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第32話 その中にソルのいい人が入ってる?

〇(地球の暦では6月1日)テラ



「ここから先は、いつ何が起こるかわからん。周りに気を配りながら進んでくれ。それでは出発」


 おじさんの号令で、カイン隊とバーシ隊、二つの隊商は西に向かってともに歩き出す。おじさんはああ言ったけど、馬だけでも十数頭、それに人間が12~3人の大所帯。さすがに盗賊も襲ってこないと思うけど……


「ねえ、リュザール。リュザールの武術って私が使うこともできる?」


 私の隣で同じ速度で付いて来てくれる黒髪の少年に声を掛ける。


「ソルが? うーん、時間はかかるけど、訓練していったらできるはずだよ。興味があるの?」


「うん、自分のことは自分で守りたいかな」


「……そうだね。ボクは隊商の仕事で出かけることが多いし、その時はどうしてもソルを守れない。ボクの技を覚えるというのはいい考えだよ。さすがはソル」


 そう言われると困っちゃうんだけど、昨日竹下と海渡からリュザールが武術を使えるのなら教えてもらったらと言われたのだ。こっちの武術なら、日本のと違って相手に止めを刺すまでを教えてくれるはずだからね。


「ちなみにリュザールの武術はどんなもの?」


「ボクが師匠から教わったのは自分の身を守るための武術だから、ソルのような女の子でも大丈夫だよ」


 身を守るのか……大丈夫かな。


「えっと、それって?」


「もちろん、相手に情けをかけたらダメ。ソルは平気?」


 私はうんと頷く。どんな事情があっても罪もない人を襲うような人を許してはならない。その時反省しても、いつかまた同じことを繰り返すかもしれないから。それは、生まれた時から何度も父さんたちから聞かされた言葉。


「早速と言いたいところなんだけど、この旅の間は難しいし、かと言ってボクも隊商の仕事を頻繁に休むこともできないし……」


「どれくらいの期間が必要なの?」


「そうだね。相手を完全に無力化できるようになるまでには、少なくとも季節が10回変わる必要があるかな。それもボクが付きっきりで」


 カインやバーシでは春と秋は短いけど一応一年に季節が四回くるから、約二年半か……


「付きっきりでないときは?」


「それはソルがどれだけボクの言ったことをやれるか次第だね。それでもその倍はかかると思うよ」


 仮に時間がかかったとしても、誰も守ってくれないこの世界で自分の身を守るためには必要な事だよね。


「それでもいいから、私と他に二人も一緒に教えてくれないかな……」


「二人? その中にソルのいい人が入ってる?」


「いい人はいないけど、大切な人たちかな」


「大切な……妬けちゃうけど、その人たちが死んだらソルは悲しむ?」


「うん」


 ユーリルとルーミン、せっかくこの世界でも一緒にいられるようになったんだから、せめて殺されて別れることが無いようにしていきたい。


「わかった、教えてあげる。でも条件があるよ。あ、そんな顔しないで、教える代わりにボクと結婚してとは言わないから、そんなことして一緒になっても全然嬉しく無いから。……それで条件というのが、ソルの大切な人がボクにとっても大切な人になるように、その二人をちゃんと紹介してほしいんだ」


「うん、もちろん! あ、それともう一つお願いしてもいいかな――」





 その日の夜、私とリュザールは隣同士でとこにつく。


「手を繋いで寝るだけでいいの?」


「うん、嫌かな?」


「嫌じゃない。むしろ嬉しいけど……ふふ、ソルが寂しがりやだとは思わなかったよ」


「あはは……」


 寂しいというわけじゃないんだけど、そうでも言わないと手を繋いで寝てとかお願いできないよ。


 これで、リュザールが地球の夢を見たら……

 昨日台所を手伝ってくれた時に感じたんだけど、リュザールってユーリルやルーミンと同じようになんだか気になる存在なんだよね。もしかしたら地球にもリュザールがいるのかも。それなら、今のうちに手を繋いで確かめようとなったわけ。ちょうど大部屋で雑魚寝だったから、隣同士で寝やすいというのもあったし。


「お休み。ソル」


「おやすみ、リュザール……」


 その日の夜は、男の子のたくましい手の感触を感じながら深い眠りへと落ちていった。






〇(地球の暦では6月2日)テラ



「おはよう、ソル。早いね」


 朝、みんなよりも先に起きて厨房で朝食の準備をしていると、リュザールが目をこすりながらやってきた。


「おはよう。よく眠れた?」


「うん。眠れたような気がするけど……」


「どうしたの?」


「変な夢を見ちゃって……」


 これは……


「どんな夢か聞かせてもらえるかな」


「うん、笑わないでよ。……なんだか変わった服を着た人がたくさんいて、見たこともない高い建物があって――」


 リュザールが見た夢の場所は、地球のどこかの都会の風景のようだった。


「ちょっと、いいかな」


 リュザールに体を近づける。


「な、何?」


「動かないで……」


 首元の匂いを嗅ぐ。

 これがリュザールの……やっぱり、ユーリルたちと同じ感じがする。匂いはどこかで嗅いだような……うーん、誰だっけ、思い出せない。樹が住む町にはリュザールが見たような高い建物はそんなにないから……たぶん、会ったことないんだろうな。近くに住んでないとなると……


「ソル!」

「きゃ!」


 いきなり後ろからリュザールに抱きつかれた。

 そうだった、リュザールは私のことを……。あーあ、失敗しちゃったな。好きな人に近づいてこられたら、まあそうなるよね。それに、お尻のところにあたっているものの存在感が……男の子だから仕方がないか。


「リュザール、今からごはんを作らないといけないから、離れてもらえないかな。そろそろ、セムトおじさんも起きてくるよ」


「そ、そうだね。急いで作らないと、ボクも手伝うよ」

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