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第47話 あたいの初めては大事な旦那様のものだから

〇(地球の暦では6月24日)テラ



 ある程度患者さんの数も落ち着いてきたので、カインとバーシの隊商の出発に合わせ私たちも帰路に就くことになった。


「パルフィ、忘れ物無い?」


「心配すんな。これさえあれば、あたいは平気さ」


 パルフィは使い込まれた金づちを見せてくれた。


「パルフィ、それ貸して。しばらく使わないんだから仕舞っておこう、無くしたら大変だよ」


 アラルクがパルフィの金づちを袋に入れ、馬に括り付ける。


「そういうお前は大丈夫なのか?」


「僕は荷物なんてほとんどないよ。使えるものが体しかないもん」


 アラルクの大きな体はきっとカインで役に立つと思うよ。

 でも、ほんと間に合ってよかった……

 アラルクの方は問題なかったんだけど、パルフィのおやじさんの説得には苦労させられた。私たち何度行っても認めてもらうことは無く、討伐を終えたセムトおじさんが話を付けてくれて、ようやく期間限定の条件付きで認めてもらうことができたのだ。


「ねえ、リュザール。一年で足りる?」


「ユーリルに会ってみないとわからないけど、あっちでもこっちでもしごいてギリギリかもね」


 その条件というのが、一年以内にパルフィのおやじさんが認めるような男を連れて行くということ。その認めるというのが曲者で、おやじさんと一対一で戦って倒さないといけないらしくて、それができないとパルフィはコルカに戻され、おやじさんが選んだ相手と結婚しないといけなくなる。


「なあに、あたいがビシバシ鍛えるから、オヤジなんて目じゃねえぜ」


 そ、そうかなぁ。ユーリルの体格は私と大して変わらないんだよ。いくらパルフィが鍛えたからと言って、あのおやじさんのに太刀打ちできるとは思えない。やっぱりリュザールの武術をものにしないと……


「準備はいいかい」


 セムトおじさんから声がかかった。出発だ。

 避難民を受け入れたことによってコルカ到着の時よりも倍の人数になったカイン・バーシの合同隊は、東に向かって動き始めた。





「パルフィ、お父さんたちとお別れしなくてよかったの?」


 もうすぐコルカの町を出て、東に向かう街道に入る。出発は隊商宿からだったから、アラルクはクトゥさんに見送られながらだったんだけど、パルフィの家からは誰も来なかった。


「なあに、今生こんじょうの別れというわけじゃねえんだ。生きていればいつかは会えるさ」


 そうかもしれないけど、すぐに来れるような場所じゃないのに。


「ソル」


 リュザールが指さす方を見ると若い男性が立っていた。

 あれは確か……


「おう、兄貴。どうした」


 そうそう、パルフィのお兄さんだ。


「どうしたじゃねえよ。これ」


 パルフィのお兄さんは、隊商の速度に合わせて歩きながら金属の塊をパルフィに渡した。


「おっ! 金床かなどこじゃねえか!」


「おやじから」


「へへ、ありがとな。じゃあな」


「ああ」


 え? それだけ……パルフィのお兄さん行っちゃたよ。

 うーん、なんというか、あっさりし過ぎ……まあ、パルフィが嬉しそうだからいいか。でも、


「パルフィ、喜んでいるところ悪いんだけど、すぐにそれを使えないんだ。ごめんね」


「ん? 炉がねえのを気にしてんのか? こいつと金づちがありゃ、今ある鍋や鎌の打ち直しはできるぜ。にしても重てえな。アラルク、ちょっとこいつを頼む」


 持ったままでは歩けないと思ったんだろう。パルフィはお兄さんからもらった金床をアラルクに渡している。


「気にいってるようだから、持って歩くのかと思ってたよ」


「持ち歩けるものなら持ち歩きてえが、さすがにそこまでバカじゃねえ」


 アラルクは金床を受け取ると馬に乗せた荷物をいくつか下ろし、金床の反対側に吊るしなおした。

 なるほど、馬が歩きやすいようにバランスをとっているんだ。

 ユーリルもそうだけど隊商宿出身の人は荷造りがほんとに上手。見ているだけで勉強になる。


「それにしても、うめえもんだな」


「パルフィは初めて見るの?」


「ああ、旅自体が初めてだからな。こういう機会が無かったぜ」


 テラでは女の人が旅をするのは珍しいから仕方がないか。


 ん? 前を歩いていたリュザールが、こちらを向いて立ち止まっている。


「どうしたの?」


 リュザールは私たちと歩調を合わて歩き出す。


「うん、パルフィにセムトさんから伝言。辛くなったら早めに言うようにって」


 そっか、初めての旅だからセムトさんが気を使ってくれてんだ。


「心配いらねえと言いたいところだが、歩くのは苦手だ。そうなった時にはすぐに言うことにするぜ」


「頼むよ。さすがに背負って歩くにはパルフィは重すぎるからね」


「はぁ! あたいはそんなに……って、リュザール、おめえ何笑ってんだ!」


「あはは、ごめんごめん。冗談だよ」


 リュザールとパルフィって、ほんと並んで見るとそっくり。


「ねえ、アラルク、あの二人似ていると思わない?」


 隣を歩くアラルクにちょっとだけ屈んでもらいながら話しかける。


「そういえばそうなのかな」


 アラルクはパルフィとリュザールを見比べているようだ。


「パルフィに弟はいないの?」


 リュザールは孤児だと言っていた。もしパルフィに生き別れの弟がいるのなら……


「あの家も複雑なんだよな。おばちゃんがいたでしょう。あの人って後添のちぞえで、パルフィたちの本当のお母さんじゃないんだ」


 そうなんだ、いつ行っても仲良くしていたから気が付かなかったよ。


「なんだ、かあちゃんの話か」


 う、聞かれてた。


「あたいの本当のかあちゃんは、あたいを産んで間もなく男と一緒に出て行ったみたいだぜ」


 ちょ……


「ほら、髪は黒いし目は見たことねえが黒いらしい。おやじや兄貴たちとは違うだろう」


 パルフィは自分の髪と目を指さす。

 ということは……


「でも、あたいのおやじはおやじだけだ。それだけは変わらねえ」


 そっか、パルフィの家族の間では解決済みなんだ。


「で、どうして、そんな話になったんだ?」


「あのね、パルフィとリュザールって似ているから姉弟なんじゃないかと思って……」


「似てるか?」


 パルフィとリュザールはお互いの顔を見ている。


「自分の顔をハッキリと見たことないから何とも……でも、ソルがそういうのならそうなのかな」


 こちらには鏡が無くて自分の顔ってよくわからないから、他人の意見を参考にするしかないんだよね。


「かもな。だからか、こいつとはどうしてかやりたくねえんだ」


「ボクもパルフィにはなんの魅力も感じない」


「おい、こら! それはどういう意味だ!」


「文字通りそのまま、パルフィの裸も見てもピクリともしないよ」


「そりゃあ、おめえのが小っこすぎて見えねえだけじゃねえのか?」


「言ったなー、隊商でもボクのは大きい方なんだから」


 そ、そうなんだ。


「ほぉー、言うじゃねえか。なら、試してみるか?」


 パルフィが服に手をかける。

 さすがに止めなきゃ。


「はいはい、よくわかったから。二人が仲良しなのはわかったから、そこまで。みんな見ているよ」


 ほら、隊商の人たちがニヤニヤと……


「おっと、いけねえ。あたいの初めては大事な旦那様のものだから、大切にするんだったぜ」


 カインまでしばらくかかるけど、この調子ならあっという間に着きそうだよ。

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