第20話 布団敷くから手伝って
〇5月22日(月)地球
「おはようございます!」
恒例の朝の散歩、今日も海渡は元気いっぱいだ。
「……おはよう、海渡」
「おや、どうしたんですか? 何やらお疲れのご様子……」
「昨日カァルの足が治ったから、包帯代わりの布を外してあげたんだけど――」
昨日のテラでの出来事を海渡に伝える。
「へぇー、カァルくんそんなに元気になったんですね。それでソルさんはへろへろになって、ユーリルさんはたくさん遊べて大満足の顔をしているというわけだ」
海渡の隣を歩く竹下はニヤニヤしっぱなしだ。
「夜はソルたちの部屋に行くんだけど、昼間は俺とも遊んでくれるようになってさ」
僕(ソル)が忙しくてカァルにかまってやれないから、テムスのところに行ったついでのような気もするけど、それは言わないでやっておこう。
「どんなことをして遊んでいるんですか?」
「テラには何も無いだろう。だからそこにあるものを使うんだけど、あいつって足が治ったのがうれしいのかすぐに高いところに飛び上がって、そのまま俺かテムスのところにダイブしてくんだよな」
竹下、ほんとに嬉しそう。
「大人のネコくらいの大きさだって言ってましたよね。大変じゃないんですか?」
「俺はそこまでないけど、テムスがよく転ばされてんな」
それがまた小さい子がネコと転げまわっているようで可愛いんだ。
「カァルくんもソルさんのところに慣れたようですね」
「うん、家族だけでなくて村の人も可愛がってくれるから、居心地がいいみたい」
村では羊を飼っているし、子供だと言っても肉食獣だしで嫌われるかなって心配してたけど、みんな神様の使いだと言って受け入れてくれた。
「僕も早くカァルくんと遊んでみたいです。そうだ、お二人とも聞いてください。今日もまたたくさんの誰かと一緒に道を歩いている夢を見ましたよ。きっとあちらの僕がソルさんのところに向かっているんです」
うん、きっとそうだ。
「海渡、週末は大丈夫?」
「はい! 楽しみにしています」
僕も楽しみ。
「竹下は?」
「俺もお邪魔しようかな。あちらでは意外と話ができねえんだよな」
カイン村の掟の一つに、未婚の男女が二人っきりになってはいけないというものがある。だからテムスに協力してもらって三人で行動するようにしているんだけど、テムスの前では話しにくいこともあるわけで……
「わかった。お母さんに言っとくね」
〇5月27日(土)地球
土曜日の夜、お風呂を済ませた僕たちは、眠くなるまでテラのことについて話すことにした。
「それで誰が橋を作ったのかわかったのですか?」
「それがね。ユティ姉に聞いたら、橋自体はかなり昔からあるらしくて誰が作ったのかはわからないんだって」
「昔からですか……もしかして、鉄筋かなんかで出来てるんですか?」
はは、そう思うよね。
「まさか、れっきとした木造だったぜ。それでどうしてんのか聞いてみたら、普段は補修ですませているみたいだけど、ある程度傷んだら架けなおすんだってよ」
「か、架けなおしですか! それって、他の場所でも橋を作れるって事になりませんか?」
そう言うことになると思う。
「テラって、文明がものすごく遅れていたんじゃ……」
「ああ、遅れている。あっちの技術を考えたらあの橋があるのはありえないと思う」
「そんなに立派な橋なんですか?」
「地球のに比べたらちゃちなんだけど、とにかく――」
竹下はユーリルの記憶に残っている橋のことを話してくれた。
「馬車が渡れるように……そういえば先日もそうおっしゃってましたね」
「ああ、人や馬が渡るだけなら橋脚に丸太を渡すだけでいいんだけど、そこにはわざわざ板が敷いてあったんだよな」
幅も馬車が十分通れるくらいの広さがあったみたい。
「テラにはまだ馬車が存在していないのに……疑問符が浮かびますね」
「だよね。それで、もしかしたら僕たちよりも前に地球とテラとで繋がっている人がいたんじゃないかって、ユーリルと話していたんだ」
「樹先輩以外にも?」
「ああ、そいつはいずれ馬車も作るつもりだったのかも知れねえけど、何が事情があって橋だけしか残せなかった」
テラは地球と違って、医療は発達してないし盗賊が跋扈するような世界。その人もテラを良くしようとしていたのかもしれないけど、志半ばで死んでしまった……とか。
「それで、橋だけはバーシの人たちが守り続けているってわけですね」
「あくまでも、俺と樹の予想だけどな」
「過去のテラのことを調べるのも面白そうです。それで、工房の方はどうなりましたか?」
「設計を変えてレンガが倍必要になったことは話したよね。それの目途がようやくついたから、村の人にも手伝ってもらってこの前からどんどん積み上げていっているんだ」
何もなかったところに建物が形作られていく。それも自分たちの工房。ほんとワクワクするよ。
「おぉー、もうすぐできるんじゃないですか?」
「あと一週間かかるかどうかくらいだな」
「出来上がったら教えてくださいね」
「もちろん。さてと、そろそろ寝ようか。布団敷くから手伝って」
僕と海渡の布団を隣同士に並べ、二人で手を繋ぐ。
「樹、海渡、手は繋いだか?」
「うん、大丈夫」
「しっかり握ってます!」
「よさそうだな、電気消すぞ。おやすみー」
僕の右手に握られた海渡の手はいつものように温かだった。




