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第25話 はい、ソルさんの匂いがします

〇5月28日(日)地球



「うっ……うっ……」


 隣からすすり泣く声が聞こえ、ギョッとして飛び起きる。


「ど、どうしたの海渡」


 こちらを向いた海渡の目には大粒の涙が浮かんでいた。


「あ、樹先輩。ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」


 外は明るくなってきているし、もう起きる時間だからいいけど……


「へへ、あちらのことが分かるってこんな感じなんですね」


 ということは……


「繋がったんだ!」


「はい!」


「えっと……ルーミン?」


「です! ソルさん!」


 やっぱりそうだった。海渡はルーミンだった!


「うぅ、うるさい……ん? もう、朝?」


 竹下に教えなきゃ。


「マジか! ルーミンなんだ……で、なんで泣いてんだ?」


 そう、さっきから海渡は涙をぽろぽろと、嬉しいのかと思っていたけどなんだかちょっと違うみたい。


「う、うわぁぁぁん……もう、ひもじいのは嫌ですぅ」


 そ、そうか、ルーミンと繋がるということは、ルーミンの苦しみも思い出すということなんだ。


「大丈夫だから。ごはんをたくさん食べていいから」


 僕と竹下で海渡を抱きしめ、落ち着かせる。


「ご、ごめんなさい。わかってはいるんですけど、お二人の顔を見たら気持ちを抑えられませんでした」


 海渡は必死で涙を拭っている。

 ずっと我慢してきたんだよね。


「……えへへ、なんだかお腹が空いてきました」


 朝ごはんにはまだちょっと早いから……


「先に散歩に行って、それから海渡の好きなホットケーキを焼いてあげようか」


「はい!」







「樹。結局、俺と海渡がテラと繋がった条件ってなんだと思う?」


 散歩の途中、僕たちの少し前を歩く竹下が振り向きながら尋ねてきた。


「最初の時は同じように手を繋いで寝たのに竹下とユーリルは繋がって、海渡はダメだった。その時はユーリルがカインに来てて、ルーミンはいなかったよね。今回はルーミンがカインに来てて、ソルと手を繋いで寝たらルーミンと海渡が繋がった」


「ということは、地球でもテラでも樹かソルの近くにいて、どちらかで手を繋いで寝る必要があるということか」


 もちろん、それぞれの世界に同じ人格の人間がいる必要があるけど、それが一番可能性が高いと思う。


「僕やルーミンが他の人と手を繋いで寝ても、同じことが起こるんでしょうか?」


 僕の隣で歩いている海渡は、手を握ったり閉じたり……


「俺もそれは思った。ただ、検証するのは難しいよな」


 地球とテラと同じ人格を持つ人を見つけて、さらに……


「竹下と海渡に彼女ができればわかるんじゃないの?」


 お泊りすることもあるだろうし、その時に手を繋いでみたらいいと思う。


「い、いや、さすがにこの年で泊りがけは、親戚でもない限り無理だろう」


 そうか、ここは地球だった。ただ、テラでも未婚の男女が一緒に寝るというのは、今のソルと同じような状況でもないと難しいかもしれない。


「それよりも、ソルさんはどうして僕がルーミンだとわかったんですか? 昨日井戸ではわかっていて声を掛けてくれたんですよね」


「ああ、それは――」


 僕は二人に昨日気付いたことを話した。


「匂いか……どれ」


 竹下と海渡が僕に近づきクンクンと……うぅー、周りで散歩している人たちがこちらを見てクスクスと笑っている。恥ずかしい。


「はい、ソルさんの匂いがします」


「ああ、確かによく似ている」


「ね、ねえ、そうでしょう。僕もテラでユーリルの匂いを初めて嗅いだ時にあれ? って思ったんだ」


 馬に乗って薬草畑に行くとき、すぐ前に座っているユーリルの匂いはどこかで嗅いだことのある懐かしい気がした。あの時は気付かなかったけど、ルーミンの匂いを嗅いだ時にそういえばってなったんだよね。


「ということは、こちらとあちらで同じ匂いの人がいたら繋がる可能性があるということだよな」


「ただ、樹先輩の匂いもかなり近づかないとわかりませんでしたよ。いきなり匂いを嗅ぐのは難しくないですか?」


 たぶん抱きつくくらい近づかないとわからないと思う。……同性なら何とかなりそうだけど、異性相手はちょっとまずいよね。


「ま、まあ、他にいないかもしれないし、無理はやめとこうぜ」


 通報されでもしたら大変だ。

 あ、そうだ、ついでにあれも聞いておこう。


「ねえ、海渡、昨日苦しいときに夢の中で三人の人影に助けられたって言ってたでしょう。一人は、そ、ソルだとして、他の二人は誰だったの?」


「そういや、ルーミンはソルのことを女神様だって言ってたな」


 竹下めぇ、ニヤニヤと笑いやがって……


「はい、ソルさんは女神さまですよ。えっと、他の二人は男の子だったんですが、一人はユーリルさん」


 海渡は竹下を指さし、竹下は俺? という表情をした。


「ええ。そして……もう一人はたぶん僕ですね」


「海渡も?」


「はい、三人とも顔はぼんやりとなんですが、背格好とか雰囲気とかはドンピシャでした」


 ソルとユーリルはテラの人間で、テラ自体がよくわからない世界だからそういうこともあるのかなって思うけど、海渡は地球の人間なのに……


「あのー、そろそろ戻りませんか? お腹ペコペコです!」


 そうだった。話に夢中になっていたよ。

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