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第34話 もしかして、これが武術なの?

「まさか、来るつもりなのか……」


 土煙でよくわからないけど、馬の上には人間が乗っているみたい。数は、七、八……十人……え? お、多くない?


「ふぅ、あいつらは、あれくらいの数で私たちを何とか出来るとでも思っているのかね」


 あんなにいても、あれくらいなんだ。さすがおじさん、心強い!


「いいか、お前達。わかっていると思うが、荷を一つでも奪われたら私たちの負けだ。一人として生きて返すんじゃねえぞ!」


 おじさんのげきに、隊商の人たちは予め持ち場が決まっていたかのように移動し始める。

 いつもの温和そうなおじさんからは想像もできない程の迫力に、私も父さんと一緒に身構えた。


「ソルはボクが守るから」


 すぐ隣のリュザールは、こちらを振り返ってニッコリと微笑んでくれた。

 なんでだろう、やっぱりリュザールの笑顔を見ると緊張がほぐれる。


「すまんね、リュザール。万一の時はソルだけでも頼む」


 と、父さん、縁起でもない。


「タリュフさん、心配しなくても大丈夫ですよ。ボクが二人には指一本触れさせませんから」


 リュザールが私と父さんの前に立ち、盗賊たちを待ち構える。


 徐々に近づいてくる土煙、中の様子もわかってきた。

 相手はやはり十人。それぞれが馬に乗って、あ、剣を持っている。


 こちらは……おじさんを中心に七人の隊員が前に出た。残った三人で荷物と私たちを守るつもりなんだ。


 相手の姿がハッキリと……剣を上に掲げている。やっぱり盗賊だ。

 おじさんたちの手には……え、縄? 縄で相手するつもりなの?

 数でも負けているし、相手は馬に乗っているし……大丈夫かな。


 ふと、リュザールの方を見る。

 にっこりと微笑んでくれた。

 って、リュザール、手には何も持ってないよ。他の二人は剣を持っているのに手ぶらでどうするつもりなの?


 すぐそこまで近づいてきた蹄の音……

 もう、なるようにしかならない。


 先頭に立つおじさんと盗賊がすれ違う。


「あっ!」


 盗賊の剣が空を舞う。

 ふぅ、よかった。おじさん、うまくかわしたよ……

 あれ、縄が盗賊の方に伸びていってる……すれ違いざまに引っ掛けたんだ。すごい!


 そして、おじさんが縄を手前に引くと盗賊は仰向けに馬から落ち、すぐに他の隊員が近づいていって……


「あっ……」


「ソル、目をそらさずに見るんだ。命はみんなに平等に与えられるが、終わりは不平等。その人の生きざまが現れる」


 知っている。父さんがよく話してくれたよね。人に見送られて死ぬことができるようになりなさいって。


 盗賊の最後の瞬間を目に焼きつけようとしていると、目の端に倒された馬を捨ててこちらに向かってくる別の盗賊の姿が……他の隊員の攻撃を躱したんだ! 慌ててそちらに焦点を当てる。


「リュザール!」


「大丈夫、見えているよ。女子供がいるからって、こっちに来ているのかな。あ、もしかしてボクたちを人質にするつもりなの。笑っちゃうね」


 リュザールは、剣を振りかざしながら近づいてくる盗賊の方に体を向けると、何気ない感じで手を伸ばしてころんと転ばした。


 な、何をしたの?


 そして、そのまま腰からナイフを取り出し、トスっと首に一刺し。

 盗賊は慌てて首を押さえているけど、溢れだした血が次々に乾燥した地面に吸い込まれ……


 それから二人ほどやってきた盗賊もリュザールたちが難なく仕留め、間もなくあたりに私たちの隊商以外に動いている人間は誰もいなくなった。


「よし、片付いたようだ。みんなご苦労。すまんが後処理も頼む」


 おじさんの言葉に、リュザールを含むこちらにいた三人が荷物の確認に向かい、他の隊員はどこかに……あ、バラバラになった盗賊たちの馬を集めに行ったんだ。


「タリュフに頼みがあるのだが、この者たちを弔ってやりたい手伝ってくれるか」


 こちらに歩いてきたおじさんは、地面の上ですでに事切れている盗賊たちを指さす。


「あ、そ、そうですね。このままにしておくわけにはいけませんね」


 あっという間の出来事に放心状態だった父さんも、おじさんの言葉でこっちに戻ってきた。

 隊商の人たちが強いというのは知っていたけど、これほどまでとは思っていなかったよ。


「セムトさん、積み荷に異常はありませんでした」


 こちらにやって来たのはリュザール一人だけ、他の二人はむくろになった盗賊を一か所に集め出した。


「ありがとう、リュザール。すまんがしばらくソルとここで待っていてくれるかい」


「あ、私も手伝います」


 そういう私をおじさんは手で制する。


「ソルはボクが守っておきますから」


「よろしく頼むよ」


 おじさんは父さんを連れ、盗賊だったもののところに向かって行った。


「ソル……」


 リュザールが震えている私の手をギュッと握りしめてくれた。


「……リュザールは平気なの?」


「平気というわけじゃないけど、黙っていたらこっちが殺されちゃうから……」


 リュザールの手にも汗がにじんでいる……そうだよね、平気なわけないよ。


「そ、それで、リュザールはどうやって相手を倒したの?」


 あの時の盗賊は、リュザールに近づいたと思ったらひっくり返っていた。そして呆然としているところにリュザールが止めを……


「……ソル。ボクの方に近づいてもらえる?」


 震えが止まった手を離し、リュザールの方に一歩、歩み寄る。


「え? わ、わぁ!」


「おっと……」


 リュザールは私が地面で頭を打たないように、そっと後頭部に手を添えてくれた。

 何をされたか全くわからない。リュザールが腕に手を触れたと思ったら、急に視線が宙を舞って……今は仰向けだ。


「大丈夫?」


 私はうんと頷き、リュザールの手を借り起き上がる。


「しばらく、ふらふらするかもしれないから気を付けてね」


 そういえば目が回っているような気がする。


「もしかして、これが武術なの?」


「そうだよ」


 そう言って微笑むリュザールの顔に、私はドキっとしていた。

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