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第193話 ボクは樹が学生でも平気だよ

「それでね、医者にはなれないけど……」


 みんなの話を聞きながら、思い浮かんだことについて話してみる。


「なるほど、薬学部か。それなら薬師にぴったりだね」


「うん、テラは地球と植生が似ていると言っても一緒ってわけじゃないから、どの植物が安全なのかどんな効能があるのかを調べる方法を勉強してもいいかなって」


 テラで再現できる方法で正確な情報を得るには、地球での深い知識が必要だと思う。


「そういうことであるのなら……ふむふむ、樹先輩も僕たちと同じ理科Ⅱ類を受験されたがよさそうですね」


 海渡がスマホで調べてくれた。


「ちゅうことは……樹の成績なら二年で特進科にいけるだろうし、三年で俺と同じ理系を選択したらいいわけだな」


「はい、ただし樹先輩は生物を必ず取ってくださいね。授業が生物化学寄りらしいので」


 なるほど、生物ね。


「そうなると、樹先輩の大学卒業後のお仕事は薬剤師さんですか?」


「おっ、薬剤師ならおじさんに雇ってもらえそうじゃん」


「いや、ここでは薬を出してないから無理だよ」


「あっ、そういえば処方箋だけもらって薬は近くの薬局に買ってたっけ」


 昔はうちの医院でも薬を出していたみたいだけど、医薬分業をしないといけないとかで今は調剤薬局さんに任せている。


「それでは、薬屋さんを開かれますか? 僕、買いに行きますよ」


「たぶんだけど、薬局はしないと思う。せっかくなら、新しい薬を作ってみたいんだ」


 テラでも使うことができるかもしれないからね。


「薬を作るとなると……ふむ、製薬会社でしょうか」


「他にも、大学に残って研究するって手もあるぜ」


 うんと頷く。


「どうしたらいいかをお父さんに相談してみようと思うんだ」


「だな。おじさんなら、そのあたりの事情にも詳しいはずだもんな」


 お父さんも今年で50歳。大学時代のお友達の中には、おっきな病院の部長さんとか院長先生とかもいるらしくて、いろいろな情報が手に入るらしい。


「あのー、ちょっといいですか?」


 凪ちゃんから手が上がる。


「どうしたの?」


「確か、薬学部は6年間通わないといけないのではなかったですか? 風花先輩とのご結婚が……」


「あ……」


 そういえばそうだったかも。


「ボクは樹が学生でも平気だよ」


「えーと、それは、先に卒業した風花が働きながら樹を養うってことか?」


 風花がグッとサムズアップ。


「だから、樹は心配しないで進みたい道を歩いていって」


「あ、ありがとう」


 風花の気持ちは嬉しいけど、さすがにお父さんたちを説得するのは難しいだろうな。風花には悪いけど、結婚の時期を……


「ちょっと待ってください。樹先輩は薬剤師になることが目的でなくて研究がメインですよね」


「う、うん」


「それなら大丈夫です。東京大学薬学部薬科学科なら4年制みたいですよ」


 僕もスマホで調べてみる……ほんとだ。


「予定通りにいけそうだね。それでもし樹が大学に残って研究を続けたいのなら、その時はボクが卒業まで面倒をみるよ」


 それだったらお父さんたちも認めてくれるかも。


「さてと、話がまとまったところで、今一度、皆さんの進学先とやりたいことを整理してみますか。まずは竹下先輩から時計回りに」


「それは構わねえが、お前……」


 海渡が受験勉強は明日から頑張りますって顔してる。


「まあいい。俺はテラの建物をよくしたいから工学部だな。こっちでは建設会社、特に風花のおじさんのところが気になってる」


 テラの建物はレンガを積んだだけだから、ちょっとの地震でも建物が崩れてしまう可能性がある。竹下が耐震化とか免震化とかの知識を得てくれたら、ユーリルとパルフィがうまいことテラで再現してくれるはずだ。


「秋一おじさんも竹下くんが来るのを楽しみにしているみたいだよ。…………ん? あっ、時計回りなら次はボクか。ボクは根っからの行商人だから経済学部で色々と学んでみたい。こっちでも何か商売に関する仕事をしたいかな」


 これから硬貨を普及させていくときに、風花が学んでくれる経済や景気のことが役に立つはず。

 さてと、次は僕だけど……


「樹先輩は先ほどお聞きしましたので、次は凪ちゃんお願いします」


「はい、僕は農学部に入って、どうしたら効率的に作物を育てることができるかを知りたいです。なので、こちらでも農場をやって経験を積んでいきたいと思っています」


 糸車のおかげで時間的な余裕ができてきて、畑を広げようとしている人たちが増えてきている。今はまだ大丈夫だけど、水や肥料の問題が出てきた時に凪ちゃんが灌漑とか輪作の方法とかを指導してくれたら、無駄な争いは避けられると思う。


「最後は僕ですね。僕も農学部ですが、僕の場合は発酵とか諸々のことを研究してテラで味噌とか醤油などを再現したいです。実家の惣菜店はお兄ちゃんが継ぐことになってますので、こちらでのお仕事は食品会社とかでしょうか」


 ほんの少しの塩味だけだったテラでの食事、やっと砂糖が使えるようになってきたけどまだまだ味気ない。日本食まではいかなくても、それに近いものが食べられるようになったらみんなの楽しみも増えると思う。


「あとは東京のお二人ですが……」


「穂乃花さんは理学部で卒業後も大学に残って研究すると思うが、問題は暁だな」


「はい、以前は教育学部だったのですが、今は法学部に変わっておられます」


 僕の志望と被っていたから、一緒じゃなくてもいいかって変えたみたい。


「大学卒業後は、弁護士と悩んで結局警察官になるんだっけ?」


「はい、そうだったはずです」


「先生になりたいわけじゃないと言っていたから大丈夫だと思うが、暁にも伝えておいた方がよさそうだぜ」


 確か今日は裏の仕事があるって言っていたから……


「あとで電話してみるよ」

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