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第36話 クソおやじ!

 コルカの町に到着した私たちは、すぐにおじさんたちが使っている隊商宿へと向かった。


「アラルク、失礼するよ。クトゥはいるかい」


 町の北寄りにある隊商宿の外では、一人の少年……だよね。茶色の髪に茶色の瞳の体の大きな男性が薪割りをしていた。


「あ、セムトさん、お待ちしてました。父さんですね、すぐに呼んできます」


 声が若い。やっぱり少年だ。

 アラルクと呼ばれた少年は宿の中へと走っていく。


「アラルク、体が大きいでしょう」


「リュザールも知ってるの?」


「うん、うちの隊商もここの宿を利用しているからね」


 なるほど、それでバーシの人たちも一緒の宿に付いて来ていたんだ。


「同い年くらい?」


「うーん、確か二個上かな」


 二つ上と言うことは17歳か……


「怖くない?」


「全然。体は厳ついけど、優しいよ」


 そうなんだ。


「いやー、セムトさん、お待ちしておりました。おー、そちらはタリュフさんじゃないですか!」


 宿の中から、こちらもアラルクに負けないほどガタイがいいおじさんが現れた。


「久しいねクトゥ、元気に――」


 あれ、父さんも知り合いなんだ。

 お、先ほどのアラルクがこちらに……

 うわ、うわっ、近くで見るとほんと背が高いよ。首ひとつは違うんじゃないかな。ということは、180センチくらいあるかも。


「いらっしゃい。リュザールと……こちらは?」


「アラルク、今度もよろしく。この子はソル。ボクの許嫁さ」


 慌ててリュザールを見る。

 いつものように、にこやかに笑って……


「ま、まだそういうわけじゃないから」


「アハハ、リュザールの片思いかな。僕はアラルク。よろしくね、ソル」


 私もよろしくといって、差し出された大きな手を握り返す。


「おーい、アラルク。荷物を運び入れるのを手伝ってやってくれ」


 大人たちの話も終わったようだ。


「わかった。こっちだよ、ついて来て」


 アラルクは隊商の人たちが馬から降ろした重そうな荷物をひょいと担ぎ上げ、宿の中へと入って行く。


「ボクたちも入ろう」


 自分の荷物を持ち、リュザールと一緒にアラルクのあとに続く。







「ソル、これは?」


 アラルクの肩には、カインから持って来た診察用の荷物が乗っている。


「あ、ここに」


「よっと。これで終わりだよ」


 これも音も出ないように置いてくれた……体が大きいけど、意外と繊細なのかな。リュザールの言った通り優しそうだし、こんな人が工房に来てくれたら……

 おっと、私たちの荷物は……ひー、ふー、みー、よー……ななつ。よし、全部ある。


「ありがとう。アラルクさん」


「アラルクでいいよ。僕は井戸のところにいるから、何かあったら呼んでね」


 アラルクは手を振って外に出ていった。


「こっちも終わったみたいだね?」


「うん、そっちは?」


「ほら」


 リュザールの指さす方にはたくさんの荷物が積まれていた。


「もしかして、全部運び込んだの?」


 いつもならバザールに商品を並べて売るはずだけど……


「ソルも見たでしょう。今は広場が使えないから、バザールが立ってないみたいなんだ」


 確かにここに来る途中に見た町の中心部の広場には、所狭しとユルトが建てられていた。そういえば、それを見ながらセムトおじさんとバーシの隊商の隊長さんが何か話をしていたっけ……


「今回は行商はやめるの?」


「いや、さっきうちの隊長が言っていたけど、ここの庭を借りてやるみたい。ただ、ちょっと様子がおかしかったんだよな……」


 様子が……

 父さんとセムトおじさんは、さっきからずっとクトゥさんと一緒に難しい顔をして話し合っている。

 あ、終わった。こっちに近づいてくる。


「リュザール、今から私たちはコルカの町長まちおさのところに行ってくる。いつ戻れるかわからんから、すまんがソルにこの町を案内してもらえないか……そうだな、万一のことがあったらいけないから、アラルクにも付いて来てもらったらいいだろう。かまわないか、クトゥ?」


