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第26話 それ、どうやってひっくり返すおつもりですか?

「うそ!」

「マジですか……」


 竹下が、目の前のホットプレートにお玉いっぱいの生地を流し込んでしまった。

 朝の散歩から帰ってきて、お腹減っているのかもしれないけど……


「それ、どうやってひっくり返すおつもりですか?」


「お好み焼きでつちかった俺の技術を忘れたか!」


 お好み焼きと違ってホットケーキには具が入ってないから……


「見とけよ」


 今まさに生地の表面に泡が出てきていて、裏返すのにちょうどいいタイミング……


「あっ!」


「ほら、やっちゃいました」


 竹下の作品は無残にも半月型に……


「こ、こうした方が厚くなって食べ応えがあるんだよ」


 そうなると中まで火を入れるのが大変なんだけど……まあいいか僕が食べるんじゃないし。


「よっと」


「さすが樹先輩はお上手ですね」


 ね、適度な大きさが一番だよ。


「なあ、樹。これ、あっちじゃ作れないのか?」


「ホットケーキ? 砂糖無しでよかったら作れるよ」


 カインには小麦粉はあるし卵もある。それにヤギや羊のお乳もあるから甘くないパンケーキならいくらでも作れる。

 しかし、甘いものとなったら話は別。カイン村では塩や砂糖がとれないから隊商の人に頼んで運んでもらうしかないんだけど、特に砂糖は遥か南の方でしか取れないから大変貴重で村に来る頃には誰も買えないくらい高くなってしまっている。だから、村にある砂糖と言ったら治療用のやつが診療所に少しあるくらいじゃないかな。


「そうか……砂糖がなかったんだ」


「砂糖がないと料理の味に深みが出ません!」


 僕たちが住んでいる町では、江戸時代鎖国があった頃に砂糖がここから日本に広まった影響なのか、多くの料理に砂糖が使われている。もちろん海渡の総菜屋さんの味付けも甘くて濃いめだし、僕の家の料理だってそう。僕たちはその味に慣れてしまっているから、あちらの味はどうしても物足りなく感じてしまうのだ。


「砂糖を作れないかな……」


「作るってサトウキビを植えるってこと? カインでは無理だよ。寒いもん」


 サトウキビと言ったら沖縄とか暑いところのものだよね。


「知っているか、日本の砂糖の三分の一は北海道産なんだぜ」


「うそ!」


 初耳だよ。


「せんぱーい、早くとらないと焦げますよ」


 海渡が竹下のホットケーキをツンツンと……


あぶな! ありがとう、海渡。えっと、なんだっけ……あ、そうそう。テンサイって植物からも砂糖が作れて、それは寒い地域で育てられているんだ」


 知らなかった……


「あ! 中が……」


 お皿に移した竹下のホットケーキの中からどろりと生地が出てきた。

 ほら、厚くするから……。まあ、生でも食べられるからお腹を壊すこともないだろう。


「あむ、……次は成功する。海渡、まだ?」


「まだ、片面も終わってませーん。もう少しお待ちください」


 海渡のホットケーキはさっき流し込んだばかり、あと五分はかかるだろう。でも、こちら側はそろそろよさそう。


「僕のができたから、ここいいよ」


 焼きあがったばかりのホットケーキをお皿に移して、ホットプレートの上にスペースを作る。ホットプレートがそんなに大きくないから、一度に二枚しか焼くことができないんだよね。僕はこれでお腹いっぱいになりそうだから、あとは二人で使ったらいい。


「ありがとう。よし、今度はこれくらいで……」


 うん、それくらいなら上手く返せそう。


「それで、テンサイってあっちにあるんですか?」


「いや、まだ調べていない」


 竹下も海渡も焼くのに忙しそうだな。なら僕がスマホで……


「えっと、テンサイの原産地、原産地は、っと……あった! カスピ海沿岸から地中海だって」


「カスピ海あたりか……それならコルカの西だから、コペルの生まれたところの先のほうだな」


「意外と近かった。それならコルカにあるかも」


「それも、明日セムトさんに聞いてみようぜ」


 明日セムトおじさんと話すことがいっぱいになったよ。


「そういえば竹下先輩は荷馬車の模型を買ってませんでしたか? 荷馬車のこともセムトさんにお聞きになるって言ってましたよね」


「そうそう。昨日届いたからここに来る前に開けてみたんだけど、木の部分はあっちでも作れると思う。でも、車輪を受ける軸の部分は金属じゃないと耐久性に問題が出そうなんだよな。やっぱり鍛冶屋が必要だぜ」


「鍛冶屋さんか……これもおじさんに一応聞こうか」


「そうだな。俺たちじゃあっちのことをほとんど知らないもんな……」


 いくら知識があっても、ソルたちはまだ子供だ。大人の助けが無かったら何もできない。


「せんぱーい、生地が無くなりましたー」


「えっ!」


 家にある材料全部を用意したから、確か六人分はあったはずなんだけど……


「海渡、お前まだ食うのか?」


「まだまだ入りますよ」


「止めとけ、いくらこっちで食べてもルーミンの腹は膨れないぞ」


 あちらでは、命の危険になってもおかしくないほど痩せていたから食べたい気持ちはわかるけど、だからといってこちらで食べていたら海渡が太ってしまう。


「今日朝から結構歩いたからじゃないですか。全然足りていませんよ」


 いつもとそんなに変わってないと思うけど……


「わかった。もう生地がないからお餅焼いてあげる。今日はそれで我慢して」


 これはしばらくの間、気を付けとかないと海渡が大変なことになりそうだ。

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