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第37話 リュザールはこれがわかるの?

「あたいに用があるって? あいよ。父ちゃん、母ちゃん、ちょっと出てくるぜ」


「おう、気を付けてな」


「夕食までには戻って来るんだよ」


 こんな感じなんだ……

 さっきまであれだけやり合っていたのに、パルフィはもう家族と普通に会話しているよ。

 リュザールとアラルクの方を見る。


「いつものことだから」

「金づちが飛んでこないだけましだよ」


 あはは、考えるのは止めよう。


「どうした? ここは暑いだろう。ついてきな。こっちにいいところがあるんだぜ」


 パルフィは私たちを、熱気がこもった鍛冶工房から建物の裏手にある大きな木のところに連れて行った。


「ここなら日陰だし、裏道だから避難民も通らねえ」


 確かに静かでゆっくりとできそう。

 四人で木陰に腰かける。


「で、話を聞こうか」


「あ、あのー、パルフィさんは鍛冶ができるんですよね」


「ああ、鍛冶はあたいの生きがいさ。というか呼び捨てにしてくれ、かしこまったらこそばゆくなっちまう」


 あは、さっぱりした感じの人だ。なら、単刀直入に。


「パルフィ、カインに来てくれないかな。鍛冶職人を探しているんだ」


「カインか……確か東のはずれのセムトさんの住んでいるところだよな。かなり遠くじゃなかったか? あたいとしては、ずっと鍛冶ができるんならどこでもかまわねえんだが……そこまで遠いとなると、親父を説得するためにあたいを貰ってくれるよほどしっかりした奴が必要だぜ。ソルにはあてがあるのかい?」


 三人が私の返事を待っている。

 ハッキリ言ってパルフィは奴のど真ん中だ。見た瞬間に求婚するに違いない。


「うん、いる。将来有望だし、パルフィのことを大事にすると思う。でもパルフィの好みに合うかどうか……」


つらはいい事に越したことはねえが第一じゃねえ……ソル、ちょっとこっちへ」


 立ち上がったパルフィは、私の手を取ってリュザールたちから離れたところに連れていった。


「あたいが男に求めているのは、尊敬できるかどうかだ」


 パルフィは、鍛冶の仕事に誇りを持って取り組んでいるように感じた。たぶん、パートナーにもそれと同じくらいの熱量を求めているんだろう。


「大丈夫。やる気も能力も保証する」


「そうか、そいつは楽しみだなあ。これまであった男どもはどうも頼りなくてよ。ピンと来る奴がいなかったんだ」


「アラルクとはどうなの?」


 まだ詳しくは聞いてないけど、結構親しげな感じがした。カインに来てもらうとしたら別れないといけなくなるけど、大丈夫なのだろうか。


「あいつとは幼馴染で昔から知っているんだが、図体はでかい癖に肝心なところでヘタレる。尻を叩いてやるのもたまにならいいんだが、四六時中ってのはさすがにあたいもあいつも息が詰まるだろう。ま、だから離れ離れになったとしても、大したことねえよ。たまに顔を見るくらいでちょうどいいのさ。あ、今言ったことは内緒だぜ。アラルクの奴、気にしているみたいでへこんじまうからよ」


 はは、四六時中なんだ。まあでも、裏を返せば慎重だということだよね。


「そ、それで、リュザールとはどうなのかな……」


「リュザールか。見てくれはいいし気はつくし、町の女どもからの人気もあるんだが、なぜかあいつとはそんな気にならねえんだよな。どうしてかな」


 リュザールって人気があるんだ。やっぱり、黒い髪に黒い瞳ってこちらでは珍しいから……あれ? パルフィも黒い髪に黒い瞳だ。お父さんもお母さんも……茶色だったよね?


