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第48話 いつものいっときますか?

〇6月30日(金)地球



「はい、これ読んで」


 海渡に一枚の紙を渡す。


「うーん……カービリンキョイシェフィキンディッシュ?かな?」


 首をひねりながらも海渡は答える。


「うん、正解。次は紙にその答えを書いて、呼んで」


 海渡は、問題文の下にシャープペンシルで答えを書き込んだ。


「セインタリュフ……ですか?」


「すごいぞ、海渡。短期間でよく読み書きできるようになったな!」


 竹下は海渡に抱き着き頬ずりしている。

 気持ちはわかる。僕もギュっとしてあげたいもん。


「えへへ、お二人のおかげです。これでまたあちらの世界でお役に立つことができます」


 竹下から解放された海渡は少し照れているようだ。


 カインに来た時のルーミンは、テラの多くの人たちと同じように読み書きがほとんどできなかった。その後海渡と繋がって記憶を共有できるようになったけど、海渡がテラの文字を全く知らないので読み書きができないままだったんだよね。それから時間を見つけては海渡とルーミンに読み書きを教え、ようやくそれが実を結んだというわけ。

 ちなみにソルは小さい頃から父さんたちに教えてもらっていたし、ユーリルも隊商宿で教わったと言っていたから、海渡だけが文字を読めないって悔しがっていたんだ。


「あっちに紙があったらもっと早かったと思うんだけどな。やっぱり不便だわ」


 竹下はこう言っているけどあちらにも一応紙はある。ただそれは羊などの動物の皮をなめしたいわゆる羊皮紙というやつで、作るのがほんとにめんどくさい。だから使うことができるのはタリュフ父さんのような村長やセムトおじさんたち隊商の隊長くらいで、勉強とかに使わせてもらえるような代物しろものではない。それに筆記具も墨しかないから、テラで勉強しようと思ったら地面に木の棒で書くくらいしか方法がないのだ。


「なんか知識を得ると欲が出ちゃってさ、あっちでも紙が欲しくなるよな」


「そうだね。昔みんなで作り方を調べたことがあったでしょう。試しに作ってみようか」


「だな。でも、俺たちだけじゃ無理だぜ、ソルが帰って来てからじゃないとみんな手伝ってくれないよ」


 竹下たちの話では、ユーリルもルーミンも結構みんなと仲良くなっているような気がするけど、まだ遠慮しているのかな。


「わかった。すぐには無理かもしれないけど、帰ったらみんなに話してみよう」


 地球の紙の材料と言えば植物だけど、あちらには羊毛がいくらでもある。それで作れるんじゃないかって話していたことがあるんだ。


「ソルたちが帰って来るのは明日?」


「うん、昨日は隣村のバーシに泊っているから、明日の昼頃には着くと思うよ」


「ようやくですね。長かったです。お会いできるのが楽しみで仕方がありません」


 僕もみんなに会えるのが待ち遠しい。


「ほんと、みんなに悟られないようにするのが大変だったぜ」


 二人だけだもんね、ソルたちがどこにいるのか知っているのは。


「それがですよ、どうもコペルさんがうすうす感づいているようなんですよ。どうしてでしょうか?」


 海渡は不思議そうな顔をして首をかしげた。


「それはお前(ルーミン)のせい! ソルがコルカから出発したって聞いてから、ニヤニヤしっぱなしでこっちはヒヤヒヤしてんだから」


「おや、気付きませんでした。きっと、内面から出る喜びを隠せてなかったんですね」


 コペルって勘が良さそうだから内緒にしててもいずれ気付かれそうだし、一度キチンと話しておいた方がいいのかも。


「途中盗賊に襲われたのを聞いた時は驚いたけど、みんなが無事帰って来れそうで安心したぜ。リュザールも一緒なんだろう」


「ううん、リュザールは正式にカインに移ることになったから、バーシでこれまでお世話になった人にお返ししてから来るって。たぶん一週間くらいあとになると思う」


 リュザールは、バーシの隊商からセムトおじさんが率いるカインの隊商に移ることが決まった。移籍の条件としてバーシの隊商でも糸車を扱うことになったんだけど、おじさんに独占じゃなくてよかったのって聞いたら、自分たちだけでもうけを独占したら恨みを買うだけだし、むしろリュザールがいてくれた方が安全に旅ができるから得かもしれないねって言ってくれた。ほんと、ありがたい。