 クトゥさんはうんと頷いた。


「わかりました、セムトさん。三人で町を見てきます」


 父さんとセムトおじさん、それにバーシの隊長さんは揃って出て行った。


「おーい、アラルク!」


 早速、クトゥさんがアラルクのところに……


「えっと、いいのかな?」


「夕食まで時間があるし、料理もいつものようにボクが手伝うから行ってみようよ」


 テラで初めての大きな町。どんなところか楽しみだよ。






 コルカの町を三人で歩く。カインと違ってたくさんの建物が道沿いに並んでいるし、職人さんのお店もあったりして面白そうなんだけど、街の雰囲気が何だか重たい。


「いつくらいから、こんな感じ?」


「避難民が来るようになって一か月以上たつけど、町の外まであふれるようになったのは10日くらい前からかな」


 避難民のユルト(テント)が、広場だけでなくて空き地という空き地に建てられている。遅れてきた人たちは、町の外にしか寝床を確保できなかったみたいだ。


「何人くらい来てるの?」


町長まちおささんによると、外にいる人も含めて200人くらいいるみたいだよ」


 旅の途中、リュザールはコルカには1,000人くらいの人が住んでいるって言っていた。200人ということは、急に五分の一くらいの人が増えているんだ。


「いったいどうして?」


「水が枯れた村が増えたらしくて、ここだけじゃなく西のカルトゥの町までこんな感じなんだって」


「カルトゥ?」


 隣にいるリュザールに聞く。


「コルカから10日ほど西の、ここよりも少し大きな町だね」


 そういえば、コペルが住んでいた村の西に大きな町があったって言っていたような気がする。もしかしてそこかな。


「町の外にいる人たちは、盗賊に襲われないの?」


「町の近くなら大丈夫かな。自警団を作って、盗賊が出たら討伐に行っているから。ちなみに僕も自警団の一員なんだ」


 アラルクは照れた様子で鼻を擦っている。


「ソル、アラルクの剣の腕はなかなかなんだよ」


 ほぉー、体が大きいだけでもすごいのに、剣までできるんだ。

 ん? 何か忘れているような……


「あっ、思い出した! 剣と言えば、この町に鍛冶屋さんがあるでしょう?」


「う、うん、いくつかあるよ。どうしたの?」


「……職人さんの中にカインに来てくれるような人、いないかな?」


 おじさんにも頼んでいるけど、コルカに住んでいるアラルクがここにいるんだから聞いた方がいいだろう。


 あれ? リュザールとアラルクが顔を見合わせている。


「心当たりはあるけど……」


 あるんだ!







 私たちはユルトが立ち並んでいる大きな広場を過ぎて、コルカの町を東西に貫く街道を西に進んでいる。


「ソル、そんなに急がなくても大丈夫だよ」


「だって気になるよ。早く会ってみたいな。どんな人? やっぱり厳ついおじさんかな?」


 カインに来てくれるかもしれない鍛冶職人に会いに行くのだ。思わず足取りも軽くなっちゃう。


「はは、もうすぐだから……」

「会えば、すぐわかるよ」


 二人が口を濁すということは、もしかしておじいちゃん?


「△▼◇XXX!」


「▲▲! ◇★★XXX!」


 な、何?

 いきなり、どこからか怒号のような声が聞こえてきた。


「あーあ、またやっているよ」


 そう言いながら、リュザールとアラルクは怒鳴り声が聞こえる建物の方へ向かって行く。

 も、もしかして、ここなの?


「ふざけるな! 何度言ったらわかるんだ!」


「うるせえ! あたいは、鍛冶を続けたいって言っているだけだろう!」


 この声は……


「女性?」


「うん」

「そう」


 それに声も若い。


「俺はお前をちゃんとしたところに嫁がせたいだけだ」


「だから、嫁に行かねえとは言ってねえだろう。ただ、鍛冶もさせてもらえさえすれば、それで構わねんだって」


「はん、嫁に鍛冶をさせる家があるもんか。女は黙って大人しく飯を炊いて織物でもしとけばいいんだよ」


 あちゃー……


「クソおやじ!」


「く、くそだと! 親に向かってなんてこと言いやがる!」


 あわわ、大変だ。止めないと。急いで開け広げられた扉をくぐる。

 す、すごい熱気。思わず立ち止まってしまった。中で火を燃やしているんだ。

 さらに一歩踏み込もうとしたところで、奥から別の女の人の大きな声が聞こえてきた。


「二人ともいい加減にしな! ほら、客が来てるよ」


「客だと?」


 こちらを見てくる三人の目。奥に立つのは、茶色の髪を後ろでまとめた恰幅のいい中年の女性。その手前が、上半身裸の筋肉隆々で茶色の髪を短く刈り込んだ中年のおじさん。そして私たちのすぐ近くにいるのが、黒い髪を後ろで束ねて薄手の服を着ている若い女性だ。


「なんだ、アラルクに、へぇー、リュザールじゃねえか珍しい。お、それに可愛らしいお客さんも」


 若い女性が振り上げていた金づちを下ろし、こちらに近寄ってきた。

 こ、この人すごい美人だ。なんて言うんだろうエキゾチック? 高い鼻に彫りの深い顔、それに大きな目の中の黒い瞳がとても印象的できれい。

 それに、スラっとしててスタイルもいい……うわ、胸も結構あるよ。


「こんにちは、お嬢さん。もしかしてリュザールの彼女か?」


「わかる? ボクの婚約者なんだ」


 またそんなことを言って……


「婚約者じゃないです。ソルと言います。えっと……」


「あたいはパルフィ。よろしくな!」


 差し出された手には、いくつものタコができていた。

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