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第191話 スポン! はぁ、羨ましい。

〇(地球の暦では1月25日)テラ 土の日



「あうぁ」


 ルーミンに抱っこされた小さな赤ん坊が、私の方に手を伸ばしてきた。

 そっと手を握る。ふふ、おてても小さい。可愛い。


「不思議。いつもは人見知りするのに、二人にはこんなに慣れて……」


 二日目に診察をしたヘルガが、元気になったと言って赤ちゃんを連れてやってきてくれたんだ。


「年が近いからかもですね。よっと」


 ルーミンは、赤ちゃんがずり落ちないように抱えなおしながら答える。


「年……そういえばこの子、生まれてから若い子に会ったことあったかな……」


 ヘルガが指を折っているけど、5本の指で足りそう。バーシもカインと同じ時期に、流行病で小さい子供とお年寄りが亡くなったらしいからその影響かも。


「男の子ですし、若い女の子がお好きなのでは?」


「あ! きっとそうだ」


 ヘルガに年を聞いてみたら私より一つ上だった。そんなのすぐに仲良くなっちゃうよ。


「この子、今、三か月ですか。それで、産むときはどうでした? 私のお母さんはスポンと出たと言ってましたが……」


 なるほど……ルーミンの家はお母さんのお産が軽かったのも、子だくさんになった要因の一つなのかもしれない。


「スポン! はぁ、羨ましい。あの時はとにかく痛くて痛くて堪らなくて……」


 パルフィの妊娠によって出産について考えることが多くなった私たちは、ヘルガの体験談に耳を傾ける。


「いつまでたっても痛みは引かないし赤ちゃんは出てきてくれないしで、お義母さんにもう無理だって言っちゃったの、ごめんなさいって……」


 私も何度か出産のお手伝いをしたことがあるけど、あまりに辛すぎて泣き出す人も確かにいた。


「う、うえーん……」


 おっと、赤ちゃんがぐずりだした。


「あ、たぶんお乳だ。こっちにいい?」


 ルーミンが赤ちゃんをヘルガに渡す。


「そ、それで、どうされたのですか?」


「お待たせ。はい、よーし、よーし……えーと、頭をね、お義母さんから結構な勢いで叩かれちゃった。私は変わってあげられないんだからしっかりしなさいって」


 ヘルガは赤ちゃんにお乳を飲ませながら……うわ、ぐびぐび飲んでる。お腹が減ってたんだ。

 なんだっけ……あ、そうそう、出産はお母さんが頑張るしかない。カインでお産がある時も、ミサフィ母さんが声を掛けてお母さんたちを励ましている。途中でやめてしまったら母子ともに命に関わるからね。


「それで目が覚めて、必死になっていきんでたら、やっとこの子が生まれてきてくれたの」


「素晴らしいです。生命の神秘です! 難産の末に初めてお子さんをご覧になられたときの感動、このルーミン、想像するにかたくはありません!」


「か、難く? 難しい言葉を知っているのね。いやそれが、疲れちゃってとにかく休ませてくれって感じでさ、この子を抱いたところまでは覚えているんだけど、気が付いた時は体を洗ってもらってキレイになったこの子と一緒にならんで寝てたんだ。それからかな、嬉しさが込み上げてきたのは」


 ヘルガは優しい目で赤ちゃんを見つめている。


「だからソル、病気を治してくれてありがとう。あの時は不安で不安でたまらなかった。この子に会えなくなるんじゃないかって……」


 首を横に振る。


「それはヘルガの力だよ」


「ふふ、そういうことにしといてあげる。っと……」


 お腹いっぱいになったのか、赤ちゃんはヘルガのお乳から口を離した。


「はい、トントン……それで、二人はいつ結婚するの?」


 ヘルガにそれぞれのパートナーについて話す。


「ルーミンは来年か、ジャバトくんが15歳なら仕方がないね。でもソルの相手のリュザールって、この村の隊商にいた黒髪の子でしょ。カインでも結婚できる年齢じゃないの?」


「あ、うん、そうなんだけど、暖かくなったら二人であちこちを回らないといけないんだ」


「あちこちって、ここにも?」


 うんと頷く。


「何をしに……あ、いけない。もう、帰らなきゃ」


 ヘルガは寝てしまった赤ちゃんをそっと抱えなおす。


「二人とも明日までなんだね。せっかく友達になれたのに……」


「ごめんね、病気がおさまってきたから帰らなきゃ。バーシに来た時はヘルガのところに寄るからさ、ヘルガもカインに来て、お風呂もあるんだ」


「お風呂? なんか聞いたことある。そっか、それもソルたちのところなんだ」


 あれ? お風呂のことは結構広まっていると思っていたんだけど……


「よし、この子がもう少し大きくなったらカインに行ってみる」


 そしてヘルガは、またねといって診察室を出ていった。


「ふう、とても勉強になりました。お産って本当に大変なんですね……」


「ルーミンは出産に立ち会ったことないの?」


「はい、下の弟たちの時はまだ小さかったですし、ビント村ではベテランのお母さんたちが多くて出番はありませんでした」


「それじゃ、パルフィが初めてなんだ」


 ユティ姉の出産の時にルーミンはいたけど、手伝ってもらえるほど体ができてなかったんだよね。


「そうなんです。それで、間違いがあっては大変なので地球で調べてみようと思ったのですが、詳しい情報がなかなか無くて……ですので、今日のヘルガさんの話はとてもありがたかったです」


 ほんと、地球ではなんでも調べられそうなんだけど、センシティブな内容……特に男性が女性のことについて調べるのは骨が折れるんだ。


「さてと……」


 絨毯の外を覗いてみる。誰もいない。そろそろ日が影ってくるし、もう来ないかな。


「患者さんも終わったようだから、父さんのところに行ってみるね」

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