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第21話 あ、あなたは?

〇(地球の暦では5月28日)テラ



「コペル、入るよ」


「にゃおん!」


 おっと、カァルが足元に……そうか、待ち構えているかもしれないから、入る時には気を付けなきゃいけないんだ。


「大人しくしてた?」


 コペルはこくんと首を縦に振った。よかった、工房の建設の邪魔になると思ってここに預けて正解だった。だって、みんなカァルの可愛らしい振舞いに手が止まって、作業がなかなか進まないんだもん。


「どこまでできたの?」


「これ」


 コペルは膝の上の簡易織り機を見せてくれた。


「この柄、難しいでしょう」


 織り機には50センチほどの生地が繋がっている。


「うん、でもきっとテムス可愛くなる」


 簡易織り機には特別な機能が付いてないから、複雑な模様を織り込むには手間暇がかかるんだよね。私なら途中で音をあげちゃうよ。さすがはコペル。

 ユーリルが作ってくれる予定の機織り機ならもっと簡単なんだけど、一台目ができるのは早くて年内かなって言っていた。それまでコペルには辛抱してもらおう。


「ソル、今日はこっち?」


「うん、雨になりそうだから薬草畑の方をお休みにしたんだ」


 雨が降りそうなときにわざわざ水撒きに行く必要はない。こういう時こそ普段あまりやらない織物を進めておかないと、結婚に間に合わないって慌てることになるんだ。まあ、まだ相手はいないけどね。


 私はコペルの隣に座り糸車を取り出す。

 それを見たカァルは、コペルに作ってもらったお気に入りの敷物の上に長くなった。カァルってほんと賢い。仕事の時は邪魔をしないんだ。あとで思いっきり遊んであげるから、ちょっと我慢してて。


「ユーリルは?」


「テムスと一緒に工房の中でレンガを積んでるよ」


 こちらの住居は日干しレンガで作られていて、外だけでなく中の床の部分にもレンガを敷き詰める。そしてその表面を漆喰しっくいで塗り固めたら完成だ。これで、外の部分は雨が降っても崩れることは無くなるし、中の部分は平らになって歩きやすくなる。さらに普段座る部分には絨毯を敷くから、結構快適に過ごせるんだ。


「工房、もう少しで完成」


「うん、外はもうちょっとかな。中はこれからだけどね」


 それでも完成まであと一週間はかからないと思う。あとは、工房の職人さんが来てくれさえすれば、糸車の製造に取り掛かれるはずだ。


「ソル! どこ?」


 ジュト兄だ。


「部屋にいるよ!」


「父さんが呼んでる。すぐ来て!」


「はーい!」


 コペルに行ってくると伝え部屋を出ると、中庭でジュト兄が手招きしていた。


「カァルも来ちゃったんだね。まあいいか、外にセムトおじさんが来てるよ」


 振り向くとカァルがこちらを見上げていた。薬草畑に行けると思って付いてきちゃったのかも。

 それにしても、おじさんが直接こっちに来るって珍しい。いつもは広場での行商が先なのに、何かあったのかな。


 カァルを連れてジュト兄と一緒に外に出る。玄関の前に父さんとセムトおじさん、そして初めて見る人たちが数人集まっていた。


「おじさんお帰りなさい」


「やあ、ソル。しかし驚いたよ。その子は本物のユキヒョウじゃないか。タリュフに聞いてまさかと思ったがほんとだったとは……」


「にゃおん!」


 カァルは自分が話題に乗っていることを知ってか知らずか、一声鳴いた後、ちょこんと座って毛づくろいを始めた。

 おじさんだけでなくみんなの目は、愛くるしい仕草のカァルにくぎ付けだ。


「ケガして一人で鳴いている所を連れて帰って来たんです」


「そうか、山の神様の使いだから、しっかり育てるんだよ。それで、工房もそろそろ完成するんだってね。間に合ってよかったよ」


「ということは、その人たちが?」


「ああ、工房で働いてもいいと言っている者たちだ」


 す、すごい! 六人もいる!

 大人の人が男女それぞれ二人ずつに私と同じくらいの男の子と女の子が一人ずつ。家族かな? いや、それにしては似てないな……


「それでソル、この子たちはまたうちで面倒見ることになるから、調べといてくれるか。あ、ジュトも連れて行くから男の子の方はユーリルに頼むといい」


 うちで面倒見るということは、やっぱり親子じゃないんだ。


「わかった。父さんたちは?」


「今から広場に行って、この四人を村の者たちに紹介してくる。早くしないと雨になりそうだからね」


 そういえば、大人の人は村の人の了解がないと勝手には住めないんだった。


「それで、おじさん。ユーリルが話したいことがあるって言っているんですけど、いつまでいますか?」


「ユーリルが……そうだな、今回は行商がほとんどできてないから、いつもよりも早めに出発する予定なんだよ。それでも、二、三日は村にいるからその間に家に来てくれるかい」


 行商ができてないってことは、工房の職人さんを集めることを優先してくれたんだ。おじさん、ありがとう。


「わかりました。明日昼からいきます」


 父さんたちは新しい住人を連れ、村の広場へと向かった。


 さてと、うちで面倒見るのはこの子たちか……二人とも茶色の髪に茶色の瞳だからこのあたりの生まれかな。男の子の方は私よりも背が高いけど幼い感じだから年下かも。でも、女の子の方はちょっと……


「えっと、二人の……」


「あなたがソルさんですね。会いたかった!」


 二人に声を掛けようとしていたら、女の子がいきなり抱きついてきた。

 あれ? この子の匂い。


「あ、あなたは?」


「私はルーミン、セムトさんからソルさんのこと聞いて、会えるのを楽しみにしていたんですぅ」


 こちらを見上げる女の子の顔には、満面の笑みがこぼれていた。

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