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第40話 お、おい、樹、大丈夫か?

〇6月10日(土)地球



「診療所の方はどうですか?」


「毎日たくさんの人が来てるよ」


 週末の土曜日、情報交換をするために竹下と海渡に泊まりに来てもらった。


「薬は? カインから持っていかれたもので足りているのですか?」


「今のところは大丈夫かな。必要な薬草を討伐に参加してない隊商の人に集めてもらったり、遊牧民の人が診察代の代わりに置いていったりしてるからね」


「なるほど、現地調達ができているんですね」


 コルカの薬師さんと相談してこちらには症状が軽い人たちに来てもらっているから、珍しい薬草が必要な患者さんはほとんどいないんだ。


「それで討伐はうまくいってんの?」


「うん、コルカから日帰りでいける範囲の盗賊はあらかた片付けたらしくて、これからはちょっと遠出することになるって」


「そっか……」


「討伐にはリュザールさんも参加されているんですよね。ご様子はいかがですか?」


「平気な振りをしているけど、辛いみたい」


「そうだろうな、いくら武術を会得えとくしていると言っても、俺たちと同じ15歳だもんな」


 盗賊の討伐と口に出して言うのは簡単だけど、結局は相手を殺すということだ。いくら強い人間だって、耐えることはできないと思う。


「ソルさんは慰めて差し上げているのでしょう?」


「うん、夜にしか会えないから、手を繋いで寝てる。それで、地球の夢を見て安心しているって」


「えっ、それだけですか? エッチな事をして差し上げてないんですか? 男なら一発で元気になるのは、樹先輩もご存じでしょう」


「そ、そうかもしれないけど、隊商宿にはいつも誰かいるからそういうことできないよ」


 それに、いくら父さんたちがソルとリュザールを引っ付けようとしていると言っても、結婚前にそういうことをしてたら破談になっちゃう。


「……爆発しなけりゃいいけどな」


 そこが心配なんだよ。


「それで、そっちはどうなの?」


「お待ちかねの糸車がもうすぐ出来上がるぜ。ほんっと、大変だった。みんな初めてだから木の長さを揃えるのにも苦労するし、のこぎりもあまり切れないしでさ」


 みんな素人同然だし、道具もまともなものはない。パルフィならちゃんとしたものを作ってくれると思うけど、今はまだ話せない。特に竹下にはね。ダメだった時にぬか喜びさせちゃかわいそうだから。


