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第186話 絶対! 絶対! 絶対に!

 初詣をすませた僕たちは、凪ちゃんの家に向かうことになった。いつもなら、用事を済ませた後は海渡と凪ちゃんとは別々に行動することが多いのだけど……


「ほんとに、僕まで行ってよかったの?」


「はい! 母からも是非にと言われてますので、遠慮しないでください」


 凪ちゃんのお母さんからのご指名なら仕方がない。僕の両親もみんなの親御さんもそうだけど、いつも僕たちの好きなようにさせてもらっているから、頼まれごとがある時はできるだけ応えるようにしているんだ。


「Frohes neues Jahr!」


 風花が住むマンションの道を挟んだ向かい側に、凪ちゃんの住むマンションがある。そのドアを開けた途端、異国の言葉が耳に届いてきた。


「「フローエス ノイエス ヤー!(あけましておめでとう!)」」


 こうなることは分かっていたので、さっき凪ちゃんに聞いていたんだ。ドイツ語で新年の挨拶はどう言うのかって。

 凪ちゃんのお母さんのフリーデさんは生粋のドイツ人。結婚してからずっと日本に住んでいて日本語も普通に話せるんだけど、たまにわざとドイツ語で話しかけてくることがある。日本生まれ日本育ちの凪ちゃんが、ドイツ語を話すことができるのはそのおかげかも。


「二人ともよく来たね。入って入って」


 リビングに入るとテーブルの上に三段重と大きな鉢に入ったお煮しめ、そして人数分の取り皿が並べられていた。


「お腹減ってないかもしれないけど、中山さんに習ってこちらのおせちを作ってみたの。よかったら食べてもらえないかしら」


 海渡を見る。


「はい、お母さんも味付けが上手だと感心してました」


 おぉ、そうなんだ。

 せっかくなのでお呼ばれすることにしよう。


「それでは……」


 フリーデさんが広げたお重の中にはエビ、鯛、数の子、紅白のかまぼこ、黒豆、栗きんとんといった手のかかりそうな料理が綺麗に盛り付けられていた。


「すごい。お店のみたいです」


「ありがとう。凪にも手伝ってもらったのよ」


 ふふ、凪ちゃん照れてる。今度ジャバトに何か作ってもらおうかな。


「それでは早速……あ、ちょっと待って」


 さらにフリーデさんは、新鮮なお刺身の並んだ大皿とクジラやナマコの入った小鉢を冷蔵庫から出してきた。まさに、こっちのお正月って感じだ。


「お刺身はヒラス(ヒラマサ)ですか?」


「さすが樹くん、魚には詳しいのね。中山さんに頼んで美味しい魚屋さんを紹介してもらったの。自分で切ってみたのだけど、どうかしら?」


 お刺身までも……ヘタな人だと身がつぶれちゃうんだ。


「とてもきれいで、美味しそうです」


「よかった。ささ、食べて食べて」


 どれから食べよう。いろいろあって、目移りしちゃうよ。






「お腹いっぱい」


 食事の後、凪ちゃんの部屋で一息つく。


「僕もですぅ。お雑煮も具だくさんで甘めの仕上がり、お代わり不可避でした」


「お母さんも、お二人の食べっぷりに喜んでいました」


 あんなに美味しかったら、思わずあれもこれもと手が伸びてしまうよ。


「あれだけ品数、フリーデさんも作るの大変だったんじゃない?」


「大変は大変だったみたいですが、今、お父さんがいないでしょう。お母さん、お二人に食べてもらうんだって張り切ってました」


 凪ちゃんのお父さん、風花のお父さんの春二さんと同じ会社に勤めるプラント技師さんで、インドネシアの工場建設のために3月までの長期出張中なんだって。


「ふぅ、それにしても、今日は無事に大役を果たせたし、美味しい料理も食べられて大満足のいいお正月でした」


 お茶をすすりながら海渡が呟く。


「うん、みんなの代わりに初詣ができてよかったよ」


 東京組は、穂乃花さんの入試が終わるまで人が多いところを避けるみたいなので、僕たちがみんなの分まで初詣をすませてきたんだ。最初は、テラのことを地球の神様に頼んでいいものか迷ったけど、もしかしたら僕たちと同じように繋がっている神様がいて願いを叶えてくれるかもしれない……ということで、こちらとあちらのみんなの健康、穂乃花さんの入試、そしてパルフィの出産がうまくいきますようにってお願いしてきた。特にパルフィは双子かもしれないから、念入りにね。