 ん、リュザールがアラルクと一緒に近づいてきた。


「ねえ、ソル。そろそろ戻らないといけないんじゃない」


 リュザールが西の空を指さす。

 日があんなに傾いて……ほんとだ、ご飯作らなきゃ。


「パルフィ、紹介したい子はユーリル。頭は切れるし頼りになる私の親友なんだ。あいつなら間違いなくパルフィは気に入るよ。私はしばらくこの町にいることになりそうだから、本気で考えてくれないかな」


「あいよ。あたいも親父を説得しねえとなんねえから、ちょくちょく顔を出してくれ」







 パルフィと別れた私たちは、夕暮れ時の町を北に向かって歩いている。カインに比べて標高が低いからだろうか、この時間でも歩くと汗ばむくらいに暑い。


「さっぱりした感じのいい子だったね」


 つつーっと髪から落ちてきた汗を拭いながら二人に話す。


「でもね、いつもあんな感じだから、初めての人はなかなか仕事を頼めないみたいだよ」


 アラルクは汗をだらだらと……行きもそうだったけど、体が大きいから代謝がいいのかも。


「ボクも初めての時はびっくりしたよ。金づちが飛び交っているんだもん」


 あはは、なんだか目に浮かぶようだよ。それにしても、リュザールは涼しい顔しているな。もしかしてこれも武術が関係しているのかなぁ。


「ところで、ソル。パルフィを連れて行って、カインで何をやるつもりなの?」


 リュザールも行商人なんだから協力してもらった方がいいよね。


「糸車を作ろうとしているんだ」


「糸車! セムトさんから聞いたことがある。糸を紡ぐのがかなり楽になるんでしょう。ボクたちの隊商も扱いたいって思ってるよ」


 おおー、やっぱり糸車を作ったら売れそうだ。


「僕には糸車がどんなものかわからないけど、それにパルフィの鍛冶が必要なの?」


「ううん、糸車は木で作るから鍛冶はいらないんだ。でもその後に、荷馬車という荷物を運ぶ車を作ろうって思っているから、それに使う金具にパルフィの力が必要なんだよね」


「「車って何?」」


 あー、そうか、テラではそこからだった。

 私は落ちていた木の棒を使って地面に荷馬車のようなものを描いた。(絵心が無いからあまり書きたいないんだけど、この際仕方がない)


「この丸いものは?」


「これは車輪と言ってくるくると回るんだ」


 今度は手を使って回る様子を表してみる。


「……なるほど、これを馬に引かせるんだ」


「リュザールはこれがわかるの?」


 アラルクは私の真似をして手を回している。


「うん、これはすごいよ。荷物をこの車輪の上の板に載せるんでしょう。馬の背中より広いからたくさん積めるし、何より僕たちが前の馬に乗ることができる。それに歩く必要が無くなるから、これまでよりも長い距離だって行けるようになるよ」


 本当は荷台の前に御者さんが乗る場所を作る予定なんだけど、私の絵があれだから勘違いしちゃってるよ。


「現物はちょっと違うんだけど、だいたいこんなものを作ろうとしているんだ」


 地面に描いた絵を消し、隊商宿に向かって再び歩きはじめる。


「ねえ、ソル。もしかしてセムトさんが人を集めていたのはこのせい?」


「うん、糸車を作るための工房を新しく建てていて、そこで働いてくれる職人さんを探してもらっていたんだ。もしかしてリュザールも頼まれてたの?」


「ううん、そういうわけじゃないんだけど、カインの隊商が通った後の村で、あんたのところは人はいらないのかいって何度か言われたことがあったんだ。何事かと思っていたよ」


 おー、おじさん、結構派手に探してくれていたんだ。


「あのさ、ソル、その職人ってまだ募集してる?」


「うん、誰でもというわけではないけど、まだまだ欲しいよ。アラルク、もしかして心当たりでもあるの?」


 避難民の人たちを食べさせるために、糸車をたくさん作らないといけなくなった。機械がないこの世界では、人がいないと何も始まらない。


「心当たりと言うか……よかったらなんだけど、僕を雇ってくれないかな」

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