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第56話 閑古鳥が鳴いている……

 学校を出た僕たちは、竹下の家がある商店街に続く道へと入った。


「あまり変わってない」


 先日風花たちを迎えに行った駅の周辺は様変わりしているんだけど、このあたりは古い町並みを残そうと商店街の人たちが頑張っている地域だから、あまり新しい建物はないんだよね。


「外側はな。でも、中の店は結構変わってるぜ」


 珍しい雑貨を扱うお店や都会から移住してきた人が始めたカフェなんかがあって、お年寄りが多かった商店街に若い人が集まるようになってきている。今だって学校帰りの高校生の人たちが何人も歩いているから、たぶんどこかのお店で放課後を楽しむつもりなんだろう。


「風花は俺ん家、覚えてる?」


「竹下くんの? うーん、なんか古いお店だったと思うけど……」


 うん、古いお店なのは間違いない。確か江戸時代に作られたとか聞いたことがある。


「まあ、そんな感じ」


 風花に、新しいお店とか以前と変わったところを案内しながら商店街の中を5分ほど歩いた僕たちは、小さな交差点の角にある大きな暖簾のれんのかかったお店の中に入った。


「そうだ、ここだった……って、こんなお店だった?」


 風花が驚くのも無理もない。以前の竹下の家は老舗の呉服屋さんと言ったらこれという古めかしい感じの佇まいだったんだけど、去年のリニューアルを機にカフェを併設したり化粧品のサロンを定期的に開いたして、若い人が集まりやすいお店に変わっている。もちろん、店の奥には昔ながらの趣を残したまま高級な呉服が展示してあるから、お店に来た人は自由にそれを見たり試着したりすることもできるみたい。これは、若い人たちにとって敷居が高くて入りにくい呉服店というものを何とかしたいと考えた、竹下のお父さんとお兄さんのアイデアで……


「閑古鳥が鳴いている……大丈夫、竹下くん?」


 行商人の風花はお客の入りが気になるようだ。


「違う! 今日は店休日なの、いつもはお姉さま方が集まって賑わっているの!」


 竹下の言う通り、今のところは順調にいっているみたい。


「こっちに座って」


 竹下は、今日は誰もいないカフェスペースに僕たちを案内した。


「何飲む?」


「んー、ブルマン」

「ブルーマウンテン!」

「え、なら、ボクも」


「バカ! そんな高いもの出せるか! やり直し!」


 メニュー表に載っているもので高いやつを言ってみたけど、オーダーを通してもらうことができなかった。仕方がない。


「ブレンドをホットで」


「僕はアイスココアがいいです!」


「ボクはミルクティーにしようかな。あ、あったかいやつ」


「三人ともバラバラって……OK、用意するから待ってて」


 竹下はカウンターの奥に消えていった。


「えっと、お金は? ボク、今日はあまり持ってきてないよ」


「僕たちはここでは払ったことないよ」


「はい、その代わり、このお店が忙しいときにお手伝いすることになっています」


 そうそう、表に出ることはほとんどなくて、裏でお皿を洗ったりしてるんだ。


「だから、風花も手伝ってあげて」


「そうなんだ。頑張る」


 風花ならウエイトレスでもいけるよ。もし、変なおじさんが絡んできても問答無用で投げ飛ばし……ダメじゃん。あとで言い聞かせとこう。


「海渡! 手伝って!」


 あいあいさーといって海渡が奥に行き、竹下と一緒に飲み物を運んできた。


「竹下もブレンド?」


 みんなの前にそれぞれが頼んだものが並べられているんだけど、僕と竹下の前にはたぶん同じものが置かれている。まさか、自分だけブルマンじゃないよね……


「ああ、ブレンド。最近ブラックにはまってんだ」


 ブラックねぇ……テラではまだ砂糖が手に入りにくいから、コーヒーがあったとしたらブラックかミルクを入れるくらいしかできないよな。なら、僕も試しにそのままで……に、苦い……あ、でも、ちょっと甘みを感じるかも。

 みんなは?

 風花と海渡はおいしそうに飲んでいる。あーあ、竹下は苦虫を嚙み潰したような顔しているよ。まあ、それが好きなんだろう。


 さてと、そろそろ一息ついたかな……


「風花、今日はどうだった?」


「最初は緊張したけど、何人か覚えている顔があったから平気だったよ」


 山下もそうだけど、それ以外にも幼稚園から一緒の友達は多い。学校の近くにはマンションも建ってきていて新しい住民もいるけど、うちや竹下の家のように先祖代々何百年も住み続けている人たちもたくさんいる。


「そういえば、今もそうですけど、風花先輩は時々話し方が違っていることがありませんか?」


「うん、リュザールになっている時があるみたい」


 みんなで風花を見る。


「この話し方が楽なんだ。おかしいかな?」


「おかしくは無いけど、リュザールってこんな話し方なの?」


「うん、元気な男の子って感じ」


 竹下も海渡もあーなるほどって顔している。たぶんふーくんが大きくなったところを想像しているんだと思うけど、まさにその通り。


「それで竹下先輩、今日僕たちを呼んだのはのんびりお茶するためではないですよね?」


 そうそう、そうだった。たぶん何かの相談事があったはずだ。


「今日さ、風花が山下を投げ飛ばしただろう」


「あれは山下がボクの後ろに立ったのが悪い!」


 まあ、そうなんだけど……


「もしかして、問題になったの?」


「いやいや、山下はそんなことぐらいで文句言うやつじゃない。むしろ、もう一度やってくれと土下座してくる可能性の方が高い」


 そういや、そうだ。


「あそこに由紀ちゃんが一緒にいたじゃん。風花の技を見てもらって話が早かったぜ」


 どういうこと?

 詳しく竹下に説明してもらうことにした。







「つまり、僕がその同好会の部長をやったらいいんですね」


「そう、俺たちは三年だから認めてもらえないけど、海渡は二年だから問題ない。顧問は由紀ちゃんが引き受けてくれることになったんだ」


 何のことかと言うと、リュザールの技を地球で風花から教えてもらうための場所の話で、畳張りの武道場を使わせてもらうために竹下が由紀ちゃんに掛け合って同好会を作ることになったみたい。


「同好会を作るのはわかったけど、なんで由紀ちゃん?」


「樹、知らなかったのか。由紀ちゃんって大の武道マニアなんだぜ」


 そ、そうなんだ。


「それで、今日都合よく由紀ちゃんの前で山下が風花から投げ飛ばされそうだったから、見てもらったってわけさ」


 その結果、風花の技に興味をもった由紀ちゃんが、武術研究会という名の同好会の顧問になることを了承してくれたってことらしい。


「いつから始められるの?」


 まだ竹下には伝えてないけど、ユーリルがパルフィと結婚するためには一年以内……いや、もう一年は無いから、一日でも早く始めないとパルフィのお父さんの説得はうまくいかないだろう。


「由紀ちゃんが全力で動くって言ってくれたけど、夏休み前にできるかどうかじゃないかな」


 これは、夏休みに使えるかどうかにかかってきそうだ。


「由紀ちゃん先生は顧問をするだけなんですか?」


「いや、風花と戦いたがっている……」


 由紀ちゃん、見かけによらず武闘派なんだ……

 って、風花も嬉しそうな顔しないの。

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