「それで、外での話の続きですけど、カイコを見つけたら飼うのですか? さっき調べてみたら桑はカインの気候でも育つようです」


「え? うん、将来的には他の村にお願いするつもりだけど、まずは飼い方を自分たちで試してからかな」


 改めてこの話を持ち出すってことは、もしかして……


「凪ちゃん、そんなにあちらの僕たちに着物を着て欲しいのですか?」


 そう勘ぐってしまうよ。


「あー、まあ、それもありますけど、絹の下着とか作って差し上げたら奥様方も喜ばれるのではないかと思いまして」


「絹の……」


「下着……」


 海渡と顔を見合わせる。

 ゴムが無いのでテラの下着は、男性も女性も長めの生地に紐がついた……地球のふんどしに近いかな。それで大事な部分を覆っているという感じで、色気とかは全くない。さすがに女性用は何とかしようと思ってはいるんだけど、僕と海渡に女物の下着についての知識はほとんどないからなかなか進んでいないのが実情だ。


「高級そうなイメージはありますが、わざわざ絹で作る意味はあるのでしょうか? あの光沢、履いてて、落ち着かなさそうな気が……」


「そんなことは……あ、ちょっと待って」


 凪ちゃんは立ち上がってタンスの方に移動した。

 まさか……


「確かここに……あった!」


 こちらを振り向く凪ちゃんの手には、光沢のある白っぽい布が握られている。


「それって、パンティですよね。いいのですか?」


「はい。これは使ったことがないので汚くないですよ」


 そういう意味じゃないんだけど……


「お二人はこういうのを触るのは嫌ですか?」


 海渡と一緒にブンブンと首を横に振る。

 テラの下着を変えるには、地球の下着の形状を参考にした方が手っ取り早いのはわかっている。ただ、男の僕たちが女性用下着コーナーに入ってあれこれ調べるのはさすがに問題が……ここは、風花たちに頼むしかないと思っていた矢先のこの話。見せてもらえたらほんと助かる。


「凪ちゃんは恥ずかしくないの?」


「他の人なら嫌ですが、お二人は同じ女の子組じゃないですか。遠慮しないで見てください」


 そういうことならと、凪ちゃんからフリルのついた絹のショーツを受け取る。


「可愛らしいですね」


 海渡が覗き込んできた。


「肌触りもどうぞ」


 手で触ってみる……うん、すべすべしてる。なんか気持ちいいかも。


「先輩、僕に貸してください」


 海渡は僕から受け取ったショーツを顔のところに持っていき……あっという間に、女性用下着に頬ずりをする変態男子中学生の完成だ。


「えへへ、肌触り抜群ですぅ」


 さらに海渡は、立ち上がってショーツを自分の下半身に持っていく。

 ま、まさか……


「どうですか?」


 海渡はショーツの横を両手でつまんで、ズボンの前にかざして見せた。さすがに履かないか。驚いたよ。


「ふふ、可愛いですよ。今度……」


 凪ちゃんに対し、こくんと頷く海渡。二人っきりの時のお楽しみなのかな。


「さてと、おふざけはこの辺にして……ふむふむ、こうなっているんですね」


 改めて、ショーツの構造を確認する。生地の厚さはどうなっているのかとか、縫い目がどこにあって目立たなくさせているのかとかを、ちゃんと覚えないとコペルに伝えられない。


「凪ちゃん、他にはどんなデザインのものがありますか? フリルが付いていないのも見てみたいです」


「他のですか……お、お二人だからお見せしますが、絶対! 絶対! 絶対に! 匂いとか嗅がないでくださいよ」


 つまり、これから出てくるものは凪ちゃんが使用中のもの……

 海渡と二人でコクコクと頷く。

 わかってる。ソルの下着でそんなことされたら、たとえ洗っていたとしても僕だって恥ずかしくてどうにかなりそうだもん。

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