第19話 やっぱり大事そうにしてた?
「荷馬車ですか? 西部劇なんかで出てくるやつですね」
「西部劇は幌馬車じゃなかったか。まあ、馬で引くんだから同じようなものだけどな。俺さ、あっちと繋がって気が付いたんだけど、生まれてからこの方一度も荷馬車に限らず馬車というものを見たことが無いんだよ。そこそこ大きな町の隊商宿で見なかったんだから、たぶんあっちに存在しないと思うんだ」
そういえば僕も見た覚えがないな。
確かに荷馬車ができたらこれまで以上に荷物を運べるようになるから、お米だってお願いしやすくなると思うけど……
「使えるの?」
馬は体が通れさえすれば細い道でも大丈夫だし、ある程度の段差なら登ったり降りたりできる。でも、荷馬車は道が整備されてないとダメじゃないかな。
「コルカからカインに来るまでの間、セムトさんたちと一緒に歩いて来ただろ。あの道ならいけると思うぜ。途中にある大きな川にも立派な橋が架かっていたから心配ない……というか、あの橋って誰が作ったんだ。樹、知ってる?」
「橋ってどこ?」
「バーシの先」
バーシって隣村じゃん。でも聞いたことが無いよ……
「僕は知らない。バーシはユティ姉が生まれたところだから今度聞いてみよう。それで、荷馬車は作れそうなの?」
コルカまで行けるのなら十分役に立ちそう。
「物理法則が違って車が回らないというわけでもないみたいだから、たぶんいけるんじゃね」
糸車の車部分はちゃんと回るから、荷馬車の車も回るということかな。というか、物理法則がどうとかって考えたことなかった。一応違う世界だから、そういう可能性もあったんだ。
「もしかして、荷馬車を調べるためにパソコンを使ってた?」
「そうそう、最初はちゃんとそれを調べていたんだけど、結構あっさりと模型が見つかってさ。それを買うようにしたら時間が余っちゃったんだ」
さっき海渡は、竹下が驚いて頭をぶつけてたって言っていたよね。荷馬車を調べていたくらいでそうなるかな……
「先輩、それってあくまでも模型ですよね? 耐久性とかどうなんですか?」
「それは見てみないと何とも……サイズを大きくしただけでいいのなら楽なんだけどな。まあ、そうじゃなくても構造がわかったらあとは自分でやってみるさ」
竹下の頭なら上手くやってくれるだろう。
「荷馬車ができたら隊商の人たちは喜ぶよ。でも、麦が集まってくる問題はどうするの?」
糸車を一つ売るたびに工房には麦が三袋ずつたまっていく。それを米に代えたとしても、結局は場所を取って保存に気を付けないといけないのは一緒だ。
「やっぱり硬貨がいるよな。素材はなんだったっけ?」
「ちょっと待ってください……日本で使われているのは銅、ニッケル、亜鉛、すずにアルミニウムですね。あとは銀貨とか金貨とかも聞いたことがありますよ」
海渡がスマホで調べてくれた。
「その中で俺がテラで見たことがあるのは銅と銀、それに金か。もしかしたら、ニッケルもあったのかもだけど、あっちでなんて呼び名なのかはわからない」
「金があったの?」
「ああ、隊商宿の客から一度だけ見せてもらったことがあるぜ」
ほぉー、僕は死んだおじいちゃんが大切にしていた、ご在位うん十年記念の金貨しか見たことないよ。
「やっぱり大事そうにしてた?」
「いや、そいつは珍しいものがあるんだってみんなに見せて回ってた。見てた奴らもほぉーすげえなって言って終わり。俺たちは金が高いものだって知っているけど、あっちじゃただのキレイな石だからな。わざわざそんなもののために大事な麦を使わないって」
それもそうだ。みんな食べるのに一生懸命なんだから、金なんて持っていても仕方がない。
「それでは今のうちに金を集めますか? 大儲けできますよ」
「うーん、たぶん集めることはできると思うけど、持っててもな……まずはみんなが十分食べれるようになるのが先だろう」
そうそう。金ではお腹が膨れないよ。
「それで硬貨が必要なのはわかったけど、どうするの?」
「まずは、素材となる銅や銀を集める」
「集め方は?」
「糸車を隊商に売るときに、一部を麦の代わりに銅とかの鉱物にしてもらうんだ。それなら麦だけよりも嵩は減るし、ねずみに食べられる心配はなくなる」
確かに。
「竹下先輩、ちょっといいですか。硬貨ってこんな感じですよね」
海渡は自分の財布の中から500円玉を取り出した。
「たぶんな」
「テラでは、今まで麦を使ってこられたのでしょう。いきなりこんなもの渡されて、みんなわかってくださるでしょうか? 僕が同じ立場だったら、一生懸命に作ったお総菜を売るのに、こんなわけのわからないものを差し出されても困ってしまいます」
ほんとだ。僕たちはこの500円玉は500円の価値があるとわかっているけど、あちらの人たちに麦と同じ価値があると言っても理解できないかもしれない。
「うっ……そ、それは追々考えていこう」
セムトおじさんや父さんたちと相談しながらやる必要がありそうだ。
さてと……
話が落ち着いたのを見計らって、そっとパソコンのところに移動する。
履歴は……ははぁーん。これを見てたんだ。
「ねえ、竹下。どの子がいいの?」
「あ、右の子」
やっぱり。
「何がですかぁ」
海渡もやってきて画面を眺める。
「あー、竹下先輩なら右の子一択ですね。年上だし、巨乳だし。で、さっきはこれ見てたんですか?」
「う、うん」
ふふん、僕は知っているんだ。これはダミーだって。
ちょいちょいっと……
「うっ、うわ! エッチぃサイトじゃないですか。すごい! こ、これ、まんま見えてますよ! お、女の子のここって、こんなになっているんですね……」
「うそ! ちゃんと履歴消したのに……」
「樹先輩なら履歴消したくらいじゃすぐに見つけちゃいますよ。むっつりですから、こういうの探すの得意なんですって」
むっつりって……
「そうだった。うっかりしてた」
そうだったって……
「ご、ごほん。竹下くん、こういうサイトは危ないから見ないようにって言っているよね」
「ごめん。好奇心に勝てなかった」
好奇心というか性欲じゃないかな。
「ちょうどいい、海渡もそこに座って。二人に指導してあげる」
「なんで僕も……」
「海渡もエッチなことに興味出る頃でしょう。知っといて損はないから、ほら!」
「海渡、諦めろ。樹が言い出したら止められん」
「とばっちりだ! 竹下先輩のせいですよ」
「そこ、うるさい! 始めるよ。まずはurlが――」
「樹、もう十分わかったから、そろそろ勘弁して……」
あ、もうこんな時間だ。
ふぅ、思わず熱が入ってしまったよ。人に教えるって楽しいね。