「そうなんですね。それじゃふーくんのほうが先じゃないですか」


 風花が引っ越してくるのは明後日7/2の予定。荷物は今日積み込んで、学校が終わってからお父さんたちと一緒に車に乗って来るらしい。風花たち家族は荷物よりも先に明日の夕方にはこちらに着く事になっていて、晩御飯は僕の家族と一緒に食べる予定だ。ちなみに一晩寝るための布団は先に届いていて、高尾さんから風花たちの新居の鍵を預かったお母さんが受け取り済み。だから、引っ越し荷物が無くても寝る場所に困ることもない。


「うん、日曜日の昼頃には引っ越しが終わるって言っていたから、その後風花がうちに来ることになってんだ。二人も来てくれないかな?」


「え? いいんですか? お邪魔じゃないですか? 久しぶりにお二人でいられる機会じゃないんですか?」


「余計な心配しなくていいから、風花をちゃんと紹介したいだけ、それに学校に行く前に色々と打ち合わせをしとかないといけないでしょう」


「りょ! ようやくふーくんに会えるな。樹はお姉さんの写真しか見せてくれないしどうなっているか楽しみだぜ。それにしてもあのお姉さん美人だったよなぁ……くそ! いることを知っていたら声かけていたのに」


 それって五歳の時の話だよね。竹下ってその頃から年上が……筋金入りじゃん。


「ですね。僕は年上にはあまり興味はないんですが、あのお姉さんならいけそうですよ」


「お前! 穂乃花ほのかさんは俺んだぞ!」


 風花のお姉さんの名前は穂乃花さんと言って、写真で見た姿は確かに二人が言うように美人だった。風花はお姉ちゃんには彼氏はいないよって言っていたけど、二人が相手してもらえるか。まあ、思うだけなら自由か……


「……見てください竹下先輩。なんだか、樹先輩が余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で腹立たしいです」


「だな、自分にはどちらにも彼女彼氏ができたからって、独り身の俺たちのことを見下してる感じがする」


 うう、二人の目が怖いよ。


「そんなことないって」


「いつものいっときますか?」


「いやまて、もうちょっとで話が終わるから、それはあとからのお楽しみにしよう」


 い、いつものって何?


「話を続けるけど、樹、鍛冶職人が来るって言っていたよな。言われた通り何も準備してないぜ」


「う、うん、二人が知っていたらおかしいのもあるし、鍛冶職人さんが実際に見てから鍛冶工房を作る場所を決めたいんだって」


「ほぉー、場所にもこだわりが……さすがベテランの職人さんは違いますね」


「だな。うかうかしてたらどやされるぞ」


 うん、どやされそうだ。でも、二人が想像しているのとは違うだろうな。実はパルフィが来ることは伝えてないんだ。ただ鍛冶職人さんを連れて来ることができたって言っただけ、ベテランとかもいってないんだけど、いつのまにかそうなってしまっていた。思い込みって恐ろしいね。


「他には?」


「ありませーん」


「樹は?」


「な、ない……」


 竹下と海渡がにじり寄ってくる。


「海渡、行け!」


「ラジャーです!」


「な、何するの?」


 海渡が僕を羽交い絞めにしてきた。


「俺たちを憐れんだ罰だ」


 竹下の手がわきわきしながらこちらに近づいてくる。


「それは誤解……あはははは、や、やめ」


 た、竹下の手が僕の脇を……


「樹、ふーくんの姉ちゃんを俺に紹介するか?」


「す、する……するから……あはははは」


「僕の彼女さんもお願いしますね」


「わ、わかった。探す、探すから……はぁ、はぁはぁ……」


 や、やっと解放してくれた。


「海渡、俺たちの未来も明るいな」


「はい、バラ色に輝いてます」


 バラ色って……僕なんて笑いすぎて鼻水出ちゃってるし、たぶんすごい顔だよ。でもまあ、二人にはこれまで何度も助けてもらっているし、幸せになってもらいたいからいくらでも協力するよ……い、いや、協力させてください!

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