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第41話 さすが樹、私の息子。よく気付いたわね

〇(地球の暦では6月17日)テラ



「少し腫れてますね。痛かったでしょう。よく、辛抱を――」


 もう夕方だ。セムトおじさんたちの討伐隊は今日も帰ってこなかった……


「とにかくコルカに行くことだけ考えてのぉ――」


 リュザールが地球の誰かと繋がっていたら、その人に状況を尋ねることはできるんだけど……


「よし、骨は大丈夫なようだ。ソル……」


 こんな気持ちになるくらいなら……もし地球のリュザールが見つかったら無理矢理にでも繋げて……いや、それだけは絶対ダメだ。でも……


「……ソル、ほら、ひざの薬を出してあげて」


「え? ……あっ、ごめんなさい。おばあさん、この中に軟膏が入っているから痛いところに塗って下さいね。あと軟膏がしばらくすると乾いてくるので、その時は水で柔らかくしたらいいよ」


「ありがとう。可愛いお嬢さん……もし、彼氏とケンカしているのなら早く仲直りするんだよ」


「あはは、そうするよ。おばあさん、気を付けてね」


 おばあさんはお幸せにと言って帰って行っちゃった。


「ソル、心配かい」


「うん……」


「私もだ。さて、ちょうど患者も途切れたことだし、今日はこれで終わりにしよう。表の看板を……」


「討伐隊が帰って来たぞ!」


 庭先で行商している隊商の人の声を聴いて、父さんも私も部屋を飛び出していた。






 外に出て、声がした方に向かう……

 隊商宿の庭先に、討伐隊が集まって来ているようだ。


 疲れ切った表情の討伐隊の人たちの間を歩き回る。

 リュザールは?

 あっ、黒い髪!


「リュザール!」


 討伐隊の端に座り、虚ろな表情のまま空を見上げているリュザールに駆け寄る。


「あ、ソルだ……こっちは変わりなかった?」


 こちらを見上げるリュザールの目にいつものような力はない。


「こちらは平気。リュザールこそ……」


 リュザールの服は薄汚れていて、所々黒ずんでいる。たぶん血の跡だ。


「あ、汚いよ」


 思わずリュザールを抱きしめていた。


「リュザールは汚くなんてないよ。ケガしてない?」


「大丈夫、相手には触れさせてないから」


 さすがリュザール。


「お腹減っているでしょう。すぐに準備をするね」


 リュザールから離れ、立ち上がる。


「ボクも手伝う」


 リュザールも立ち上がった。


「いいから、休んでいて」


「手伝わせてほしいんだ」


 リュザールの目に少し光が……


「……わかった。みんなの疲れが吹き飛ぶようなものを作ろう!」


 厨房に向かった私たちは、早速夕食の準備に取り掛かる。


「と言っても、いつもと同じ料理なんだけどね」


 厨房の中に置いてある私たちの隊商用の籠の中には、いつもと同じ野菜と羊肉が入っている。米があったらプロフが作れるんだけど、残念ながらコルカでもあまり流通していないみたいで、隊商の人もこの時期はほとんど見かけないって言っていた。


「量が多くない?」


「リュザールたちが頑張ってくれたおかげで、食料が手に入りやすくなっているんだ。ありがとう」


「へへ、そうなんだ。みんなきっと喜ぶよ。ボクたちは西のカルトゥの方に行ってたんだけど、あちらの方はボクたちがやってきた東側よりもひどくて、盗賊に襲われて無くなってしまった村とかもあってさ、食材の調達にも苦労してたんだ。あ、野菜を切るね」


 リュザールはそう言って玉ねぎを手に取った。

 西……そういえばコペルが住んでいた村も西だった。そんなに治安が悪かったんだ。


「もう安心なの?」


 私も人参を切りながら尋ねる。


「ボクたちのことを聞いたんだと思うんだけど、カルトゥからも討伐隊が出てて、うまいこと挟み撃ちにできたんだ。これでかなり懲らしめることができたと思う。うー、玉ねぎが目に染みるぅ」


 ふふ、リュザールったら目をしょぼしょぼと。

 でも、よかった。


「それなら、もういかなくてもいいんだね」


「いや、東側はこれからなんだ」


 そんな……


「少しは休めるんでしょう?」


「ううん、西から逃げてきた奴らもいるかもしれないから、明日には出ていくよ」


 こんなに疲れた様子なのに……


「無理して手伝ってくれなくてもよかったんだよ」


「なんだか普通のことがしたくなって……」


 普通の……やっぱり、気持ちが落ち込んでいるんだ。


「それで、今夜もお願いできないかな。ソルと手を繋いで寝るとあの夢を見られるんだ」


「うん、一緒に寝てあげるね。……リュザールはあの夢の世界にいけるとしたら行ってみたい?」


「あっちの世界? うーん……行ってはみたいけど、ソルがいないのなら別にどうでもいいかな」


 私がいたら行ってもいいってことだよね。


「か、仮にだよ。その世界の私が男だったらどうする?」


「ん? 男でも女でもソルはソルだよ。それこそ別にどうでもいい事だよ」


 そうか……


「ありがとう。さあ、急いでご飯を仕上げよう。みんな待っているよ」






〇6月17日(土)地球



「ねえ、今日の旅行、延期したりできないの? 外、雨降っているよ」


 今こちらの世界は梅雨のど真ん中で、毎日のように雨が降っている。こんな日に旅行に行くのはどうなのって感じなんだけど、でもこれは口実で、テラでリュザールが苦しんでいるのに自分だけ旅行に行く気分にならないっていうのが本音。昨日だって、話してる途中にいきなりぼぉーっとしちゃうし、たぶん精神が疲れ切っているんだと思う。


「ダメよ。当日キャンセルなんてしたら、宿泊代を全額請求されちゃうのよ。雨ぐらいの理由でやめるわけにはいかないわ。それに、今日のために準備を……」


 ん? 今日のために何を?


「お母さん、最後の方はよく聞こえなかったよ。なんて言ったの?」


「いいから、早く荷物持って車に乗って」


「わかった、わかったから腕を引っ張らないで。でも、どうしてこんなに早く? ホテルのチェックインって夕方からだよね?」


 今はまだ午前10時。ホテルのある観光地には何度か行ったことがあるけど、いつも二時間もかからずに到着したと思う。


「せっかくだから、途中でお昼を食べて楽しみましょう」


 雨なのに……

 お母さんは、こうと決めたら自分の道を突き通しちゃう人なので、諦めて車に乗り込むことにした。


「樹は後ろね」


「後ろ?」


「早く、雨でぬれちゃうでしょう」


 仕方がないので荷物を抱えて後ろに乗り込む。

 いつもは運転中眠らないように助手席で話しかけてっていうのに……お母さん、今日はなんだか様子が変。どうしたんだろう。


「いいわね。それじゃ、出発しんこー!」


「……」


「ほら、樹!」


「はいはい、おー!」


 いつものお母さんだ。





 お母さんが運転する軽自動車は目的の観光地に向かって……ない!


「どこ行くの? 逆方向だよ」


「さすが樹、よく気付いたわね」


 いやいや、気付くよ。生まれた町だもん。


「これから私の親友を迎えに行くの」


 誰かと一緒の旅行なんだ。それならそうと最初から言ってくれたらいいのに。


「……反応が鈍いわね。あなたの婚約者も一緒よ」


 こんやくしゃ? って、何だっけ?

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