね。
「それで?」
「気になる?」
はは、少なくとも二人のどっちがかはわかっちゃったよ。風花が悔しそうだ。
「今のところ俺が一番で……あ、この先は止めとこう、プライバシーに関わる」
「ボクは別にいいよ、僅差で二位だから」
へぇー、リュザールってユーリルと同じくらい……って、どれくらいなの?
〇(地球の暦では7月7日)テラ
お昼過ぎ、レンガ造りを終えたリュザールを誘って薬草畑まで向かうことになった。
「さすがリュザールさん、三人乗っても安定してますね」
二人っきりはダメなので、お目付け役として付いて来てもらったルーミンが一番前に座って、リュザールが真ん中で馬を操り、私は一番後ろ。馬に余裕はあるんだけど、リュザールが大丈夫だというからお願いすることにしたんだ。乗せてもらう方が楽だからね。
「馬の扱いひとつで生き残れるか決まることがあるから、いろんな場面を想定して隊商のみんなで訓練しているんだ」
そういえば、襲われたときにセムトおじさんたちは馬の上の盗賊をロープでうまくひっかけてた。普段から練習していたのかもしれない。
「ユーリルさんとどちらがうまいでしょうか?」
「ユーリルもうまいの?」
「はい、遊牧民の出身なので手足のように馬を扱いますよ」
「へぇー、そうなんだ。遊牧民にはかないそうにないな。今度教えてもらおうかな」
足りないところをみんなで補えたらいいよね。
「ソルさん、後ろ。カァルくん諦めてないみたいですね」
振り向くと、私たちのあとを白い獣がいつもの調子でついてきている。
今日は遊ぶ暇がないから来ないように言っていたんだけど……リュザールにリベンジしたいのかな。
「リュザール、あとから相手してもらえる?」
「もちろん。ボクも訓練になるから構わないよ。ところでソル、この道は確かタルブクに……どこかに畑があった?」
「うん、途中で左に曲がるでしょう。そこをまっすぐ行くんだ。リュザールはタルブクに行ったことあるの?」
「一度……ほんっと遠かった。それに、途中ほとんど人が住んでいないから息抜きもできなくて……」
うわ、大変そうだ。
「どこかにいい土地は無かった?」
「牧草地に良さそうな場所があったけど、羊でも増やすの?」
「ううん、今度砂糖を作ろうと思って」
「砂糖って……あ、そうか砂糖大根! テンサイだ。こっちにもあるんだね。うん、開墾したらテンサイも作れると思う」
さすがリュザール、テンサイのことを知っていた。
ユーリルがテンサイの栽培には寒暖差が大きい方がいいと言っていたから、それなら村で作るよりも標高が高いタルブクに向かう山沿いがいいのではないかと思ったのだ。
「セムトさんに種を頼んでいるから、リュザールも探してみて」
「了解。ほんと、楽しみだな。まさか砂糖を扱えるとは思わなかったよ」
「ダメですよ、リュザールさん。まずは私が料理に使ってからです」
そうそう、先約があるんだ。
「料理? そういえば、こちらの人は砂糖の使い方がわからないんじゃ……うーん、持って行っただけでは売れないかも」
そうなんだよね。こちらには砂糖を使うことが無いから、みんな舐めて甘いとしか思わないかもしれない。
「ねえ、ソル、この前クッキー焼いていたでしょう。ボクにも教えて」
「クッキーを? いいけど、どうするの?」
「小麦粉ならここにもあるし、砂糖と一緒にこんなものができますよって見せた方がいいと思うんだ。まあ、ルーミンちゃんの方が先だからすぐには扱えないかもしれないけど、練習しておいて損はないでしょう」
ということは、隊商宿で作れないといけないから……
「わかった。こっちではオーブンの代わりにパン焼き窯で作るつもりだったけど、鍋で作る方法も教えてあげるよ」
テラの主食はパンだから各家庭の台所にはパン焼き用の窯があるんだけど、旅の時に泊まった隊商宿にはどこにもなかった。たぶん、どの隊商も食事の用意すら適当なのにパンなんて焼くはずないということで準備してないんだと思う。
「試食してもらいながら、みんなにはパン焼き窯でパンを焼きながら作れますよって言ったらいいんだね」
「うん、ただ落ちないように気を付けないといけないから、鍋で作る方法も教えておいた方がいいかも」
こちらのパンは平窯じゃなくて壁にパンを張り付けて焼くから、しっかりとくっつけておかないと下に落ちちゃってることがあるんだ。
「あのー、私も教えてもらってもいいですか? お菓子は初心者なので……」
海渡がいてくれると手際がいいから助かる。
「もちろん! 早速今度の週末に集まる?」
「私はいいですけど、来週、試験ですよ?」
そうだった。
「し、試験……ボク自信がない」
風花は転校してきたばかりだから、仕方がない。教科書だって違ったみたいだし。
「勉強で集まる? よく、樹の家で泊りがけでやっているんだ」
「泊りは無理だと思う……」
そうか、風花は年頃の女の子だ。
「それなら、昼間に集まってやっちゃいましょー」
「えっ? 海渡は大丈夫なの?」
夜集まるのは海渡がお店の手伝いがあるからなんだけど……
「試験前なので放免してもらいます」
「わかった。戻ったらユーリルに伝えよう。あ、リュザール、そこを真っ直ぐだよ」