「ん? 俺の顔見て……もしかして、何かついてる?」


「い、いや、さすがユーリルだなと思って」


「俺は大した事してないぜ。海渡を褒めてやってくれよ。失敗してもルーミンが周りを明るくしてくれるから、みんな頑張ってくれたんだって」


 ほぉー。


「そうなんだ、海渡、ありがとう」


「えへへ」


 やっぱり二人は頼りになるよ。


「それで、来週もまた集まるだろう。情報交換は密にしときたいよな」


「あ、ごめん。さっきお母さんから、次の土曜日は旅行に行くから空けとくように言われたんだ」


「へぇー、旅行ですか。いいですねー。でも、学校はどうするんですか?」


「一泊って言っていたから、たぶん近くの温泉に行くんじゃないかな」


 お母さん、ずっと行きたがっていたんだよね。それに、来週はお父さんが学会でいなくてお母さんと二人になるから、その隙に行っちゃおうって感じだと思う。


「温泉か‥…今はオフシーズンで宿も安いんだよな。俺んとこの店もよくこの時期に招待旅行を計画してるぜ。今年は休みの年だから、たぶん来年はやるんじゃないかな」


 竹下の店のバス旅行を楽しみにしているお客さんも多いみたい。道中カラオケ歌ったり、お菓子食べたりするのが楽しいんだって。


「今週は朝の散歩の時間と学校の昼休みに集まってやるか」


「うん、お願い。まだ、寝るまで時間あるから、カインのことをもっと聞かせてくれるかな」


「それなら、樹先輩、聞いてください。ジャバトがですね――」


 うんうん、ルーミンとジャバトの仲もいい感じになってきているのかも。カインは平和そうでよかった。

 それにしてもリュザールのことどうしよう……心配だよ。





〇6月16日(金)地球



「おはようって、お、おい、樹、大丈夫か?」


 朝、いつもの場所に海渡と一緒にやってきた竹下は、僕の顔を見るなりそう聞いてきた。


「二人ともおはよう。あのね、セムトさんたちが、まだ戻ってこないんだ……」


 セムトおじさんたちの討伐隊がコルカを出てから、もう五日が過ぎている。


「リュザールさんたちのお戻りの予定は、一昨日だって言ってましたよね。なにか知らせは無いのですか?」


「きてないんだ……」


「そっか……でも、便りがないのは上手く行っているあかしだって言うから、きっとそれだぜ」


「う、うん、きっとそうだね」


 確かに、セムトおじさんたちが全滅するというのは考えにくい。もし何かあった時には、伝令として誰かが来るはずだ。


「よし、リュザールたちを信頼する。それで、そちらの方はどうなった? 糸車をみんなに配ったんでしょう?」


「はい、届けるときに使い方を教えるために僕(ルーミン)もついていっていますが、皆さん最初からお上手ですよ」


 みんな普段から紡錘車ぼうすいしゃを使って糸を紡いでいるから、すぐにコツを掴むはずだ。


「でも、本当にいいのか。言われた通り、麦を貰わずにただで渡してるぜ」


「それは父さんとも話したんだけど、工房を建てるときもみんなに手伝ってもらっているし、薬草畑の水路もこれからでしょう。だから、村の人からは代金はもらわないように決めているんだ。ただ、ユーリルとルーミンたちにお給金を払うのが遅れちゃうのが申し訳なくて……」


「俺は今のところ給金(麦)もらっても使うところがないからなー」


「僕はご飯をたくさん食べさせてもらえるだけで幸せですぅ」


 そう言ってもらえると助かるよ。


「あっ、思い出した。結婚するときに結納の品がいるじゃん。俺、何も持ってない。これじゃ相手がいたとしても、親御さんにお嬢さんをくださいって言いにいけない」


 テラで結婚するときには、日本と同じように男の家から女の家に結納の品を渡すというしきたりがある。ユーリルには家族がいないから自分で用意しないといけないんだけど、羊や馬といった財産を持って無いから心配しているんだろう。


「それは、父さんが考えてくれているよ。ユーリルはもううちの子だもん」


「そうなんだ……いや、ありがたいけど、そこまで甘えられないって。できるだけ俺の力でやりたいからさ、余裕ができたら頼むな」


「了解!」


 そういうことなら、ユーリルのお給金を貯めておいて……それでも足りない時は、父さんに貸してもらうことにしよう。


「でさ、そっちが大変な時にあれなんだけど、俺(ユーリル)のお嫁さん……見つかった?」


「あー……」


 パルフィの親父さんへの説得が難航してるんだよね。セムトおじさんが戻ってきたら、何とかなるかもしれないんだけど……


「いや、無理にとは言わないけど、忘れないでくれると助かるよ」


 忘れてはいないけど、今のままじゃ話せないな。


「竹下先輩。いっそのことルーミンと結婚しちゃいますか?」


「ルーミンとね……」


 竹下は海渡をジロジロと見ている。


「うーん、やっぱやめとくわ。年下というのもあるが、俺は甘えさせてくれる人がタイプなんだ。お前もそっちの方だろう?」


「はい、確かに甘えたいですね。でも、包容力にも自信がありますよ。何ならここでギュっとして差し上げましょうか」


「お前の包容力は物理的なんだよ! いらん、離れろ! 暑苦しい!」


 ふふ、リュザールの事が心配でどうにかなりそうだったけど、二人のおかげで気がまぎれそうだよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界と現代で別々の人格を共有するのが面白くて、読みながらワクワクしました! 異世界での日常や風習がしっかり描かれていて実際にあるかのように感じられ良かったです。 樹、竹下、海渡の3人の仲…
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